エンジニアの未来サミット0905へ行ってきた

土曜日、エンジニアの未来サミットへ行ってきました。というわけでメモメモ。ぐっときたトコロの覚書と感想など。

前置き

  • 司会の方
    • IT業界のネガティブなイメージを変えたいという思いで、前回のイベントを開催した。
    • 学生とアルファギークの質疑応答形式で行ったが、学生が聞きたいこととギークが伝えたいことに差があり、不完全だったと反省した。
    • そこで、今回は趣向を変えた。アルファギークに語ってもらい、会場の質問に答えるという形式にした。

自己紹介と導入

会場
  • 25歳以下:  30%
  • 25〜30歳未満:20%
  • 30歳以上:  50%

エンジニアが9割以上、エンジニア以外は若干名(5〜10名)。※数字は挙手の様子を見た印象です。

  • よしおかさん
    • 人生に正解はない。正解を期待するとヤバい。事例を参考にまねっこをするのがせいぜいであり、他人のやったことのコピーはできない。弾さんになりたいと思ったところで弾さんになれないのと同様。今日は、事例を積み上げていきたい。

よしおかさんの話を生で聴くのは、前回のエンジニアの未来サミット以来でした。前回のよしおかさんの話のおかげで、私は勇気を得て、社外の勉強会へ行くようになりました。その結果、自分の世界がちょっと広がりました。だから、会場でよしおかさんを見かけた時、思わずお礼を言いたい気持ちになりました。結局言えませんでしたがw 代わりにここに書いておきます。ありがとうございます。

時代と技術、エンジニアについて

意思さえあればキャリアを設計できる時代
  • よしおかさん
    • 近年、基盤のコンポーネントはほとんどすべてがオープンソースになった。そのおかげで、いまは意思さえあれば、自宅で作れる。20年前は、基盤のソフトウェアを作ろうと思えばハードウェアベンダに入るしかなく、10年前はMicrosoftOracleに入るしかなかった。シリコンバレーへ出稼ぎに行くしかなかった。
    • エンジニアライフとして、当時と今のどちらが幸せであるかとはいえない。が、もし今自分が25歳くらいで会場に座っているなら、オープンソース活動にかかわることを選ぶ。コミュニティに出かけていき、ビールとピザを楽しみながら、技術について議論するだろう。
    • チャンスは今の方が断然多い。昔は社内で完結していた。凄い技術を持つ人や製品を作った人が社内にいて、その人から全部教わっていた。垂直統合型から水平統合型になり、さらにオープンソースになって外へ広がった。いまは、技術面での憧れのアーキテクトが同じ会社にいなくても、アクセスして交流できる。よい時代になった。
憧れのロールモデル(神)が、社外に、世界中にいる時代
  • 谷口さん
    • いまは社内に凄い人が揃っている時代ではない。たとえば、自分は2001年頃からShibuya.pmに参加する中で、当時中心になって活躍していたオン・ザ・エッヂの人たちを見て、一緒に働きたいと思った。シックスアパート宮川達彦さんを見習いたいと思った。
    • 宮川さんみたいになりたいと思ったからこそ、色々なことができた。CPANモジュールをいくつか作れたのもその一つだし、茨道を歩んできてもエラくなれるということも分かった。
    • いま、自社内に目指す人がいない場合でも、世の中で勉強会は活発に行われている。若い人にチャンスがいっぱいある。
  • よしおかさん
    • いまは、社外にいる神の姿を見ながらコードを書く時代。
オープンソース技術を使うことについて
  • よしおかさん
    • 技術は、会社で専有されるものではなくなり、社会やコミュニティで共有されるものになった。
    • 会社の基幹システムを「うちの製品」で固めない強さというものがある。「うちの製品」で固めると、会社がつぶれたら全部終わってしまう。オープンソースだとそうはならない。
    • オープンソースの技術は、ポータブルである。また、使っていく中で学んだ知識は、普遍的である。
    • RDBMS、OS、コンパイラ…時間がたってもベースの作りは変わっていない。
新しい技術について
  • ひがさん
    • キーバリューストアは、技術が後退して、昔からあったものがちょっと変わって出てきたもの。
    • 時代が動こうとしているこういう時は、皆の持ってるノウハウが一列だから、今ノウハウをためると第一人者になれる可能性がある。
    • 若い人は、こういうチャンスに新しいものにチャレンジしてほしい。
  • 谷口さん
    • 新しい技術は次々出てくる。そして、陳腐化するのも早い。
    • 「いま自分は新しいことやってないやー」とか思うんじゃなくて、どんどん取り組んだらよいと思う。

情報発信について

ブログでの情報発信
  • よしおかさん
    • 登壇者は皆ブログで発信してますね。ひがさんもよく書いてる。
  • ひがさん
    • ブログを書くのはキライ。本や文章を書くことが苦手で、書いていて非常につらい。でも、読んだ人から面白かったとかためになったとか言われると、書いた甲斐があったと思う。
    • オープンソースも一緒。コードを書くことがそんなに好きなわけではない。自分のためにやっているのではなく、人のためになりたいからやっている。Seasarのはじまりもそうだった。
  • 楠さん
    • 仕事とブログを去年まで完全に分けていた。今年から名前をだして書くようになった。
    • その結果、良かったのは、間違ったことを書いたら正してもらえること。間違ったままでいるのは怖い。また、世の中、どこに味方がいるかわからない、と感じるようになった。

書くのがキライだと明かしながら、あれだけ大量の記事を書くひがさんは、すごい人だなぁと思いました。「嫌いだけど、人のためになるからやる」という姿勢を尊敬しました。日頃から「成功した人は後進のために情報発信しよう」と発言されているのは知っていたけど、ご本人が実践されてるということですよね。

政治と情報発信
  • 楠さん
    • 昨年、インターネット規制についてブログに書いていたら、官僚の人が見ていて、自分が言及した問題がいつのまにか直されていたことがあった。物事を納得できる方向に持っていけるという良さをブログに感じた。
  • よしおかさん
    • ブログが法律を変えうる、という考えを持てるというのが凄い。コードではないけど、それも文章による一つのHACKだと思う。
  • 楠さん
    • ソフトウェア開発の現場と社会でやっていることは同じ。各人の思い入れや思い込みのズレをすり合わせたり、そんなつもりはなかったのに影響しちゃったというような誤りを修正したりC言語のベストプラクティスがあるように、「法律の書き方」なんて本が市販されていたりする。
  • 楠さん
    • ただし一点違う。ソースコードは変更履歴をたどれるし、メーリングリストを見れば議論の経過もわかる。法律の場合、国会議事録を読んでも分からない。非公開の文書に書かれている場合もある。(アメリカの事例を出して)今後は政治過程のオープン化も進んでいくかもしれない。
  • よしおかさん
    • いまは議員もメルマガ持っている。宣伝のためかもしれないが、情報発信やプロセス公開という意味では、良い流れだ。

この部分に限りませんが、楠さんのお話がとても面白かったです。切り口が多面的で、大学の先生の講義みたいでした。途中、政治プロセスのオープン化とか、なんだか話の流れがスゴイことになってきたぞ、とハラハラしたけどw

あとで谷口さんのブログを読むぞーと意気込んで帰宅しましたが、検索してみたら、日頃から読んでたみたいで…あれれ?(雑種路線でいこう) ブログと筆者の名前が、自分の中で結びついていなかったようです。これからも読みます。

会社に関する情報発信
  • よしおかさん
    • 昔は、会社に入ってみないと、その会社がどんなところか分からなかった。
    • 今は、学生もしたたかなもので、掲示板でブラックな会社情報を共有している。

いわゆるブラック会社ランキングみたいなモノのことでしょうか。就職活動中、私もああいった情報が気になることもありました。情報系の学生だったので、まわりでもよくその手の話題になっていました。

しかし、今なら「あれはあまりアテにならないから、鵜呑みにせずにネタとして見た方がいいよ」と、私は後輩に発信したいです。勤続年数、離職率、平均年齢や平均年収から、どこかの誰かがでっち上げたブラック会社リストをみて、疑心暗鬼になってもしかたがないんですよね。実際に働いている人に話を聞いてみるのが一番だと思う。勇気と行動力は必要だけど、そっちの方がまだ信用できる情報が得られる。

まーそんな当たり前のことすら分からなかったのが、学生だった私ですが :-)

好きなこと、やりたいことをやるということ

ひがさん「得意なことを生かして、人からの評価を得られるようになった」
  • ひがさん
    • 昔、会社で、管理的な役割に昇進する時期があった。自分はその時、昇進しなかった下位の数割だった。それまで成果を出していると思っていたが、そう思われていないという評価を突きつけられて愕然とした。
    • その時に、自分に合ったことをやらないと、人に認めてもらえないと思った。
    • その後、Seasarの開発をはじめて、外の人と一緒にやっていくことと、プログラムを作って使ってもらうことが、自分には向いていると分かった。それを続けた結果、いまは恵まれた環境にいる。
    • スキルとのマッチングだと思う。仕事では得意なことを生かさないとダメ。チャンスにトライしていくと、自分に合った仕事なり職場なりに出会えると思う。
  • よしおかさん
    • どうやって、自分に合っているものを見つけるんですか?
  • ひがさん
    • やってみて、続いたり上手くいったりしたら、合っているのではないか。
谷口さん「生きていくのも大変な状況だったけど、楽しかった」
  • 谷口さん
    • 以前、ぬるま湯の中で仕事をしながら、そこそこ満足できる給料をもらっていた。でも、自分に合っているのはこれじゃないと思った。だから、月給が11万円減ると分かっていたが転職した。
    • 給料が減っただけでなく、定時帰りから終電前後で帰る生活になった。終電がなくなって途中駅までしか帰れなくても、節約生活だからタクシーに乗れなくて、歩いて帰ったこともあった。生きていくことすら大変だったけど、楽しかった。自分の求めていたものが、すべてそこにあった…。

谷口さんの転職についての話のくだりで、とても感動しました。やりたいことができる環境を自ら選んで飛び込めば、傍目に苦しい状況であっても、本人はいきいきとしていて人間らしくあることができる、というお話として聞きました。いつか、やりたいことができてるけど生活が苦しいという局面に陥ったとき、聞き返したいと思うような熱い話でした。

会場からの質問コーナー

質問1)労働環境、コンプライアンス、上流下流格差、メンタルヘルスについて。
  • 質問者さん
    • (1)技術者の労働環境は今後どうなっていくと思うか。20年前に書かれた『ピープルウェア』にすら現状は達していない。
    • (2)中小企業でのコンプライアンスの問題は今後どうなっていくと思うか。偽装請負サービス残業など。
    • (3)SIerの上流と下流の(給与、仕事面での)格差についてどう思うか。
    • (4)ITにはなぜメンタルヘルスの問題が多いのか。今後どうなると思うか。

興味深い質問ばかりで、登壇者ひとりひとりにインタビューして欲しいくらいでした。けど、時間ないよね(^^;

以下、登壇者の皆さんの回答から抜粋。

  • ひがさん
    • 上流と下流のどちらかしかやっていない人はダメだと思う。両方するべきである。
    • 上流しか知らないは、どうやって実装したらよいのか分からない設計をする。自分が分からないことを後工程に先延ばしにしがち。
    • 下流しか知らない人は、どういう意図で設計されたかが分からない。そこが分からないとユーザが求めるものと違うものを作ってしまう。
    • ゼネコン体制は、システムの一部しか見ずに作るから、効率が悪い。
    • 1つの会社で上流から下流まですべてやると、結局ローコストだし、(上流も下流も見ているため)質も上がる。

SEになる予定の新入社員全員が、若いうちに上流も下流も経験できるような職場って、どうやって作ればいいんだろう?と思いました。会社の中で人が足りない部署に配属されると、開発を十分に経験する前に、マネジメントの真似事をせざるを得ない場合があると思います。そういう人はどうしたらいいんだろう。

ひがさんがおっしゃることを実現するには、(特にSIerでは)皆が上流と下流を経験できるような社内の体制の整備が、きっと必要ですよね。

  • よしおかさん
    • マネジメントも、経営と同様にプロフェッショナルの技術であり、トレーニングで獲得しなければならない。
    • マネジメント技術が形式知として流通していないことが問題である。マネジメント技術を持たない素人が管理をして、部下が悲惨、という状況が起きる。
    • ただ、会社が故意に人をこきつかったり、デスマーチを目指したりする状況は、あまりないと思う。結果としてそうなるのでは。
  • 楠さん
    • 確率論的に、見積りとは間違うものである。だから、不確実性を共有しなければならない。
    • 建前よりも、人の生活を大事にしていけるような仕事をするべき。契約のやり方を変えるだけでも直せる部分はあると思う。
    • スケジュールをvaliableにするか、人の生活をvaliableにするか。いまは後者になってしまっている。

進行の都合上かと思いますが、楠さんの話がここで途切れちゃって残念。アジャイルな計画と見積りの話を思い出しました。

質問2)登壇者が「今後出てきて欲しい」と思うエンジニア像は?
  • 楠さん
    • 幸せなエンジニアが増えて、ロールモデルが増えるといい。羨ましがられるエンジニアが増えて欲しい。
    • 人口が減ってきているし、景気も悪い。でも、イノベーションはこういうときに起きる。

賛成、賛成。ロールモデルがないとやっていけないということはないけれど、あると励みになると、自分は思います。

質問3)(IPAフォーラムに見られるような)社会人と学生が考えることのスレ違いについてどう思います?
  • 谷口さん
    • 偏った思想をオトナが学生に押し付けちゃダメ。
  • 楠さん
    • 何を目指すか、何をがんばればよいかを、教える側がどう示すべきか悩む。
    • 「何を目指すか」という材料が少ない。提示する時期も重要。学生からは、就職活動前に提示して欲しいという要望がある。

楠さんは、色々な情報系の人を集めて、学生さんたちに会わせる場を設けたとおっしゃっていました。学生さんにとって、非常に貴重な機会になるでしょうね。いいなー。

情報系といっても色々な職種があること、開発=要件定義+外部設計+内部設計+実装+テストだけではないことなどを、実際に働いている人から学べぶことができれば、すばらしいと思います。たとえば、私の場合、働きはじめるまで、開発基盤整備、運用設計、保守の仕事がまるで見えてなかったし。

  • ひがさん
    • IPAフォーラムは老害がどういうものであるかを知る場だと思えば、楽しく見られる。
    • ギャップは、そりゃあると思うよ。

老害を見せることで、学生さんがIT業界に絶望しちゃうともったいないような。

学生さんは、IPAフォーラムもいいけど、エンジニアの未来サミットに、もっと参加すればいいと思います。

イベント全体について所感

今回は、会場が明るくてよかったです。メモを取りやすくて助かりました。

話す内容を関係者間でかなり準備されたとのことですが、たしかに話題が整理されつつも要所要所で深堀されて、聴いていて満足のバランスでした。とはいえ、弾さんがモデレータだった前回の混沌とした展開も、予定調和でない良さがあって、個人的には好きでしたけどw

エンジニアの未来サミットは、終わった後に「では自分は何をしていこう」と考えさせられる素敵なイベントだと思います。また開催されるといいなぁ。ありがとうございました。

メモは、ひとまず第一部まで。