「あのころのことは皆昔話になって、 思い出してさえあまりに今と遠くて心細くなるばかりなのですが、 うれしい方がおいでになりましたね。 『親なしに臥《ふ》せる旅人』と思ってください」 と言いながら、御簾のほうへからだを寄せる源氏に、 典侍《ないしのすけ》はいっそう昔が帰って来た気がして、 今も好色女らしく、 歯の少なくなった曲がった口もとも想像される声で、 甘えかかろうとしていた。 「とうとうこんなになってしまったじゃありませんか」 などとおくめんなしに言う。 今はじめて老衰にあったような口ぶりであるとおかしく源氏は思いながらも、 一面では哀れなことに予期もせず触れた気もした。 この女が若盛りの…