シーア派について(後編)

本日、某氏に長らくお借りしていたイスラム*1シーア派についての本、具体的には

シーア派―台頭するイスラーム少数派 (中公新書)

シーア派―台頭するイスラーム少数派 (中公新書)

をようやく読み終えました。イスラム教自体についてもあんまり詳しくない上に、いきなりシーア派についての本を読んだわけですが、従来の自分の無知さを実感しつつ、シーア派についていろいろと知ることができました。

例えば、この本を読むまで知らなかった極めて基礎的なこととしては、イランがシーア派化したのがサファヴィー朝の時からと、かなり最近であること*2とか、イラクシーア派の「本家」っぽい感じだということとかです。

難点としては、敢えて言えば内容が近代以降のイラン・イラク(=十二イマーム派)メインで、特に昔の湾岸地域以外のシーア派、或いはイスマーイール派とかについてはほとんど触れられていない点が微妙です。シーア派自体初心者の私がそんな傲慢な要求するのも難&仮に要求に答えてもらっても消化不良確実ですが(汗) しかし、まだほとんど何も知らない状態ですが、北アフリカシーア派政権だったファーティマ朝イスマーイール派系らしい)には個人的に関心あります*3

あと、他に「なるほど」と思ったこととしては、現代イランの「イスラム法学者による統治」に対して、少なからずのシーア派イスラム法学者が疑問を持っており*4、且つ「イスラム法学者による統治」によって、いわば『宗教による政治の支配』を目指したはずがかえって『政治による宗教の支配』を生んでしまっている、ということです。後者については、考えてみればそうなって当然と言えそうなくらい「ありがちなパターン」ですが、今までイランについてそのような発想を持ったことはありませんでした。

最後に、本の直接の内容ではありませんが、世間一般(日本とかアメリカとか?)におけるシーア派の見られかたについても「うーむ」と思うことがありました。私としては「原理主義的なイスラム過激派&テロリズムの温床=ワッハーブ派*5」だと思ってたのですが、世間一般ではどうも「原理主義的なイスラム過激派&テロリズムの温床=シーア派」だと思われているらしいです。確かにシーア派にも原理主義者や過激派やテロリストは少なからずいるでしょう。しかし、例えばタリバンやらアルカイダやらはワッハーブ派の影響を受けたスンニ派過激集団で、間違ってもシーア派ではありません。ワッハーブ派シーア派の関係からしても、ワッハーブ派シーア派を特に異端視していて、ほとんど邪教徒扱いっぽいです。*6

*1:最近は「イスラーム」とすることも多いが、私は思うところあって「イスラム教」と「教」をつけることにしている。別に「イスラーム教」でもよくはあるが。。

*2:16世紀初頭成立のサファヴィー朝が「かなり最近」と言えるかどうかは意見の分かれることろであろう。本の所有者である某氏は「昔」ととらえておられた。なお、今日あらためてよく見てみるまで、私のほうもサファヴィー朝成立の年を百年ほど間違えていて、本当は1500年頃なのに1600年頃だと思っていた。

*3:関心のある理由としては、学部一年の頃、冗談で「研究テーマは11世紀北アフリカの政治思想です。」と言ってたのも一因かもしれない。また、「ファーティマ朝」という名前も素敵?なのでそれ以前から気にはなっていた。

*4:具体的には、「イスラム法学者による統治」に好意的な人の中から後継者を選ぼうとすると人材不足で四苦八苦することになるくらい、っぽい。

*5:スンニ派系の原理主義的な一派。サウジアラビアの国教。

*6:なお、イラクシーア派を弾圧していたサダム・フセインは「困った時だけスンニ派」の世俗的独裁者です。どっかの親米系サイト?でイスラム原理主義者であるかのように解説されてたのを以前見かけたことがある気がしますが、反シーア派スンニ派とはいえ、ワッハーブ派のような原理主義とは全く方向性が違うと言えるでしょう。どっちがよりろくでもないかについてはノーコメントですが。