nisinohrの日記 RSSフィード

2009-10-31

京都レッツラーン大学校の設立に向けて

22:10

京都レッツラーン大学校の実質的な活動が始まって,1か月が経過しました.その間,わが国の政権も目まぐるしく動いています.「コンクリートから人へ」ということでさまざまな政策が打ち出されています.一方,大学については来年度の入試に向けての活動も活発になってきましたが,なかなか将来の展望が困難な状況になってきています.

京都レッツラーン大学校は,大学教育ではカバーできないところを不公式・非公式学習(non-formal and informal learning)の視点からアプローチしようとしています.そのスタートにあたって,来年1月29日に国際フォーラムを開催することになりました.

OECDのパトリック・ヴェルキン氏PhDとフランス国立技術職業学院の高等専門部のアドバイザーをしているアンヌ-マリー・シャロー女史を招いての講演と,そのあとで討論形式で会合を進めることを企画していますが,後半についてはまだ流動的です.ヴェルキン氏は「教育格差と不公式・非公式学習(non-formal and informal learning)の認知−OECDの経験から」というテーマで講演して頂くことになっています.シャロー女史には「変動社会での雇用可能性の開発−ヨーロッパおよびフランスの職業教育訓練の経験から−」について話をして頂きます.

どこの国も雇用問題はきわめて深刻ですが,これは工業社会から情報社会へ,そして知価を重視する知識基盤社会へと移行するときに経験する変革なのでしょう.その変革でできるだけ不幸な人を生みだすことのないようにすることが教育に課せられた課題であると考えられます.「教える」ことを基盤にこれに対応しようとするとその教育費は莫大なものになります.一方,「学ぶ」ことを基盤に高度の専門教育を組織しようとすると,これまでの教えることを中心に展開してきた教育とはまったく異なる理念と技術とを必要とします.

今回の国際フォーラムの企画がそのような転換のきっかけになればと考えていますが,そのためには財政基盤を確立することが重要です.現在企画しているのはe-ラーニングを中心とした専門教育を提供し,2割の優待生は無料で,3割の奨学生には半額で,それ以外の人は全額で負担して頂けるような学習システムの財政のシミュレーションを試みています.やはり多人数でなければ実現できませんが,どこまで実用的なシステムを設計することができるかが私の仕事です.

これから本格的に取り組もうといているのですが,これには広く多くの人の参加が必要です.ぜひ積極的に参加して頂いて,学ぶことを基本とした高等教育がうまれることをめざそうではありませんか.

2009-09-17

京都府と京都レッツラーン大学校の契約が成立

10:46

京都府の緊急雇用対策の一環として募集されていたNPO法人向けの提案型事業に「セイフティーネットとしての京都レッツラーン大学校」という事業名で応募していました.その採択が内定していたものの,いろいろな手続きで遅れていたのですが,やっと契約書を交わすことになりました.9月15日に契約書を提出しました.

専門の担当者を研究所の所員としてで雇用することとなり,いよいよその実現に向けて本格的に取り掛かれることになりました.この大学校はユネスコやOECDが重視している公式外学習(non-formal learning)をベースとした学習組織であり,インターネット上に構築されるものです.本格的には2011年の開校を目指すことになりますが,従来の公式学習のように教育する側で組織されるものではなく,学習する側で組織し運営されるものです.そして学習内容はコンピュータとインターネットを活用してさまざまな知識にアクセスし,それを組織化する方法を習得して,独学,協学,遊学することを基本とするものです.ひとりで努力する独学,チームやグループ,職場仲間による協学(協働学習,協調学習など),さらに基礎的な能力は教育ゲームやマンガなどを教材とする遊学で学べばよいでしょう.こうした学習を中心としたものはスウェーデンのNet Universityやカナダのアサバスカ大学などがあります.習得した能力は,これからさらに発展が期待されているさまざまな職能をあらわす資格検定などで証明することになります.

大学が1088年にイタリアのポローニァで学生の協同組合として始まった時は,学長も学生の中から選ばれていたということです.スウェーデンの高等教育の評価局でも評価委員会の委員の3分の1は学生ですから,とくに珍しいことではありません.教育を教育する側に権限をもたせるのか,学習権を認めて学習する側におくのかはそれぞれの国によって考え方が違っています.わが国の大学による公式学習にはあまりにも多くの経費を国民が負担することになっています.宣伝広告や見栄えのする立派な施設も授業料で賄われているところが大きいですが,そのような傾向については元ハーバード大学のデリック・ボック氏による「商業化する大学」として紹介されています.金融資本の立場からの人材(human resource)を育成(development)するために授業料で分担するという考え方にたいして,文化資本や人的資本(human capital)の立場から社会的貢献を期待して人財投資(inverstment)するという立場からの考え方ですが,その利潤は修了生による社会的貢献というものです.そのことについては先の学習基本宣言を参照して下さい.

わが国の教育基本法は教育する側の論理で構成されていますが,お隣の韓国では教育基本法の第3条には学習権の規定がありますから,このような視点からみると,わが国は教育発展途上国です.この京都レッツラーン大学校は教授はおりませんから,学習者が組織する大学校であるといえますが,公的資金や市民や企業からの寄付で賄われる予定ですので,当然その関係者が経営と運営とに参加することになります.

今年度の主な事業はOECDの専門官であるPatrick Werquin氏を招いて「教育格差と公式外学習」というテーマで,そしてフランスの国立専門職資格センターのAnne-Marie Charraud女史には雇用と労働移動の問題について講演して頂く予定ですが,女史の明確なテーマの設定については現在協議中です.また,今年度中に京都府下の失業者生活保護世帯の実態調査をする予定です.

2009-09-16

ドイツでの研究交流

23:44

パリのOECDでの打ち合わせと,ベルリンでの日独共同シンポジュウムならびにワークショップに参加するために9月6日から13日まで渡欧しました.OECDでは来年早々に開催を予定している国際フォーラムでの日程とテーマについてOECDのパトリック・ベルキン氏とフランスのアンヌ-マリ・シャロー女史と打ち合わせをして,そのあとベルリンでの会合に参加しました.

ドイツでは私は日本における大学の授業料の高騰,失業者生活保護世帯,外国人労働者の増加の状況などに対応するために発足する「京都レッツラーン大学校」の構想を紹介しました.文部科学省の生涯学習局の齊藤参事からはわが国の労働力の未来予測がきわめて厳しい状況にあることが紹介された後の発表でしたので,文脈の理解は得られたと思います.

京都レッツラーン大学校は失業者,生活保護世帯,厚生労働省の定義する第妓淙位階級(平成17年度で209万円以下の所得),外国人労働者などの生活困窮者を新職能人財(New Professional Human Capital)と定義して,この人々が独学と協学(協調学習,協働学習など)で高等専門教育に相当する職能を習得することを目指して投資する学習組織です.従来の人材(Human Resource)の視点ではなく,人財(Human Capital)とみなして,将来への社会投資とみる学習組織であることが特徴です.おもにeラーニングと呼ばれるコンピュータとインターネットを通じて学習する方式を採用した校舎をもたない仮想の大学校です.これに近いものはスウェーデンのNet Universityを挙げることができるでしょう.

ドイツの日独共同の会合では,ドイツ側から自己調整学習(Self Regulated Learning)の発表が多かったのが注目されます.ドイツもやはり外国人労働者の割合が多く,その専門性を高めるための自己学習による教育訓練を重視していて,大学でもそのような教育の取り組みがなされていることは注目されます.わが国の大学が自分のところの生き残りをかけてオープンキャンパスで豪華な施設と設備を誇示したり,派手な宣伝に多額の経費を投入しているのとは大きな違いです.庶民の生活を無視して富裕層に媚を売っているわが国の大学は,将来どの程度のものが生き残れるのでしょうか.高度専門教育もインターネット上で実現できる時代になっていることを,もうぼつぼつ理解すべきでしょう.キャンパス教育が教育格差を生んでいるという実態に気づくときがきているように思えます.

2009-09-15

福祉国家は危ない綱渡り

02:59

8月末の衆議院選挙で政権が移動することになりました。このことはわが国の議会政治史で特筆すべき出来事です。これまでの自公連立から民主党の主導による革新勢力の政治に転換されることになりました。

これで福祉関係の事業が拡大するでしょうし、さまざまな手当や給付金が支給されるような状況です。かつて福祉国家を目指したヨーロッパ諸国は、1960-70年代に財政破綻をしかねない状況まで国家財政が追いつめられました。その頃にストックホルムを訪れたことがありますが、大変暗い感じであまり良い印象はありませんでした。

しかし最近訪れると大変明るくたくさんの子どもを見かけます。福祉国家が財政破綻に陥ったときに生まれたのが生涯学習ということと生涯スポーツの2つの概念でした.死ぬまで社会で活躍し,できるだけさまざまな福祉給付金を受けなくとも元気に過ごせるようにすることです.そのために高等教育段階まで無償で学習できるような環境を整えようとしているのですが,わが国ではこのようなセイフティーネットの構築が遅れているので,現状のままで福祉政策を拡大すると財政破綻に陥るおそれがあります.

これまで生涯学習というと定年後の老後の余暇を楽しむためのコースが多いのですが,現在ヨーロッパ諸国が取り組んでいるのは変動社会での雇用性確保ならびにEU統合後のヨーロッパ域内での自由な移動にともなう労働移動性を支えるための各種の職能資格の整備などです.このような実務可能な専門能力を習得するための学習環境を整備しているのが現在のヨーロッパの生涯学習社会の政策です.

2009-08-10

韓国とフランスの教育基本法

18:11

先に教育基本法に対して学習基本宣言を考えてみてはと提案しましたが、教育基本法は他の国ではどのようになっているのでしょうか。韓国とフランスの教育基本法についても文部科学省のホームページからアクセスできたので、その一部を紹介します。

韓国教育基本法

1997.12.13 法律第5437号

第1章 総則

第1条(目的) この法律は,教育に関する国民の権利・義務と国家及び地方自治団体の責任を定め,教育制度及びその運営に関する基本的事項を規定することを目的とする。

第2条(教育理念)教育は弘益人間の理念のもと,すべての国民をして,人格を陶冶し,自主的な生活能力と民主市民として必要な資質を備えるようにし,人間らしい生活を営むべく,民主国家の発展と人類共栄の理想を実現することに寄与することを目的とする。

第3条(学習権)すべて国民は,生涯にわたり学習し,能力と適性によって教育を受ける権利を持つ。

第4条(教育の機会均等)すべて国民は,性別,宗教,信念,社会的身分,経済的地位,又は身体的条件等を理由に教育において差別されない。

第5条 (教育の自主性等)

々餡筏擇喘亙自治団体は,教育の自主性及び専門性を保障しなければならず,地域の実情に合った教育の実施のための施策を樹立・実施しなければならない。

学校運営の自律性は尊重され,教職員・学生・保護者及び地域住民等は法令の定めるところにより,学校運営に参加することができる。

以上のようになっています。第2条では「自主的な生活能力と民主市民として必要な資質を備えるようにし、人間らしい生活を営むべく」となっていて国民の生活の視点から規定されています。また第3条では学習権をきっちりと規定してまいす。また、第5条では教育の自主性と専門性を保障することを定めています。

ではフランスの教育基本法はどうでしょうか。

1989年7月10日付け教育基本法(ジョスパン法)

第1条

教育は,国の最優先課題である。教育という公役務は,生徒及び学生を中心に置いて構想され組織される。それは機会の均等に貢献するものである。

人格の発達,初期教育・継続教育の水準の向上,社会生活・職業生活への参加,及び市民としての権利の行使を可能にするため,教育を受ける権利は各個人に保障される。

第1条はさらに続くのですが、フランスは1989年の時点で「生徒及び学生を中心において構想され組織される」ことになりました。

わが国の教育基本法には学習権という文言も生活能力という視点もありません。「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと」となっていますが、勤労を望んでもそれができない時代であるということの認識はまったくないのでしょうか。あまりにもピント外れの教育基本法であるといってもよいでしょう。