黙然日記(廃墟)

はてなダイアリー・黙然日記のミラーです。更新はありません。

産経「正論」は、背筋を寒からしめる、他。

【正論】高崎経済大学教授・八木秀次 教育正常化を揺り戻す動きだ - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/233139/

 八木氏が「正論」欄に登場するたびに毎回ネタ振りをしてから始めるのですが、今回はそれどころじゃありません。広島県広島市における「教育の荒廃」および「正常化」(いずれも八木氏の表現)の歴史について延々と述べたあと、児童の権利条約に基づいて市が制定しようとしている、子どもの権利条例に文句をつけ始めます。その内容が、「子供に「自分の考えを持ち、表現すること」「学び、遊び、休息すること」などが権利として保障されれば、教師や親の手足を縛ることになるのは言うまでもない」というものなのです。さらに、子供が権利を侵害されたときに救済を求めることも、八木氏は根本的に否定しています。子供が表現すること、救済を求めることが、「組合教師」などに利用されるから、というのです。
 子供を、主体的な権利を持った人間として扱わず、(八木氏側に対立するにせよ従うにせよ)大人の従属物としか考えられない人間が、日本教育再生機構理事長を名乗り、さらに実際に教育に携わっている(大学生だから子供とは言えませんが)という事実に、本気で背筋が寒くなりました。

金さんと年越し派遣村

 まず、16日付で産経新聞電子版に配信された「ある記事」から、一部引用します。

 金さんは、昨年、東京に現れた「年越し派遣村」に触れ、「日本人は『かわいそう』を好む。メディアはセンチメンタルで、表層だけをなぞりがち。それが大衆社会を堕落させた」と指摘した。その上で「私は派遣村のセンチメンタルなことではなく、実態が知りたかった」と話した。

 これだけ見ると、まったく正しいとしか思えない発言です。派遣村の光景を「かわいそう、気の毒」と同情し、一過性の出来事、ワイドショーのネタの一つとして流してしまうのではなくて、派遣切りや非正規雇用、さらに雇用問題、経済構造全体の問題を象徴する一例として、背景を含めて捉える必要があります。また、派遣村立ち上げの意図もその点をアピールすることにあったわけです。
 この立派な意見を述べた「金さん」とは、誰でしょう。遠山の金さんなら言ってくれそうですが、残念ながら150年以上昔に亡くなっています。実はこの発言は、この記事から引用しました。

奈良「正論」講演会 金美齢さん「言うべきこと発言を」 - イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/education/232280

 えーと。金美齢氏が知りたかった派遣村の「実態」とは、どんなものだったのでしょうか。

YouTube - 【派遣切り】湯浅誠金美齢の自己責任論に大激怒!!
http://www.youtube.com/watch?v=je5QJAdxIOU

 金氏の派遣村に対する考えは「自己責任だ、貯金していなかったのが悪い」というもののようです。ここでの発言から推測するに、金美齢氏が知りたかった「実態」とは、派遣村の若者は甘えているだけだ、といったようなことだったのでしょう。存在しないものを伝えろ、とメディアに要求しているのです。背中の桜吹雪が泣いてるぜ。

児ポ法民主党改正案提出。

民主党児童ポルノ法改正案を衆院に提出 実効性と人権への配慮を両立
http://www.dpj.or.jp/news/?num=15504
新旧対照表(現行法と改正案による改正結果の比較,PDFファイル)
http://www.dpj.or.jp/news/files/090319child-shinkyu.pdf

衆議院-議案
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
(提出済みの与党案本文)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16901032.htm

 19日に衆議院に対して、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案が民主党から提出されました(民主党案)。自由民主党公明党による同法改正案(与党案)もすでに提出され、今後衆院法務委員会で審議されることになります。
 これから衆参で審議され成立にいたるのか、その前に解散総選挙となれば廃案となるわけですか*1、とりあえず与党案か民主党案か、あるいはその折衷案となって成立するのか、正念場を迎えることになります。
 以下、ざっとしたまとめ。民主党案はすでに発表されていた骨子案とほぼ同じ内容ですが、改めて新旧対照表を眺めてみると、購入罪・取得罪の創設以外は、この法律本来の目的に照らして合理的な改正だと感じます。購入罪・取得罪は、販売・頒布がすでに禁止されている以上無意味な規制強化であり微罪逮捕の口実を増やすだけなのですが、もちろん与党案にある単純所持罪よりはマシです。
 さらに、与党案にある「漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等」への規制方針が民主党案にはまったく含まれていないことが重要です。これは重要であると同時に当たり前のことであって、児ポ法*2ポルノグラフィーを含めた表現行為を規制する法律ではなく、あくまでも実在の児童を虐待や搾取から保護する法律なのです。
 また、民主党案では「児童ポルノ」という名称が廃され「児童性行為等姿態描写物」という名称になって、これがポルノ規制法ではないことが明確化される点も、同じように重要です。
 カマヤン氏がすでにご指摘されていますが*3、所轄官庁が厚生労働省であると明確化されたこともポイントです。これは上述の法律の意義を確定させると同時に、警察の恣意的運用に利用されることを少しでも防ぐ効果があるかもしれません。
 購入罪・取得罪だけは、なんとかならないですかねえ。でっち上げ逮捕などには利用できないような条文にはなっていると思うのですが、なにがどうなるかわからないし。
 それにしても改めて比較してみると、与党案はひどい。本当にひどい。この法律本来の意味を忘れ、立法府の本来のあり方を忘れ、国民主権の基本原則を忘れた、児童の人権を口実にした国家統制のための国民取締法であるとしか思えません。少なくとも、法体系を合目的化するために改正するという目的がまったくないことははっきりしています。

*1:いったん廃案になった場合でも、民主・社民・国新政権になれば再提出され民主党案でさっくり成立しそうですが。社民・国新両党および共産党は、単純所持禁止および二次元規制に反対の意向をはっきりさせています。

*2:民主党案に近い形で成立すれば「児童ポルノ法」ではなくなるので、別の略称が必要になるかもしれません。

*3: http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20090319#1237416669