今年のベスト10

■ページを捲る手を止められず、一気に読んでしまった今年の10冊

1 ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟

  
 何度となく挑戦しては挫折してきたこの小説を、この新訳によってようやく通読できた。夏の暑い最中、一気に読んだ。この小説の持つ熱気と今年の夏の暑さは、併せて思い出されることになるのだろう。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)


2 原武史『滝山コミューン1974』 


■→http://d.hatena.ne.jp/takabe/20070602#p1


3 若島正『ロリータ、ロリータ、ロリータ』

 
 小説の数ページを様々な角度から解釈することだけで一冊の本としてしまう。それによって、ナボコフという作家の破格の豊穣さを浮かび上がらせるという筆者の戦略の巧みさ。小説の細部に淫する快楽を心底から堪能できます。『ロリータ』をもう一度読まなければ。

ロリータ、ロリータ、ロリータ

ロリータ、ロリータ、ロリータ


4 桐野夏生『メタボラ』

 
 もう大家であるのに、小説を作る技術をアップさせているのがこの人の偉いところだと思う。とは言え、モチーフを盛り込みすぎて全体としては破綻してしまっているのだけど。でも、そのバランスの悪さはこの人においては瑕になっているんじゃなくて魅力になっているんだよね。

メタボラ

メタボラ


5 上杉隆『官邸崩壊―安倍政権迷走の一年』 

 
 安倍政権崩壊のドキュメンタリー。出版時期の関係で、辞任劇までは踏み込んでいないのだが、いやあ。面白かったです。 安倍政権の無様さよりも、小泉の凄さというのが、改めて認識される。凄さというのは、もちろん皮肉な意味で。「自民党をぶっ壊す!」という小泉のスローガンは、当時随分と白けた気分にさせられたけど、これを読むと、いやホント小泉って自民党をぶっ壊したんだな、と実感できる。小泉が組織としての政党を空洞化させたことの功罪は、これから問われていくことになるのだろうな。

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年


6 福田ますみ『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相』
 
 再び新潮社のドキュメンタリー。レヴェル高いのが揃っているなあ。力の弱い個人が一方的な審問の状況に追い込まれるというカフカ的世界が、現在の日本で現実に起きている、ということ。

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相


7 四方田犬彦『先生とわたし』

 
 いやこれ良い本ですよ。四方田センセイの鼻持ちのならなささえ気にしなければ(笑)。

先生とわたし

先生とわたし


8 竹熊健太郎『箆棒な人々―戦後サブカルチャー偉人伝』

 
 初期『クイック・ジャパン』のアナーキーな面白さを思い出さずにはいられなかった。もうあんな雑誌、二度と現れないんだろうな。

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)


9 渡辺靖アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所』

 
 これも新潮社か。国家とコミュニティの緊張関係の上にアメリカという国が成り立っていることを教えられました。「小さな政府」というのは、きっちりと確立された「コミュニティ」と相補的でないといけないんだな、ということも。

アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所

アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所


10 吉田修一『悪人』

 
 こんな面白いポジションに立っている男性作家って、今、他にいないよね。個人的には村上龍の後継者と位置づけています。

悪人

悪人