栄養欠乏から起こる「過食(嘔吐)症≒低血糖症」の具体症例

4.過食症


山田ゆりさん(20)ー食べて吐くのがやめられないー


ゆりさんは、おとなしく人見知りする印象の専門学生です。
17歳の時にクラスの男子に体型の事でからかわれたのがダイエットを決意しました。

もともとまじめな性格で、なんでも真剣にとりくむタイプのゆりさんは、厳格にカロリー計算を行い、食べる量を減らしました。
特にカロリーの高そうなお肉や脂っこいものを控え
カロリーの少ないこんにゃくや野菜を主に食べるようにしていました。

体重が減って一時はとても満足しましたが、
それまできちんとしていた月経が止まってしまいました。
また、立ちくらみやめまい、貧血などの症状が起こるようになりました。

集中力もなくなり、イライラして家族に当たったり、
憂うつになったりすることがおおくなりました。


減量に成功したあともしばらくは食事の量を控えていましたが、だんだんと我慢ができなくなって、少しずつお菓子やあいすくりーむをたべるようになりました。
そしてある日突然、食欲がとまらなくなり、約半年後、過食がはじましました。

過食してしまうときは、ふだん食べないように我慢しているもの、とくに甘いものやごはんなどが食べたくてしょうがありません。
いったん食べはじめると頭の中が真っ白になり、お腹がパンパンになるまで食べまくってしまいます。
コンビニで3000円くらい買い物をしても、あっという間に食べきってしまうのです。

ゆりさんはあせりました。
せっかくがんばって痩せたのに、こんなに食べていたら体重がまた元に戻ってしまいます。
どうしても体重を増やしたくないゆりさんは、雑誌で摂食障害の記事をみたのをきっかけに、
それをまねして過食した後に吐くようになりました。

いつしかそれが習慣となり、最近では吐くことを前提に過食するようになってしまいました。


受診時はほとんど毎日のように過食嘔吐をしていました。
食べて吐くのはいつも夜でそれ以外のときは、太りたくないのと、
食べだすととまらなくなるのが恐いので、ほとんど食べません。

ゆりさんは、太りさえしなければ、それでいい、と思っていました。

でも、ゆりさんの意に反して、吐いているのに体重はだんだん増えていき、
イライラ、うつ症状、慢性疲労、冷え、不眠、便秘、湿疹などが悪化し、体調が日に日に悪くなっていきました。

朝も起きられず学校も休みがちになり、勉強にも集中できないので、
休学することになりました。

今のゆりさん食べ物の事しか頭にありません。
我慢しているから、いつも食べたい。
でも、過食にいなってしまうから、食べるのが恐い、
そして、太りたくない…。

家族も心配し、さすがに自分でもこの状態をなんとかしたい、という気持ちになったゆりさんは、
家族のすすめで精神科を受診しました。抗うつ剤をもらい、ほんの少し気分はよくなったような気がしましたが、
過食嘔吐は治りませんでした。

家族の方がインターネットで摂食障害について調べているうちに当クリニックを見つけ、受診されました。

【既往歴】

2年以上無月経

【家族暦】

父:高血圧
祖母:糖尿病

【初診時現症】

156cm
50kg
BMI20.5

【初診時の血液データ】

ヘモグロビン 10.5↓
GOT 16
GPT 10
フェリチン12.5
亜鉛 62
グルコース 78
グリコアルブミン 14.1
中性脂肪 130
遊離脂肪酸 1.09↑
尿ケトン体(+)↑

↑は測定値が基準値を上回っていること、
↓は下回っていることを意味する。



【診断】

ゆりさんのデータを見ると、まず貧血が大きな問題であり、体調不良の原因の大きな部分を占めていると考えられました。
月経がしばらくないのに貧血なのは、強い栄養失調であるためと考えられます。

フェリチンの低値は鉄欠乏があることを意味します。

特記すべきは亜鉛の低さでした。
亜鉛の低さは食欲のコントロールに深く関係しているミネラルです。

GOT・GPTのアンバランスから、ビタミンB群の不足が強いことも示唆されました。

これらの栄養失調は、脳に「飢餓状態だ!」という信号を送ります。
その信号を受け取ると、脳は生き延びるために、食べ物を手に入れようとします。
つまり、おなかがすくわけです。

このような栄養失調は食欲の亢進を招き、過食を引き起こす原因となると考えられます。

また、グルコースとグルコアルブミンの低値、遊離脂肪酸の上昇、
体中ケトン体陽性は、低血糖症を強く疑わせるものでした。


【5時間糖負荷試験結果】

ゆりさんの糖負荷試験の結果は、
インスリン過剰分泌を伴う激しい反応性低血糖症でした。

150分から180分の30分の間だけで
60mgも血糖値が低下しています。
また、血糖値が28まで下がっていることも驚きです。

このようなことがおこると、脳が危険だと判断するため、
血糖値をあげるためにアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されます。

その結果、自分で自分をコントロールすることができなくなってしまいます。
また、低血糖から脳を守るために「食べろ!」という指令が強烈に脳から発せられます。

これらの結果として、過食になると考えられるのです。



【治療】

食べることに関するゆりさんの問題は「過食」と「拒食」の両側でした。
太りたくないから食べない、でも食べないで我慢しているといずれ我慢も限界となり過食をしてしまいます。

食べることを我慢し続ける限り、低血糖になり、そのあと必ず過食になります。
この場合、食べることが過食を治す近道なのです。

食事指導として、まず
「食べたくなくても食べる」「過食は我慢しない」という指導をしました。
タンパク質と野菜などの、低GI・高タンパク・高食物繊維の食品を、食べなくても少しずつ、頻繁に食べるように指導しました。
これは空腹時間が長引いて低血糖になることを防ぐためです。

また、過食そのものは誰でも治療を始めてすぐに収まりません。
過食を無理に我慢させることはせず、過食してしまうときにも、過食をする場合にも甘いものではなく

まずはタンパク質や野菜などの低GI食品を選ぶように指導しました。
これはたべたあとの血糖値の急降下を防ぐことが狙いです。
どうしてもあまいものを食べたいときには、タンパク質や野菜などを食べた後に少量食べるように説明しました

そして同時に、栄養失調を治すため、プロテイン、ビタミンB群、ヘム鉄、ビタミンC、カルマグ、亜鉛サプリメントを処方しました。


【経過】

治療一ヶ月後ほどで過食の回数が減りました。
3ヶ月ごの再検査では過食嘔吐はすっかりなくなっていました。

お腹がすく前に食べることを指導されたことで「食べていいんだ」と思い、気持ちが楽になったそうです。

最初のうちは少し食べるだけではおさまらず過食になったりしましたが
だんだん食べる量をコントロールできるようになりました。

白米を食べると、そのあとだるくなったり眠くなったり過食したくなるのが分かるので
おかず中心にいろいろなものを食べるようにしています。
食べ物が美味しい、と久しぶりに思えるようになったそうです。

貧血も改善し、体調も回復してきました。
少し前は家族と出かけても2時間くらいですぐに疲れて休息するか家に帰っていたのに、今では長時間出かけられるようになりました。

以前に比べて精神的に安定してきたためか
「どうしても太ってはいけない」という気持ちは薄れていきました。

体重は1〜2kg増えましたが、体成分検査では筋肉が増えていました。
まだ体調が不安定なので、もう少し元気になったら、学校に復学したい、と思っているそうです。

血液データもとてもよく改善しています。
まだ精神的に不安定な部分もありますので、心理療法を併用し、根気よく治療を続けていくつもりだと言うことです。


【血液データの推移(3ヵ月後)】

ヘモグロビン10.5→12.6
GOT 16→18
GPT 10→16
フェリチン 12.5→25
亜鉛 62→113
グルコース 78→79
グリコアルブミン 14.1→13.5
中性脂肪 130→101
遊離脂肪酸1.09→0.59





過食症は「心の病気」か?


過食症は、一般的に「心の病気」と言われています。
心の問題が原因で、常識では考えられない量の食べ物を食べてしまう、
場合によっては食べたものを全部吐いてしまう、
などの症状が起こるとされています。

しかし、過食症は本当に「心の病気」なのでしょうか?

拒食症と過食症をあわせて摂食障害といいますが、摂食障害に心の問題が深くかかわっているということについては、疑いの余地はありません。
しかし、心の問題を解決する目的で、心理カウンセリングなどによって過食症の治療を行った場合、改善する患者さんももちろんいらっしゃいますが、
改善されない患者さんも多くいらっしゃるのです。

治療が上手くいっても心理的な問題が解決され、気持ちは楽になったとしても、過食や嘔吐は治らない、という患者さんが大変多いのです。

過食症は拒食症から発展することが多いといわれていますが、
ゆりさんのようにダイエットから始まる場合もあります。
また、ダイエットに限らず、他の病気の治療目的で行った断食などがきっかけで 体重が大きく減少した場合などにも起こりえます。

つまり、過食の原因には必ずしも深刻な心の問題が存在しているわけではない、ということです。
そのような患者さんに共通しているのは、いったん極度の栄養失調に陥ったあとに、過食症を発症するということです。

もちろん、同じように体重が減ったり栄養失調におちいったりしても、
必ずしも全ての人が過食症になるわけではありません。

つまり、過食症になりやすくなる条件や、 体質などがあると考えられます。


そのような過食を起す大きな原因として考えられるのが、
「隠れ飢餓状態」と「低血糖症」なのです

現代の日本には食べ物があふれていて、一見、栄養は満ち足りているようにみえます。

しかし、実際には食べ物に含まれる栄養素の量が減少しているので、
ほんとうに必要な量の栄養素はとれていない人が殆どです。

とくに白米や白パンなどの精製された食品や加工された食品は、カロリーだけは過剰なほど高いのに、
体を作ったり機能させたりするために必要なタンパク質やビタミン・ミネラルなどの栄養素はほとんど入っていない、といっても過言ではありません。
毎日お腹一杯食べても、実際には栄養はちっとも足りていない。
私はこれを「隠れ栄養失調」と呼んでいます。

私達の体がほんとうにひつようとしているえいようそのりょうは、厚生労働省がさだめている必要栄養所要量よりも、
実際には数倍〜数百倍多いといわれます。
ということは、現代人のほとんどは「隠れ栄養失調」だと考えられます。

ふつうに食べていても栄養(カロリーのことではなく、タンパク質やビタミン・ミネラルなどのことです)が足りないのに、
そこまで間違ったダイエットや断食などをおこなってしまったら、どうなるでしょう?
当然、強い栄養失調を起こします。
これを「隠れ栄養失調」を越えた、「隠れ飢餓状態」と呼ぶことにしましょう。

とくに「隠れ飢餓状態」になりやすいのは思春期のダイエットです。

日本ではスリムな女性がもてはやされているため
いまは中学生や小学生の時からダイエットをしている女の子がたくさんいます。

多くの場合、ダイエットをしようと思っても目的の体重になる前に食欲に負けてしまい、
体重を激減させることは難しいものです。

ところが、ゆりさんのように意思が強かったり、
強迫観念などなんらかの病的な心理状態が存在する場合、食欲という本能に逆らって、
食べずにいる事を続け、無理なダイエットに成功してしまいます。

拒食症はこれが極端になった状態です。
そして結果的に、極度の栄養失調に陥ってしまうのです。

痩せたくてしょうがないときには
「栄養失調なんてどうでもいい、痩せられればいいのよ!」と思っているかもしれませんが、
これは明らかにダイエットの方法としては間違っています。
残念ながら、間違ったダイエットをおこなうと、体に負担がかかるため、
あとで必ず「ツケ」がまわってきます。

そのツケのひとつが「過食」を引き起こすということです。


過食症までいかなくとも、多くの人が、ダイエットをしようとして食事制限をしたあとに、
反動で過剰な食欲に見舞われた経験があると思います。

拒食症はもちろん、無理なダイエットや断食、胃腸の病気などで
いったん強い栄養失調、つまり飢餓状態に陥ると体は危機感を感じます。

このまま食べ物が手に入らなければ飢え死にするかもしれない、
と体が認識すると生き延びるための生存本能が働きます。

すなわち、食べ物を強く求めるようになるのです。
つまり、栄養素を手に入れようとする体の自然な反応として過食になるのです。

残念ながら、いったん強い飢餓状態におちいると、
ふつうに食べることだけで不足した栄養を補うのは至難のわざです。

普通に食べるだけではマイナスになってしまった栄養素をプラスに戻すのは難しいですし、
多くの人たちが過食をするときに食べたくなるものは決まって、お菓子やパンや白米などの精製された糖分なのです。

さらに、もともと「太りたくない」という気持ちが強いこれらの人たちは、
肉や卵などのタンパク質食品を「太る食べ物」と思い込んでいることが多いため、過食の時にそういうものを食べようとはしません
(実際には、一番太る食べ物は糖分なのですが!)。

しかし、精製された糖分でできた食品をいくら食べても、
不足した栄養素の補給にはならないため、
いつまでたっても「隠れ飢餓状態」が改善することは無いのです。

つまり、過食症を治すために行うべきことの一つは
「隠れ飢餓状態を治す」ということになるのです。

具体的にはサプリメントを利用する、という方法をとります。


ちなみに、間違ったダイエットの「ツケ」はこれだけではありません。

まず「隠れ飢餓状態」は体調不良の原因となります。
いわゆる「不定愁訴(明らかな病気ではないのに出るいろいろな症状)」の多くは実は栄養失調が原因であることが多いのです。
さらに、タンパク質やビタミンB群・鉄などの不足は代謝の低下を招きます。
つまり、太りやすい体になってしまう、ということです。

太りたくない一心で必死に努力してきたことが、結果的に体をこわし、太りやすい身体を作ってしまうとは、なんと皮肉なことなのでしょうか。
正しいダイエットと方法については3章にありますので、参考にしてください。


もうひとつ、過食を起こす大きな原因として考えられるのは低血糖症です。

先ほど述べたように、多くの患者さんが過食するときに食べたくなるのは
決まって普段我慢している甘いものやごはん、パンなどの精製された糖分です。
ということは、当然それらを過食することによって血糖値があがったり下がったり、を繰り返す血糖値のジェットコースターにおちいります。
参考までにほかの2例の過食症患者さんのOGTTを106・107ページに掲載しました。

脳は基本的に血糖(グルコース)しかエネルギーとして利用することが出来ない、ということは前に書きました。
さらに、脳はグルコースを貯めておくことができず40秒たったら使い切ってしまいます。
脳が、必要なエネルギーを得てつねに機能し続けるためには
よどみなく流れ続ける川のように、つねに適した濃度のグルコースが脳の中に流れ込んでこないといけないわけです。

血糖値がいきなり下がってしまうと言うことは、川の流れがいきなりせき止められてしまうのと同じです。
脳に必要なだけのエネルギーが入ってこなかったら、脳の機能がストップしてしまいます。

つまり、血糖値の急激な低下は脳に非常に強い危機感を与えます。
まさしく前述したゆりさんのように、毛当地が30分で80mg/dlも下がってしまうような場合です。
あまりにも急激に血糖値が下がってしまうということは、
脳へのエネルギーの供給が突然ストップすることと同じですから、まさに非常事態です。

この状態が長時間続くと、しずれは脳死状態となり、最悪の場合、死んでしまうかもしれません。

私たちの生存本能は当然、それを回避するために
「血糖値を上げよう!」とするシステムを作動させます。

つまり、「食べろ!」という命令スイッチが押されるわけです。
これがすなわち「お腹がすく」ということです。


もちろん低血糖症でなくても誰でもお腹は空きます。

しかし、このスイッチが入ると多くの過食症の人は目の色が変わってしまい、
尋常なお腹のすきかたではなくなってしまいます。

ふつうの人が毎日感じているような「あーあ、お腹すいたぁ」という程度の空腹感ではなく
下がりすぎた血糖値を上げて「生存する」ための信号ですから、かなり強烈です。

普通の人の空腹を知らせる信号が
「昼食の時間を知らせる定時のチャイム」だとすると
過食症の人にとっての信号は「火事を知らせる非常用ベル」のようなものです。

低血糖という非常事態を乗り切るため
「食べて、食べて、食べまくれ!」という非常ベルが
脳の中でけたたましく鳴り響くわけです。

さらに困ったことに、血糖値が下がりきる前から
血糖値を上げるためのアドレナリンやノルアドレナリなどの「攻撃ホルモン」が
すでに分泌されはじめています。

つまり、非常用のスイッチがオンになったときには
すでに自分で自分をコントロールすることができない状態になっているのです。

それまで我慢に我慢を重ねて、食べないようにしていたのに、
このスイッチが入った途端、
そんなことはどうでもよくなってしまいます。

目の前にある食べ物を手当たり次第にたべまくり、
ハッとわれに返ったときには
家の中の食べ物がなくなってしまっています。

そして、「ああ、やってしまった」と落ち込むのです。

これを繰り返しているため多くの過食症の患者さんが
自分のことを「意志の弱い人間」だと思っています。

残念ながら、この強烈な食欲に逆らうのは、とても難しいことです。

私たちの生存本能が生き延びるために行っているので
自分の意思でどうこうしようというレベルをはるかに超えている、といってもいいでしょう。

これらの症状は全て脳とホルモンがおこなっていることであり、
けっして過食症患者の意思が弱いわけではないのです。

低血糖症がそうさせている、という理解が必要です。

また、過食症の患者さんには、過食したあとに嘔吐する人が多いです。
なぜ、吐くのかというと自分で食べることをコントロールできない以上、
太らないでいるためには吐くしか方法がないからです。

つまり、どうせ吐くのだから、食べたいものをいくら食べてもいいじゃない!
と考えるわけです。

そして、もちろん、そういうときに食べるのは
ふだん我慢しているあまいものや菓子パンなどです。



しかし残念ながらーーここはよく理解していただきたいのですがーー



吐いても食べてしまったものはチャラにはなりません。

吐いてしまえば食べてなかったのと同じ、ということにはならないのです。
ここにも血糖値が関係しています。

甘いものなどに多く含まれる単純な糖分はとても吸収が早い。

とくに砂糖やブドウ糖果糖液糖などの二糖類・単糖類は吸収がとても早く、
口や胃の粘膜からも吸収されることが分かっています。


そういうものを食べたり飲んだりすると、
吸収が早いため
あっというまに血糖値が急上昇してしまいます。

つまり、あとで吐こうがなにをしようが
血糖値はあがってしまいます。

となると当然、上がった血糖値を下げようとして
インスリンが分泌されることになります。
インスリンはそう、「太らせるホルモン」です。

後で吐いても、チューイングをするだけでも、
甘いものをある程度口にすると、結局はインスリンが分泌されてしまうのです。

インスリンは血糖値が上がると、糖を脂肪に蓄えることで血糖値を下げようとします。

吐いているのにちっとも痩せない
むしろ太る、というのは
このような理由によるものです。

そして、インスリンが出てしまったにも関わらず吐いてしまうと、
体内に入ってくるはずの糖分が入ってこないために
インスリンが効きすぎてしまい、
血糖値がさらに下がってしまいます。

ということは、
過食して吐いたあとに、すぐにまたお腹がすいて、もっと食べたくなってしまうのです。

これではまるで過食の蟻地獄のようではないでしょうか。


つまり、過食症を治すためにやるべきことのもうひとつは、「低血糖症を治す」ということです。

低血糖症を治すということは、とりもなおさず血糖値を安定させる、ということですが、そのためには
「なにを食べるか」ということがとても重要です。

ゆりさんの例でも説明しましたが、太りたくないからといって長い間満足に食べないで居ると、低血糖を起こします。
そして、そのあと必ず過食になります。

低血糖を防ぐためには「こまめに食べる」ことが必要です。
そしてもうひとつのポイントは、「血糖値を上げにくいものを食べる」ということです。
過食をするときも、あまいものや白米や白パンなどは避け、野菜やタンパク質などのおかずを食べることです。
そうすることで食後の低血糖を防ぐことができます。

これはあとで嘔吐するときも、しないときも、です。
当然、あまい食べ物や飲み物、スナック菓子などは厳禁です。
白米や白パンなども避けたほうが良いでしょう。

具体的になにをたべたらよいかについては、4章の治療の項でくわしく書いていますので、お読みください。


もちろん、病的な心理的要因が原因のひとつとしてある場合は、それを同時に治療することが必要です。
過食症の治療経過で、栄養失調を治し、血糖値が安定して、過食の症状が落ち着いてきても、ある日突然、過食がぶり返すことがあります。
患者さんに話を聴くと、そういうときには必ず精神的ストレスがあります。

多くの過食症の患者さんはストレスにうまく対処することが得意ではないようです。
ストレスをうまく発散できない場合、過食をすることで発散しようとするのです。
経過が長い患者さんは過食嘔吐がレジャー化してしまい、
逆に「しないと落ち着かない」という人もいるくらいです。

しかしこれは「依存症」と同じであり、健康的な方法とはいえませんし、
実際の問題解決にはなりません。

ストレスの解消方法、またはストレスを生み出す考え方を変えていくと、生きていくのが楽になり、過食も改善します。
その場合は心理療法の専門家の助けを借りることが必要です。

(なぜあなたは食べすぎてしまうのか―低血糖症という病  矢崎智子 東京書籍)







一般には、摂食障害は自分を肯定できないことが原因であり、「心の病気」と言われています。
とくに母親との関係が良好でないなどの問題があると、摂食障害を起こしやすいと言われています。

ほんとうに、摂食障害は「心の病気」なのでしょうか?

クリニックハイジーアに来院される摂食障害の患者さまに多いのは、
心療内科で、摂食障害のためのカウンセリング(心理)を受け、自分を理解できるようになったが、過食の症状は、まったく変わらない。」
または
心療内科で、抗うつ剤などのお薬を処方されたが、過食の症状は変わらない。」
といった訴えです。

ナゼかというと、過食症の原因は、「心」ではなく、カラダに問題があるからなのです。
過食症」や「過食と嘔吐」は、カラダの治療でおさまります。

では、過食の原因は、いったい何でしょうか?
過食の症状をお持ちの患者さまに共通して見つかる原因は、二つあります。
低血糖症」と「満腹中枢と食欲中枢という二つの自律神経の機能低下」です。

低血糖症とは、簡単に説明すると、インスリンというホルモンが過剰に分泌されるために血糖値が下がりすぎてしまう状態です。その結果、低血糖から脳を守るために「食べろ!」という命令が起こりますから、自分の意志で食欲をコントロールすることができなくなります。
例えば、
「プチッ!とスイッチが入ったように、食べ始めたら止まらない!」
といった症状がある場合では低血糖症を疑います。

また、満腹中枢と食欲中枢は自律神経に支配されていますから、自律神経の情報を伝達するための伝達物質が無理なダイエットなどで極端に不足すると、「お腹がいっぱいになった。」という情報が伝達できないわけですから、いつまでも食べ続けることになります。
また、自律神経は満腹中枢と食欲中枢だけではありません。
冷える、浮腫む、だるい、疲れやすい、よく眠れない。
などの、さまざまな自律神経失調症状や不定愁訴の症状もあらわれます。

誰にも相談できずに、一人で悩んでいませんか?
摂食障害」は一生治らないと、決めつけていませんか?

クリニックハイジーアでは、患者さまが「摂食障害」という負のスパイラルから抜け出し、体重のことなど気にしないで人生を思う存分謳歌していただけるよう、治療をおこなっております。

http://www.clinic-hygeia.jp/embarrasses/05.html


過食症の患者様は、「一日中食べるのを我慢しているが、
『プチッ』といったんスイッチが入ると、食べはじめて止まらない」とおっしゃいますが、それにはさまざまな原因があります。

まず考えられる大きな原因のひとつは、「低血糖症」です。


甘いものや精製された炭水化物を食べると、血糖値が急激に上ってしまうので、
インスリンという血糖値を下げるホルモンが過剰に分泌されます。その結果、逆に血糖値が下がり過ぎてしまい、
今度は脳を守るために食欲が起こります。

同時に血糖値を上げるためにアドレナリンなどの「攻撃ホルモン」が分泌され、
いわゆる「キレる」状態になってしまうので、発作的に過食を起こしてしまうのです。


もうひとつの原因は、「脳の栄養不足」です。


ビタミンB群は、脳の食欲中枢と満腹中枢が機能するための大切な神経伝達物質の材料ですが、
無理な食事制限や過食による糖質過多で欠乏状態になります。
これを治すためには治療レベルの量のビタミンB群が必要です。

亜鉛は、過食と拒食の両方に関係しており、
適度な食欲と満腹感を得るためには必須の栄養素です。


また、潜在性鉄欠乏状態(隠れ貧血)では、
強い疲労感や無月経、そして低血糖症をより悪化させるため、貧血の治療が大切です。

http://www.clinic-hygeia.jp/ex/ex-05.html





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