炭素税やエネルギー税などの経済的手段

西ドイツのある省庁を訪れて、環境担当の高官と話をしたときのことです。西ドイツは、地球温暖化の問題で、スウェーデンとならんで、もっとも熱心に大気安定化政策を進めていた国でした。一九九〇年一一月には、環境担当大臣が、二酸化炭素の排出量を、二〇〇五年までに二五%削減するという公式声明を出して、世界中から注目されました。また、地球温暖化に対して、炭素税やエネルギー税などの経済的手段をもって解決するために、EC諸国の間で、先導的な役割をはたしていました。しかし、一九九一年一〇月に、社会主義国だった東ドイツを統合してから、事情はまったく一変してしまったと、その高官はいうのです。

東ドイツの統合によって、西ドイツは大へんな経済的負担を背負うことになり、あらゆる種類の税を大幅に上げざるをえなくなり、環境政策に力を入れる余裕がなくなってしまったのです。そのとき、ドイツ政府の高官のいった言葉は衝撃的でした。自分たちは、四〇年間にわたる社会主義のもとで、東ドイツか、経済、社会、自然の面で大きく破壊されてきたことについては充分情報を得ていた。しかし、統合してはじめて、東ドイツで、人間の破壊が徹底しておこなわれていることを知った。自分には、かれらが同七ドイツ人だとは思えない。もし、西ドイツの人々が、このことを知っていたら、東ドイツの統合は決しておこらなかったであろうと。

じつは、ヨハネパウロニ世はポーランドの方です。ローマ法王としてヴァチカンにこられるまで、ずっとポーランドにおられました。ポーランドが四〇年間にわたって、社会主義のもとで苦しんでいるときに、ずっとポーランドに留まっておられたわけです。マルクスレーニン社会主義のもとでは、宗教の自由はありませんでした。宗教は阿片だとして、人々の心をたぶらかし、けがすものとされていました。ヨハネパウロニ世は、「社会主義の弊害」はそれこそ身にしみて感じられていたにちがいありません。

しかし、ヨハネパウロニ世は、ポーランドが、市場経済制度にあまりにもはやいペースで移ろうとしているのをみて、心を痛めておられたのです。ヨハネパウロニ世からいただいたお手紙のなかにも、「イズーキャピタリズムーオールーライト?」(資本主義は信頼してもよいのだろうか)という印象的な言葉がありました。「資本主義の幻想」を人々があまりにももちすぎるのではないかと、ヨハネパウロニ世は深く憂慮されていたのです。

一九九一年五月一五日、新しい「レールムーノヴァルム」が出されました。それは、「社会主義の弊害と資本主義の幻想」を主旋律として、公正で、社会正義にかなった世界を実現するために、私たちはいかに生きるべきかについて説かれたものです。「レールムーノヴァルム」が二十世紀への道を開いたと同じような意味で、新しい「レールムーノヴァルム」が二十一世紀への夢を与えるものになるのではないでしょうか。