【仕事告知】機動警察パトレイバー ザ・レイバー・インダストリー
もしも、ソ連が、崩壊しなかったら?
もしも、大震災が、東京湾で起きていたら?
もしも、地球温暖化が、ずっと急速に進んでいたら?
もしも、ネットやケータイのかわりに、乗用ロボットが普及していたら!?
機体カタログ、メカニカルテクノロジー、社会背景と経済効果、犯罪と治安、軍事利用……
究極のリアルロボットフィクション『機動警察パトレイバー』の世界を新たな視点で再構築
平成日本の20年を逆照射する、“レイバー”という「終わらなかった昭和」の架空産業史!
……という個人的テーマで編集・執筆に参加しておりました昨年来の仕事が、ようやく2/24に発売のはこびとなりました!
いろいろと語るに尽くせぬ紆余曲折がありまして(^^;)、残念ながら本来目指していた2008年中の刊行には間に合いませんでしたが、アニメ『機動警察パトレイバー』20周年を期に、いまや「近過去」となってしまった同シリーズの世界観を現在の視点から徹底的に再考証し、「レイバー産業」の全貌を劇中の2003年の時点から振り返る仮想現実ジャーナルという趣向で編じた記念ムックです。
機動警察パトレイバー ザ・レイバー・インダストリー 〜レイバー開発全史〜
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豊富な描き下ろしリニューアル・イラストで彩る、パトレイバー版『ガンダム・センチュリー』!?
本誌は、学研ムック「歴史群像」シリーズのスピンアウトとして、フィクション世界の歴史をあたかも現実にあったのかのように考証する特別編集企画「アナザー・センチュリー・クロニクル」の第3弾にあたります。ちなみに第1・2弾は一昨年発売の『機動戦士ガンダム 一年戦争全史』。ガンダムの場合は、もともと作品世界が第二次世界大戦の欧州戦線をモデルにしている部分が大きいので、まんま「歴史群像」のセルフパロディといった趣向がピタリとはまったわけですが、レイバーの場合は現代日本の企業社会が舞台なので、さらに一味違ったスタイルのコンセプチュアル書籍になっています。ガンダム本で言えば、どちらかというと『アナハイム・ジャーナル』に近い体裁かもしれません。
ただ、アニメの設定画や場面写真を一切使わず、まるまる一冊分オリジナルの描き下ろしによる代表的なレイバーイラストでビジュアルを固め、作品内での描写から大幅に踏み込んだメカの科学技術考証や歴史経緯の設定創作を体系的に行った初の書籍という点では、むしろ『ガンダム・センチュリー』に似た位置づけをもった本だと言えるでしょう……!
とにかく、宇宙世紀と違って「90〜00年代の日本」という圧倒的なリアリティを背景に持つパトレイバー世界の場合、我々の生きている「いま・ここ」の時点でのテクノロジー水準でもって、全高7mほどの乗用作業ロボットが実現する機構を説明づけなくてはならない。のみならず、それが「製品」として社会の様々な場面に普及するための政治経済的・社会史的条件や、犯罪や軍事に利用・応用される場合の理路を、いかに作品世界と矛盾せず、現実の歴史との地続き感のあるものとして説明するか―――。
そんな難題に、『一年戦争全史』を手がけたSF・架空戦記作家の林譲治氏と、『ガンダム・センチュリー』の伝説を築いた科学技術研究家の永瀬唯氏をツートップ監修に迎えて挑んだ、渾身の一冊です!!
「失われた10年」ならぬ、バビロン・プロジェクトによって「取り戻された10年」としてのレイバー世界
てなわけで、林氏と永瀬氏という大先輩の虎の威を借りながら(笑)、不肖・中川も編集の一人として全体のディレクションに少なからず噛ませていただきました。
レイバー世界のリアルな考察本を作るということは、『パトレイバー』の物語設定に加え、「現実世界の歴史」という“もうひとつの原作”を読み解き、料理する作業でもあるという点が、他のSFロボットフィクションにない際立って大きな特徴でした。僕の方で特にこだわったのが、バビロン・プロジェクトをはじめとする巨大公共事業によって、現実の「失われた10年」とは真逆の「第二の高度経済成長期」のような経済情勢と社会世相が訪れているであろうという描像です。
バブル崩壊以降、財政政策も金融政策も効かない未曾有のデフレ不況に沈み、日本型経営システムの崩壊と優勝劣敗の格差社会化への不安にあえぐ私たちの現実からすれば、レイバー産業が成長して内需を牽引したもうひとつの90〜00年代は、いわば「取り戻された10年」とも呼ぶべき、“かくありたかった理想の日本経済史”にも見える。ネットやケータイがないかわりに、レイバー・テクノロジーが発達した社会は、もしかすると人々が『ALWAYS 三行目の夕日』に涙したような、昭和三〇年代主義的な「夢」や社会的共同性さえ、回復してくれるのかもしれない。だが、はたしてそれは本当にユートピアなのだろうか……?
そんな、アップトゥデートな現実社会の問題やその反動的願望に対する批評的思考実験として、『パトレイバー』の作品世界を読み解けることを示した点もまた、本書ならではのセールスポイントの一つとしてアピールしておきたいと思います。
野明も遊馬も出てこない。けれども―――!?
キャラクターではなく「レイバー」というテクノロジーやマクロな社会背景に焦点を当てた本書は、たぶん物語の主人公である泉野明や篠原遊馬といった特車二課の隊員たちの名前が一度たりとも登場しない、初めての『パトレイバー』本だと思います(笑)。(そのかわり、帆場や柘植や内海といった敵役たちの存在感はやけに大きかったりする……かも)
だから、ロボットヒーローアクションというより、むしろ普通の若者たちが事件や人間関係や諸々の社会的現実に揉まれて成長していく職業ドラマとしての魅力を感じていた『パトレイバー』ファンの方々(僕自身がそうです…)には、いささか淋しく思われてしまうかもしれません。
ただ、彼らが物語の中で抱いたであろう思いや葛藤や背負っていたテーマ性は、一執筆者として可能なかぎり行間に込めてみたつもり。たとえば、「レイバー」という言霊に象徴される「労働のエートス」が、テクノロジーの進歩やレイバー事件の凶悪化を通じていかに変容していったか。そんな時代精神の描写は、無邪気なメカフェチ少女だった野明が、ゲーム感覚でレイバー犯罪を起こすバドのグリフォンとの戦いなどを通じて“立派な大人”になろうと願うようになる原作の物語性や価値対立を、別のかたちで表現したものでもあります。
設定解説だからといって、決して無味乾燥にしない。大きな歴史の流れや技術の進歩の底に、第2小隊の連中のような無名の生活者たちのドラマが息づく『パトレイバー』らしさが、少しでも感じられれば……。
そんな思いも込めて、作りました。『パトレイバー』に、いささかでも魅力を感じたことのある、すべての方にお薦めします…!!
『ザ・レイバー・インダストリー 〜レイバー開発全史〜』目次
■Light and Shadow of LABOR INDUSTRY レイバー産業の光と影
●最新レイバー「篠原AV-02ヴァリアント」のすべて
●LABOR'S CASE FILE レイバー事件簿
・No.01 篠原製新OSウィルス混入事件
・No.02 東京テレポート事件
・No.03 黒いレイバー事件
・No.04 自衛隊試作レイバー暴走事件
・No.05 ソ連製レイバー強奪事件
・No.06 甲斐事件
■LABOR ENGINEERING レイバー工学
●レイバー開発秘話
●レイバー技術の進化と体系
●レイバーの基本構造
・01 動力系
・02 駆動系
・03 直立・歩行機構
・04 ハンドマニピュレーター/エンドエフェクター
・05 コクピット・操縦系
・06 オペレーティングシステム(OS)
○コラム「レイバーの兵装と特殊ユニット」
■LABOR Ctalogue Part.01 <民間・特殊作業レイバー編>
●レイバー企業解説 (1)篠原重工
●レイバー企業解説 (2)菱井インダストリー
■LABOR ECONOMICS レイバー経済学
●「レイバー」という名の構造改革
●温暖化と震災が生んだ巨大計画「バビロン・プロジェクト」の真実
●業界最王手篠原重工の経営戦略
●レイバー産業のこれからと「取り戻された10年」の功罪
■LABOR Ctalogue Part.02 <警察・軍用レイバー編>
●レイバー企業解説(3)シャフト・エンタープライズ
●レイバー企業解説(4)淵山重工/(5)マナベ重工
●レイバー企業解説(6)菱川島造船/(7)エセキ農機
○コラム「レイバー産業が生んだ副次産業効果」
■LABOR CRIMINOLOGY レイバー犯罪学
●警視庁特殊車輌二課 設立の真実
●特車二課の活動
●広がるレイバー犯罪の恐怖
■LABOR MILTARY SUTUDIES レイバー軍事学
●兵器としてのレイバー その利点と問題点
●陸上自衛隊レイバー部隊の部隊編制と作戦運用
○コラム「幻のレイバー運用構想」
○コラム「TOKYO WAR」