G8各国の政治体制

古森記者、否定する。他。 - 黙然日記」に触発されて、大雑把にまとめてみました。

イギリス

元首は国王。
貴族院(上院)(House of Lords)と庶民院(下院)(House of Commons)の二院制。国民が選挙で投票できるのは庶民院のみ。庶民院の方が貴族院より優越します。
首相は庶民院の多数派から選出される議院内閣制。

ドイツ

大統領がいるが、大統領には政治的な権力は連邦議会の解散権以外、ほとんどない。選出は下院議員及び州議会からの選出議員で構成される連邦会議で行なわれる。
首相は、大統領が候補者を指名して下院の過半数の支持を得るか、あるいは下院による別の候補者が下院過半数の支持を得るという形式で選出される議院内閣制。
議会は連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)の二院制連邦議会直接選挙、連邦参議院は各州政府からの任命で、連邦議会連邦参議院に優越します。

フランス

大統領制で、大統領は国民の直接選挙で選ばれる。首相の任命権、国民議会(下院)の解散権、法案の国民投票権、非常時大権など強い権限を持つ。しかし行政については首相が行い、首相は国民議会(下院)の信任を受けなければならないという議院内閣制的要素も強い。このため「半大統領制」とも呼ばれる*1
議会は、国民議会(下院)と元老院(上院)の二院制。国民議会は国民の直接選挙、元老院地方議会議員などによる選挙人団による間接選挙。国民議会が元老院に優越します*2

イタリア

大統領制で、大統領は議会の両議院議員と各州代表による間接選挙で選ばれる。首相の任命権、議会解散権、非常時大権を持つが、行政については首相が行なう「半大統領制」。
首相は大統領の任命によるが、議会の信任が必要。
議会は元老院(上院)(Senato della Reppublica)と代議院(下院)(Camera dei Deputati)の二院制で、双方とも国民の直接選挙。元老院・代議院ともに対等。

ロシア

大統領制で、大統領は国民の直接選挙で選ばれる。大統領には首相の任命権、国家会議(下院)の解散権、国家会議(下院)の内閣不信任決議拒否権*3、議会の法案に対する拒否権がある*4
首相は、大統領の任命によるが、国家会議(下院)の承認が必要。
議会は、国家会議(下院)と連邦会議(上院)の二院制。国家会議は国民の直接選挙、連邦会議は各共和国・州の大統領・知事により任命された代表で構成。

カナダ

国家元首はイギリス国王で、総督が代理を務める。各州には総督が任命する副総督がいる。副総督は各州の州議会の法案を保留する権利、州首相を罷免する権利があるが、連邦首相により罷免されることもある*5。総督の権限は名目的、儀礼的なもので、実際の行政については首相が行なう。
内閣は、形式上枢密院*6に設置された委員会であるが、事実上は議会に対して責任を負っている。
議院内閣制で、首相は下院の多数党の党首が任命される。
議会は、国王(総督)、下院、上院によって構成される二院制。上下両院を通過した法案に対して、国王(総督)は慣習上裁可しなければならない。上院は首相の助言により総督が任命する。下院は国民の直接選挙で選ばれ、下院は予算案、課税法案の先議権や憲法改正における下院決議の優先権などの点で上院に優越する*7

アメリカ

大統領制で大統領選挙人を通じた間接選挙だが、制度上は直接選挙に近い。大統領が行政権を掌握しているが、議会の解散権はなく、法案提出権もないが、教書による事実上の法案提出権を持っている*8
議会は上院と下院の二院制で、上院は各州で2名ずつ選出、下院は直接選挙。上院には条約承認権や大統領の長官、最高裁判事任命の同意権があり、下院には予算案などの先議権があるが、基本的に対等*9

日本は一院制にすべきか否か

現在、憲法を変えようという動きが活発化しており、その中に参議院を廃止して一院制に、というものもあるため、一応G8各国について並べてみた次第です。OECDの先進国内で言えば一院制の国も少なくありませんが、G8クラスの国では全て二院制です。
とは言え、国民が二院とも直接選挙できるのは、日本以外ではイタリア、アメリカくらいで、アメリカの場合は州での選挙なのでちょっと毛色が違います。イタリアについては詳細は調べ切れていません。

さて、橋下大阪市長地方分権化を進めることと同時に参議院を廃止して一院制にすることを主張しているようですが、実際に地方分権化を進めたいなら、参議院アメリカ上院ドイツ連邦参議院ロシア連邦会議式に、地方自治体代表という風に改革すべきと主張するのが筋でしょう。
まあ、橋下氏の提案はその場限りの人気取りを狙ったポピュリズムでしかないので、筋の通った主張を彼に求めること自体ナンセンスですが。

平和ボケした日本に吹き荒れる「改憲」ごっこ

日本国憲法が時代遅れだ、的な改憲論はずっと以前からありましたが、右派・保守政党が野党になって以来、その動きは無責任な過激さを増しているようです。

一般論として、憲法の規定が現状にそぐわないという評価自体は理解できますが、立法や行政の運用で対応できないものではなく、震災復興や原発問題、年金問題や経済問題への対応の方が国民生活のために優先されるべきでしょう。
しかし、国民に憲法で縛られている政治家・政府にとっては、そうではないようです。

国民の側から見れば、現実に生じている問題に対して立法措置で対応できないことが具体的に指摘されなければ改憲の必要性は薄いわけですが、そういったことは議論されず、専ら右派政治家やそれを支援する産経新聞などのメディアが大騒ぎしている状況です。

よく言われる「軍隊の保有」を明記するべきとの主張ですが、現実に自衛隊が存在しているわけで、名前を「自衛軍」や「国防軍」に変えたところで強くなるわけでも何でもありませんから、必要性に乏しいと言えるでしょう。もちろん、仮想敵国であるロシアや中国が、「自衛隊」から「軍隊」に名称変更した途端に日本の軍事力が増大したと評価するわけもありません。ただし、日本の脅威を殊更主張するようにはなるでしょうね。ロシアや中国の軍事関係者から見れば、「日本軍」が復活したというのは自国の軍事予算拡大のための格好の宣伝材料ですから。憲法に「軍隊」明記を主張する人たちは、自己満足のためにわざわざ仮想敵国に軍拡の言い訳を与えているようなものです。
まさに平和ボケです。


追記
こういうブクマに対して。

憲法改正=戦争・軍靴、はさすがに洗脳されすぎ。9条は維持、その他は文中にもあるように時代遅れなので随時改正、で全く問題ないと思うんだが。 2012/05/06

本文をよく理解できていないようですので、再度わかりやすく記述します。

一般論として憲法の規定が現状にそぐわないという評価自体は理解できますが、立法や行政の運用で対応できないものではなく