第21回会合(2007/10/3)

引き続きヒアリング。今回は保育・児童教育関係で厚労省文科省,さらに教育関係で文科省が対象になっています。まあほとんどの話は一度知事会や市長会・町村会の代表を招いたときに議論して,どうもなかなか中央省庁には認められない,という話になっているので,委員の方が若干詰問調になっている感じも。議論の内容としては,これまでに出てきた経産省環境省国交省(交通・観光)などでは主に中央省庁による同意とか協議をどうするか,というものだったのに対して,前回の厚労省の労働分野や今回の社会保障文科省の教育関係は,単に同意を設定するかどうかというだけでない問題が出ているように思われます。同意が問題であるときは,基本的に現行の制度設計を前提として,関係の処理の仕方を事前のチェック(同意・協議)から事後のコントロール(是正の要求など)に変えていくという文脈であるように思われますが,社会保障関係や教育のような分野では,委員の間にそもそもの制度設計を変える必要があるのではないか,という問題意識があって,そのために議論も白熱する傾向にあるのではないかと思われます。*1後者のような分野では,これまで存在してきた福祉国家体制を社会経済環境やライフスタイルの変化にあわせて再編成する必要に迫られている,言い換えると,これまでの制度がかなり制度疲労を起こしているという問題意識が強いのではないかと。しかし,例えば社会保障制度全般を問題視することは地方分権改革推進委員会の管轄内で可能なのか,という問題がありますし,また,中途半端な手直し(制度の補完性を考えないような手直し)では改革の結果より悪くなってしまう,ということも想定されます。本当は抽象的なゴールが設定された上で分権委員会の職分が定まっている,というのが理想なのでしょうが,それがない以上,議論の進め方や前提の置き方にも一定の配慮をしなくてはいけないのかな,というところです。
で,本題ですが,まずは保育・児童教育関係について。議題となったのは,保育所の最低基準関係,幼保一元化,「保育に欠ける」の定義,保育所の直接契約方式,放課後子どもプランの5つ。このうち保育所の最低基準関係については,前に小早川委員が法制問題のところで議論されているような話で,国の義務付け・枠付けを緩めるというところがポイントになるようです。厚労省の側でも「サービス事業者が工夫してユーザーが選ぶ,特にひどいものについては事後チェックするという考え方は福祉の世界でも浸透しつつある」と基本的な流れは了解しているとしたうえで,実態調査を行って,科学的な基準に基づいて最低基準を解除できるものからしていく,としています。まあじゃあこれまでの基準は科学的に妥当だったのか?という話になると,例えば面積基準は昭和22年に目視でだいたいたたみ一畳…とかいう話であるのに,でもその基準は科学的な根拠がないと変えない,ということで,聞いている方としてはあまり説得力を感じることができない内容になってしまいます。委員の方は,最後の論点整理の井伊委員の話にしてもそうですが,参酌基準のように(最低基準に)一定の幅を持たせてはどうか,という提案が多かったのではないかと思いますが,こういう風な義務付け・枠付けの緩和を巡っての半ば水掛け論的な議論というのは最終的にかなり多くなってくるようなことも予想されるのではないかと。
次に,幼保一元化や,放課後子どもプランのように,厚労省文科省の共管が問題になっているところは,冒頭にも書いたような社会保障制度の再設計のような議論と結びつくような話ではないかと思われます。例えば,前者については(教育機関であるところの)幼稚園の園児数が減少傾向にあるのに対して保育所の子どもは増加傾向にあり,就学前教育に特化する幼稚園への需要が厳しくなっている,という問題意識のもとで,委員からは根拠法令の一元化(井伊委員),就学前は厚労省・就学後は文科省という整理(丹羽委員長・猪瀬委員)といったような,中央省庁の再編にも繋がるようないわば「過激な」提案がなされます。一方で現状の制度を所与とすると,「認定子ども園」のように厚労省文科省の職分を維持したまま相互の連携を図るという解決になるわけで,現状の制度をどのように捉えるかによって改革の提案は変わってくるのでしょう。個人的にはそのような大きい改革はある程度必要だと思うところですが,冒頭にも書いたように,拙速に一部のみを変えて却って悪くなるという危険性や,そもそもこの委員会の管轄から見てどうか,という問題はあるわけで,そのような社会保障制度全般を議論するところなしにこの委員会だけで突っ走ることができるかというと,最終的には難しくなるのではないかと思ったりしますが。
保育の直接契約方式もまあ似たような所があるのではないかと思います。一元化とは違う方向での社会保障制度の再設計,すなわち介護保険制度のように市場を活用した制度を志向していくと,どうしても現在の「保育に欠ける」という規定−さらには保育サービスの費用を応能的に負担するという前提−に抵触することになります。厚労省の回答では,市場を活用することには躊躇があるというか,「責任が持てなくなる」という感覚を持っているのかな,という印象を受けました。まあ制度設計全体について地方分権改革推進委員会に言われたから変えるというわけにもいかないのかもしれないのですが…。
教育については,主に教員の人事権,国庫負担制度,教育委員会について。人事権については第14回でも議論になったように,中核市等に人事権を降ろすと僻地・離島で教員が確保できるか,という現在医師で起こっているような問題が起きるのではないか,という懸念が議論されています。文科省としては,広域的に教員を確保できるしくみをつくってから人事権の移譲を進めたい,という回答ですが,委員会(丹羽委員長)は政令指定都市は既に人事権を持っているんだからできるんじゃないか,という主張。まあ政令指定都市が10程度であるのに対して中核市を入れると50くらいになって,人口もかなり増えるので確かに慎重に検討する必要はあるとは思いますが…。しかし,このやり取りはない。

文科省
中核市には研修の義務(初任者研修と10年経験者研修)を負わせる改正をしたので,中核市の立場からは人事権が降りてくるのは自然と考えているが,他の市町村,特に僻地を抱えている町村は中核市が独自の採用をしてしまうといい人材がそこに集まってしまって,結果として他の市町村には二番手・三番手の教員しか回ってこないのではないか,とこういう懸念があって,広域的な人事のしくみが保証されない限り中核市のひとり勝ちのようなことは認められない,とそういう意見が出てきている。そこは調整が必要。
(丹羽委員長)
中核市だけ認めて,他のところには都道府県が人事権を持つということであれば調整は可能ですよね。偏在ということもないよね。
文科省
現に指定都市についてはそういうかたちになっている。ただ一方で指定都市が人事権を持つのはけしからんという県もあって,広島県などは広島市の人事権を県に移せという主張をしている。そういうところもあるわけで,意見の隔たりがある。

議論自体に違和感はないのですが,これで広島県の話を持ってくるのはちょっと酷い。なぜなら,広島県はほぼ唯一,教育長に文科省出身者を最近(2007年4月)まで受け入れていた県だからです(手持ちのデータでは1993年から)。*2しかもiJAMPのデータベースによると,この問題を担当する初等中等教育局の幹部に広島県教育長経験者が二人もいたりするわけですが…。広島県が2007年4月以降に突然そういう主張をし始めた可能性もあるので断定はできませんが,そうじゃないとこの話を「意見の隔たり」の根拠に使うのはちょっと見識が疑われるのではないかと…。
国庫負担については,交付税は流用される可能性があるとか(高校と違って)無償の小中学校の場合は一定の財源を保証すべき,というこれまでの論点を基本的に繰り返しているところで,まあそれはわかるところなのですが…。やはり行政学的な課題として,総額裁量制が地方の裁量を十分に高める機能を持っているかどうかについて,ある程度実証的な蓄積がないとなんともいえない気がします。もし総額裁量制で十分に地方が裁量を発揮することができるのであれば,国庫負担金できちんと保証したほうが,総額が減りつつある交付税で保証するよりも安定的な財源となるように思われますので…。地方としても,財源の中核的な部分については安定的に確保されたうえで,今回要求しているような看護師など規定されていない職種の増員については限界的な負担増とセットで自分の地域に提案できる,というほうがすっきりするように思うのですが。
で,最後の教育委員会は,「形骸化してるからいらない」という地方側・委員と,「中立性・安定性確保が必要」という文科省(+露木委員も賛成)という感じ。要するに選挙で選ばれた首長が教育政策に対してどの程度直接的な影響を及ぼすべきか,という話で,文科省は首長の影響があることが全くいけない,といってるわけではなくて,例えば二期首長を務めれば教育委員を全員変えることができる,ということを認識しています。ダイレクトに首長が影響力を行使するか,あるいは何らかのクッション/タイムラグがあったうえで影響力が発揮されるべきか,という問題になるわけですが,これはやはり難しい。*3教育委員会は最も執行機関としての性格が強い地方行政委員会であり,例えば都道府県によってはそれなりに知事部局と自律的な人事ローテーションをもっていたりもするわけですが,これを維持するのはやはりさしあたりは教育政策の特殊性を説明し,委員を説得する必要があるように思われます(今更ですが)。確かに教育内容について知事の過度な介入があるのはどうかとは思うのですが,内容中心で言うなら中央政府のほうは議院内閣制の官庁(つまり政治ラインに乗ってる機関)である文科省が執行機関で内容については中教審の答申を配慮する,ということになっているので,同じ方式でできないかといわれたときにどの程度有効な反論ができるのか,というと疑問だったりします。
ヒアリング終了後は井伊委員によるくらしづくり(社会保障関係)の論点整理ということで。詳しい話は提出資料をご覧頂いた方が早いと思いますが,主要な議論としては,第16回でも主張されているように,医療など社会保険制度を都道府県単位で考えるということと,社会保障における受益と負担の関係を明確にしていくということでしょう。そのときのエントリでも書いたのですが,その前提条件としては,他の社会保障制度との整合性や,地方自治体・保険者間のイコールフッティングが非常に重要になるのではないかと思われます。例えば医療保険を考えたときでも,まず健保組合・政管健保国保でぜんぜん保険料(率)やカバレッジも違いますし,国保の中でも課税ベースなどは全く違ってきます。*4社会保障全体の再設計が地方分権改革推進委員会の管轄としてできることなのか,という問題があるので慎重に検討すべきだとは思いますが,そこまで含めればひとつのゴールの在り方ではないかな,と思われます。僕自身の感想としては,受益と負担の関係は重要だと思いながらも16回で高知県から意見が出されたようにリスクを共有できる保険者としての国の役割についても検討すべきだとは思いますが…。
それから,なんと言うかこれはご報告(?)みたいなものですが,今回から少しご縁があって主に委員の専門外の資料整理中心ということで,井伊委員のお手伝いをすることになりました。いまのところ一応このブログは時間の許す限り細々と続けていこうかなぁ,と思っているのですが…(検討中)。事務局の中の人になるわけではありませんし,そもそも僕自身そんなにたいしたことがわかってるわけではありませんが,あとで「実はそうなの?」と思われるのもどうかと思いますので,一応お断りまで。そういうお手伝いをしながら書いてると思っていただければ幸いです。

*1:で,まあこのエントリも長文化するわけですが…。

*2:2000年以降で教育長に文科省出身者を迎えてたのはあと香川県だけ

*3:実はあさってこの関係の話を学会報告でやる予定だったりするのですが…。

*4:ちなみにこの部分については,北海道大学木村真先生のディスカッションペーパー「税・社会保険料の水平的公平性」が非常に参考になるのではないかと思います。いやしかし,よくこれだけ調べられたなぁ…と。本当に凄い。