みかどの笛に、京極殿の灯は更《ふ》けていた。 みかどは、古例の曲を吹き終って、 「ふつつかなお聞え上げを」 と、御父の法皇に一礼して御座へ返った。 ほっと夢幻から醒めたような息の白さが灯を霞める。 女房たちの座からは、 ふと、みかどの方へ笑みを流した花の顔が多い。 今を時めく寵妃とたれ知らぬはない 阿野 廉子《やすこ》などの艶姿《あですがた》であった。 女房の座には、その廉子のほか、 さきの妃《きさき》為子の妹|小大納言《こだいなごん》の君、 帥《そち》ノ典侍《すけ》、少将ノ内侍、尾張ノ内侍。 ——端には、夏引《なつびき》、今まいり、 青柳などとよぶ雑仕《ぞうし》までが、 こぼるる花かごのよう…