サンライズ制作によるOVA。
1989年3月から同年8月にかけて全6話が制作された。
「戦争と向き合う等身大の人間」をテーマにOVAで展開された、人気ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズ初のビデオ用作品。
中立のサイド6、リボーコロニーに住む、本来ならば戦争とは無縁であり、戦争ごっこや兵器に無邪気に憧れる普通の男の子だった少年アルが、連邦軍の新型兵器を追ってやってきたジオン公国軍・サイクロプス隊の隊員・バーナード・ワイズマンと出会うことをきっかけに、アルの目を通じてジオン公国軍対連邦軍という戦争が映されていく。
これまでOVAでガンダムシリーズと言えば『機動戦士SDガンダム』シリーズが番外編としてリリースされてきたが、劇場公開作品『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』において、一連のガンダムサーガが一つの区切りを迎えたことに加え、サンライズのテレビアニメにおけるリアルロボット路線からの撤退やOVAブームの加熱などがきっかけとなり、一年戦争の時代を背景に、富野由悠季の手を離れた形でのガンダム作品を作り出すことが決定した。
注目されたスタッフ人事については、監督に『超時空要塞マクロス』の演出で知られる高山文彦を起用。モビルスーツ戦では従来のシリーズとは一線を画すバイオレンスな要素を取り入れるなどの奇抜な演出を盛り込んだ。
作品構成には作家の結城恭介、脚本にはクオリティの高い作品を作り出すことで知られるガイナックスの山賀博之を起用。モビルスーツではなく、あくまで「一般人から見た戦争、モビルスーツ」という観点に徹底し、一人の少年を戦争という現実に向き合わせることによる成長を描ききった。
キャラクターデザインには『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザインや、ガンダムシリーズの小説の挿絵で知られる美樹本晴彦を起用。作画統制を徹底し、美樹本晴彦の繊細なタッチを損なわないよう各話配慮がなされている。
また、音楽担当にはムーンライダーズのかしぶち哲郎を起用。大森一樹監督作品の常連である彼が作り出した劇判は、戦争よりも人間ドラマに特化した本作を引き立てるため、非常に落ち着いたものが多いのが特徴。
作品自体については、これまでのシリーズの花形であったモビルスーツ戦やパイロット等兵士同士の掛け合いを極力抑え、一般人・アルとジオン新兵・バーニィを中心とした人間ドラマに徹した作りとなっている。「ガンダム」の名を冠している割には、本作に登場するガンダム「RX-78NT-1 ガンダムNT-1 (通称:アレックス)」のインパクトも弱い。ファンの間からは「ガンダム作品」としての評価か「人間ドラマ」としての評価かに分かれるため、好き嫌いが極端になる場合が多い。
本作の製作を機に、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』など宇宙世紀のサイドストーリーを描くOVAシリーズが続くこととなる。
一年戦争末期。地球連邦軍は新造艦・ホワイトベースとモビルスーツ・ガンダムが驚異的な戦果を挙げ、オデッサでの戦闘をきっかけにジオン公国軍とのミリタリーバランスを互角にまで持ち返し、ジオン軍の要塞であるソロモン攻略のための準備段階へと入っていた。その一方で、連邦軍はガンダムのパイロットであるアムロ・レイの驚異的な能力に着目。アムロを「ニュータイプ」と位置づけ、全天球モニターなどの新要素を導入したアムロ専用の新型ガンダムの生産に着手していた。
その情報を嗅ぎつけたジオン軍は、新型ガンダムの生産を阻止するべく特務部隊「サイクロプス隊」を地球へ降下させた。0079.12.9、シュタイナー・ハーディ(秋元洋介)率いるサイクロプス隊は新型ガンダムを生産している北極基地を襲撃。サイド6へ輸送される直前での戦闘であったが、サイクロプス隊は新型ガンダムを破壊に失敗し、更には隊員であるアンディ・ストロース(星野充昭)を失ってしまうのだった。
サイド6のコロニー「リーア」に住む少年、アルフレッド・イズルハ(浪川大輔)はモビルスーツと戦争が大好きな10歳の男の子。一年戦争という時代にあっても、どこか他人事のように戦争に憧れを持つ少年だ。
クリスマスも目前となった12.12、商用に偽装した連邦軍のシャトルがサイド6に入港する。中身は新型のガンダムだ。そのことを知ったアルは興味津々。早速宇宙港でガンダムを撮影しようとするも、入港管理局の職員である父、イームズ・イズルハ(筈見純)によって追い返されてしまう。不貞腐れたアルであったが、その帰りに幼馴染で連邦軍兵士であるクリスティーナ・マッケンジー(林原めぐみ)と再会する。クリスはガンダムのテストパイロットとしてサイド6に赴任したのだった。
翌朝、アルにとって驚くべき事態が発生する。なんと、ジオン軍がサイド6の内部に侵入し、連邦軍とのモビルスーツ戦を展開したのだ。戦争という現実、命の不安……コロニーの住人には様々な恐怖が降りかかるが、アルはその一方で初めてモビルスーツを生で見たことにある種の興奮を覚えていた。
交戦中のモビルスーツのうち、一機のザクが人気の無い公園へと墜落した。好奇心から現場へと走るアル。墜落したザクを見て興奮し、必死に写真に撮るアルであったが、そこにはアルに向けて銃を構えるジオン兵、バーナード・ワイズマン(辻谷耕史)がいた……。
話数 | サブタイトル | 脚本 | 絵コンテ | 演出 | 作画監督 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 戦場までは何マイル? | 山賀博之 | 高山文彦 | 高松信司 | 斉藤格 |
2 | 茶色の瞳に映るもの | 山賀博之 | 甚目喜一*1 | 横山広行 | 窪岡俊之 |
3 | 虹の果てには? | 山賀博之 | 高山文彦/高松信司 | 高松信司 | 川元利浩/富沢和男 |
4 | 河を渡って木立を抜けて | 山賀博之 | 高山文彦 | 横山広行 | 窪岡俊之/川元利浩 |
5 | 嘘だといってよ、バーニィ | 山賀博之 | 甚目喜一 | 高松信司 | 窪岡俊之/川元利浩/富沢和男 |
6 | ポケットの中の戦争 | 山賀博之 | 高山文彦 | 高山文彦 | 川元利浩 |
*1:佐藤順一