練馬区立美術館の三島喜美代展を見る(その2)

 東京練馬区練馬区立美術館で三島喜美代展「未来への記憶」が開かれている(7月7日まで)。三島喜美代は1932年生まれ、今年92歳になる。その非常に重要な回顧展になっている。三島は日常的な品物や新聞雑誌、ゴミ箱などを陶で作っている。それだけでもユニークで重要な造形作家だが、晩年に作っていた「20世紀の記憶」と題されたインスタレーションが素晴らしい! 今回(その2)は、レンガ・ブロックのインスタレーション「20世紀の記憶」以外の作品を紹介する。

(1964年)

(1971ー72年)

(1968年)

(1971年)

馬券と出走表のコラージュ

(以下1973-74年)陶製

(以下1978年)陶製

           

(1991-92年)陶製

(1975年)陶製

(1989年)陶、コンクリート

1984年)陶製

(以下2003年)溶融スラグ

(2022年)陶製

(2017年)陶製

(2021年)陶製


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三島喜美代展「未来への記憶」

2024年5月19日(日)―7月7日(日)

10:00-18:00(月曜日休館)

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練馬区立美術館

東京都練馬区貫井1-36-16

電話03-3577-1821

https://www.neribun.or.jp/museum.html

西武池袋線中村橋駅下車徒歩3分

 

練馬区立美術館の三島喜美代展を見る(その1)

 東京練馬区練馬区立美術館で三島喜美代展「未来への記憶」が開かれている(7月7日まで)。三島喜美代は1932年生まれ、今年92歳になる。その非常に重要な回顧展になっている。三島は日常的な品物や新聞雑誌、ゴミ箱などを陶で作っている。それだけでもユニークで重要な造形作家だが、晩年に作っていた「20世紀の記憶」と題されたインスタレーションが素晴らしい! 今回(その1)は、この「20世紀の記憶」を紹介する。

 これは1万個(10,600個)のレンガに20世紀の新聞を転写したものだ。それが2階の展示室一杯に拡がっている。圧倒的な印象だ。三島はこれを1984年から2013年の30年間にわたって制作している。

 これを見るだけでも練馬区立美術館に足を運ぶ価値がある。



 三島の初期から最近までのレンガブロック以外の仕事は、(その2)で紹介する。

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三島喜美代展「未来への記憶」

2024年5月19日(日)―7月7日(日)

10:00-18:00(月曜日休館)

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練馬区立美術館

東京都練馬区貫井1-36-16

電話03-3577-1821

https://www.neribun.or.jp/museum.html

西武池袋線中村橋駅下車徒歩3分

 

小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を読む

 小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)を読む。「はじめに」で、「ナチスは良いこともした」という議論が、定期的に繰り返されていると書き、それが本当かを丁寧に反証している。

 ヒトラーは選挙で勝ったから首相になったと言われることがあるが正確ではない。ナチ党が国会で単独過半数はおおろか、保守政党との連立によっても過半数を占めることはなく、ヒトラーの首相就任は議会の選出によるものではなかった。ナチスの権力掌握の過程では、選挙運動や宣伝活動と並行して、突撃隊などによる暴力の行使も大きな役割を果たした。

 ナチスの経済政策が不況にあえぐドイツをわずか数年で立ち直らせたと言われるが、アウトバーン建設は前政権を引き継いだもので、しかもプロパガンダ効果以上のものはなかった。失業者の減少は多くの若者が徴兵されたことと、女性を家庭に戻す政策の効果が大きかった。

 ヒトラーは戦争準備のために軍事支出を増大させた。1938年には軍事支出は11兆3千億円に達し、これは国家支出の61%にあたった。国家支出を平時にこれほど軍備へと振り分けた国は存在しないという。

 そのほか、労働政策や家族支援、環境保護政策など、「良いこと」とされるナチスの政策の欺瞞を次々と暴いてゆく。最近日本にも無縁ではない極右政党の宣伝やフェイクニュースに惑わされないために極めて有効なパンフレットだと思う。多くの人が本書を読んで学んでくれることを願うものだ。

 

 

 

東京オペラシティアートギャラリーの宇野亜喜良展を見る

 東京西新宿の東京オペラシティアートギャラリー宇野亜喜良展が開かれている(6月16日まで)。宇野亜喜良は有名なイラストレーター、1934年生まれなので今年90歳になる。平日の昼近くに美術館に行ったら、チケット売り場にすでに数十人ほどが並んでいた。美術館のスタッフに、今までこんなに観客が多い展覧会はありましたか? と訊くと、2年前の和田誠以来ですとの答えだった。なるほど、人気のあるイラストレーターは最強だなあと感嘆した。

ポスター



 会場に足を踏み入れると、壁一杯に作品が展示されている。膨大な数なのだ。宇野亜喜良の仕事は雑誌やポスターなどのイラストの原画が多いので、小品が中心になる。展示している数が半端ではない。

 最後に近い部屋にポスターが並んでいた。そこまで来て何だかホッとした。雑誌などのイラストの原画は美術館の展示にはそぐわないのではないか。1点1点は面白いのに、原画は小さくてそれが滅茶苦茶たくさん並んでいるので、美術館という空間で大勢の観客に囲まれて鑑賞するのが面倒になってしまう。多分、画集を見ればそれで良いのではないか。まあ、ポスターはその大きさもあって、広い空間で見る意味があると思うが。

 宇野亜喜良が初期に竹下夢二の影響を受けたというのがよく分かった。夢二の美人画をモダンにして成功している。夢二との違いは成熟した女を描かなかったことか。宇野亜喜良の少女趣味はサリンジャーと共通しているのが印象的だった。

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宇野亜喜良

2024年4月11日(木)―6月16日(日)

11:00-19:00(月曜日休館)

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東京オペラシティアートギャラリー

東京都新宿区西新宿3-20-2

電話050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.operacity.jp/ag/

 

豊﨑由美『ニッポンの書評』を読む

 豊﨑由美『ニッポンの書評』(光文社新書)を読む。豊﨑は書評家の第一人者、本書は15年前に光文社のPR誌『本が好き!』に連載したもの。15講に渡って書評に関するテクニックを詳しく語っている。私もブログで書評の真似事をしているので大変参考になった。ただ、豊﨑は小説を書評の対象としており、粗筋やネタばらしなどが話題になっている。小説を取り上げない私のブログとは多少違うかなと思った。

 さて、第12講に「新聞書評を採点してみる」と興味深いテーマが紹介されている。豊﨑が朝日新聞、読売新聞、毎日新聞東京新聞産経新聞日本経済新聞の6紙について、2009年4月26日に掲載された署名入りの書評を5段階評価(特A~D)で採点した。

 その結果、朝日:A3点、B5点、C3点、D1点。読売:特A1点、A5点、B3点。毎日:特A1点、A5点。東京:A4点、B1点。産経:B3点、C2点。日経:A1点、B4点、C1点となっている。

 特Aと評されたのは、読売新聞の小野正嗣デニス・ジョンソンジーザス・サン』(白水社)の書評、毎日新聞若島正入不二基義『足の裏に影はあるか? ないか?』(朝日新聞社)の書評の2冊、最低ランクのD評価は、朝日新聞江上剛タハール・ベン・ジェルーン『出てゆく』(早川書房)の1冊だった。

 このD評価というのは、「取り上げた本の益になっているどころか、害をもたらす内容になってしまっている」というもの。特A評価は、「もしかすると、取り上げている本を凌駕している可能性すらある傑作書評。トヨザキが100回生まれ変わっても書くことができないレベルの、わたしにとっては悔しい書評」というもの。

 さらに村上春樹『1Q84』について、さまざまな書評を読み比べ、5段階評価を示している。その結果、北海道新聞に掲載された黒古一夫の書評をC~Dとしている。

 いや、大変勉強になった。実は本書を13年前に読んでいて、このブログにも紹介していた。大分耄碌が進んでいる。やれやれ・・・