クリーネ・スターと片側S行列
次の対応を考える。
力学 | 幾何学 | 状態遷移系 | DFD |
---|---|---|---|
配位空間 | 多様体 | 状態空間 | 離散空間 |
相空間 | 接バンドル | 仮想遷移の全体 | 完全グラフ=直積 |
力の場 | 接ベクトル場 | ラベル付き遷移 | 辺ラベル |
ラグランジュ関数 | 接バンドル上の適切な関数 | ? | 対数型加法的辺ラベル |
状態空間の点は状態点だが、状態空間で定義されたスカラー値関数を状態関数と呼ぶことにする。スカラーは状況に応じて適切に選ぶが、離散系のときは二値ブール代数をスカラーとすることが多い。
「状態点→状態関数」への一般化は、「質点→波や熱」、「決定性遷移→非決定性遷移」といった拡張に対応する。点をδ関数と同一視し、それをδ以外の関数(分布)にすることだな。質点の軌道(運動経路)は、分布(例えば波)の時間的な変化(伝搬現象)になる。
力の場は状態点だけでなく状態関数にも作用する。これは、状態関数の全体を表現空間と考えて、作用素環(半環)の表現になっている。Aが力の場なら、それは力学系の生成作用素であり、時間を進める駆動力でもある。Aを作用素環の元と見て、指数関数E(A, t) = exp(γAt)を作る(γは適当な定数)と、E(A, t)がAで生成された力学系の時間発展を与えることになる。E(A, t)はtに関して半群になっており、作用素の空間内で線形力学系を定める。
E(A, t)のtを∞にしたE(A, ∞)をS(A)と書くことにする(S行列のつもり)。S行列は、無限の過去と無限の未来を結ぶ変換らしいが、ここでは過去を考えないので、初期時点0と無限の未来を結ぶ変換とする。S(A)は、定義から、作用素の空間における吸引点、安定点になる。ただし、S(A)が存在するかどうかはAに依存する。
S(A)は、状態空間に作用する作用素で、状態関数φに対して S(A)φ はAの不動点である。なぜなら、A(S(A)φ) = [A・E(A, ∞)]φ = [E(A, ∞ + 1)]φ = E(A, ∞)φ = S(A)φ 。よって、S(-)は不動点演算子になっている。
以上の状況を離散空間/離散時間で考えると、半環値のラベル付き隣接行列Aに対して、それを力学系の生成作用素とみなせば、Aのクリーネ・スターが片側(未来のみ)のS行列に対応する。状態関数φにS(A) = A* を作用させた A*φ が 1+A の不動点となる。つまり、力学系Aにおいて、初期状態φから出発しての無限の未来=安定状態を与える作用素がクリーネ・スターとなる。