トルコの巨大ホテル王国アンタルヤ


昨年2005年度、トルコを訪れた旅行者数は、約2100万人*1。観光収入は139億ドル。
WTO(世界観光機構)が年3回発表する「世界観光指標」による最新発表によれば、トルコは前年比20%と、ヨーロッパで最も旅行者数が急激に増加している国であることが明らかになった。


現在、トルコ全国に点在するホテルのベッド総数は、80万床といわれているが、年々拡大するトルコの観光市場とそれにともなうホテル需要を鑑みると、2010年までにさらに20万床、合計100万床のベッド数が必要になると推測されている。


新しい市場を睨んだホテル建設が全国で進められる中で、これまでのところ、投資家の目に最も魅力的に映ってきたのが、アンタルヤであったのは間違いない。
昨年2005年度、アンタルヤでまったく新規の投資として、15億8774万YTL(約1430億円)に相当する73件の開発が誘致された。
これらの開発が実現すれば、合わせて約3万7千床の受け皿が新たにできることになる。
ちなみに、73件の内訳は、マナヴガットの23件、アランヤの14件、ケメルの17件、残りはセリック、ベレキ、クムルジャとなっている。


アンタルヤがトルコにおけるホテル開発の中心地であることは、以下の県別ホテル分布表をご覧いただければ、一目瞭然であろう。

県名        ホテル数 部屋数 ベッド数
アンカラ          43   4521   9245
アンタルヤ        388 108827  246200
アイドゥン*2          48   7573  17194
イスタンブール      193  20973  42258
イズミール         59   8898  19447
ムーラ*3           248  35665  83790
ネヴシェヒル*4        38   3391    7047
その他合計        295  24973  58281


さらに、1ホテルあたりのベッド数を平均すると、アンタルヤのホテルは1ホテルあたり633床と、アンカラの215、イスタンブールの219、イズミールの330、ムーラの338、アイドゥンの358をも抜いて、桁外れに大きいことが分かる。


したがって、「トルコで最も大きな100のホテル」のうち、76をアンタルヤ県内に位置する4ツ星・5ツ星の巨大リゾートホテルが占めていたとしても不思議はない。
しかも7位をムーラ県フェティエのリゾートホテルに奪われたことを除けば、上位25位をアンタルヤ県内のリゾートホテルが独占しているのである。


ちなみに、現在トルコ最大のホテルは,アンタルヤ県ケメル市ベルディビにある「Sungate Port Royal de Luxe Resort」で、1173室、2500床。それと並びほぼ同格と見てよいのが、同じくアンタルヤ県アランヤ市にある「Majesty Club Oasis Beach」の1163室、2586床である。


●コングレス・ホテルの将来性


昨年2005年度、トルコで開催された国際会議数は50件を記録した。
ICCA(イスタンブール・コングレス&ビジター・ビューロー組合)の記録によれば、2005年の1年間、イスタンブールで開催された国際会議数は34件。また会議を目的にイスタンブールを訪問した旅行者数は4万3千人。今年度2006年については、5万5千人を目標としているという。


また会議施設としては、全会議数の59%がホテルを主会場として利用している。ホテル以外には、事務所、小さい施設、リゾート、会議専門センターが続く。
国際会議に相応しい規模のコングレス・サロンを有するホテルという観点で、「トルコで最も大きな50のコングレス・サロン」がリストアップされた。
ここに、アンタルヤ県からは約半数にあたる23のホテルがランク入りしている。


なおトップは、アンカラにある「Büyük Anadolu Hotel」で、16の会議場を持ち、最も大きな会議場の収容人数は3000人。あわせて8000人の最大収容人数を誇る。
2位が、イスタンブールの「Hilton İstanbul」。27の会議室、最も大きな会議場は3000人収容、最大収容人数は7190人。
3位が、同じくイスタンブールの「Grand Cevahir Hotel & Convention Center」で、22の会議室、最も大きな会議場が3000人収容。最大収容人数は6000人である。
(なお、トルコを代表する国際会議場「İstanbul Lütfü Kırdar Convention & Exhibition Centre」は、ホテル施設を持たない会議専門施設として、このリストから外されている)


ちなみに世界の会議市場規模は、1700億ドル。うちトルコの市場占有率は、3億ドルでわずか2%にすぎない。
トルコは、この市場における大きな潜在需要を満たすよう努力する必要がある。なぜなら、会議目的の旅行者は、一人あたり通常の観光客の3〜4倍の収入をもたらすからだという。
現状でいえば、会議目的の旅行者は、トルコを訪問する全旅行者のわずか0.2〜3%を占めるに過ぎない。このパーセンテージを早急に上げる必要があり、国際会議場を備えた巨大コングレスホテルの建設の余地がここにある。


●ゴルフホテルもアンタルヤ優位


世界のゴルフ人口は約5700万人で、世界には3万1千箇所のゴルフ場がある。これによる世界の「ゴルフ・トゥーリズム」市場規模は、約1200億ドル。
トルコでも、この市場規模と手付かずの土地に恵まれた条件を生かし、ゴルフ場を有する「ゴルフ・ホテル」建設が年々進んでいる。


ゴルフを目的とする旅行客は、平均して裕福な層に属し、ゴルフおよびホテルへの支払い以外にも、1日平均60ユーロを落としていくという。
そのため、自身はゴルフ場を持たずとも、近隣のゴルフ場と契約を結んだ上で「ゴルフホテル」を名乗るリゾートホテルも増えている。


トルコで現在経営されているゴルフホテルは11軒。うち9軒がゴルフ場を有する。
トルコで最も規模の大きいゴルフホテルは、ベレキ(アンタルヤ)にある「Gloria Golf Resort」。系列の「Gloria Verde Resort」を含め、合計3コース45ホールのゴルフコースを備えるこのホテルは、同時に東ヨーロッパ圏および中東圏においても最大規模といえる。
ベレキでは他にも、合計2コース36ホールのゴルフコースを共有する「Sirene Golf Hotel 」、「Kempinski The Dome Hotel」や、27ホールのコースを有する「Tatbeach Golf Resort」、各ゴルフクラブと提携する「Letoonia Golf Resort」、「Limak Arcadia Golf&Sport Resort」などがある。



* * * *


『Turkishtime』誌では、おそらく市場規模の観点から、「コングレス・ホテル(コンベンション・ホテル)」および「ゴルフ・ホテル」市場にまで言及したにとどまったが、太陽の燦々と降り注ぐ暖かな気候と、海と山に囲まれた美しい景観、豊富な土地を有するアンタルヤでは、それに続く新たな市場として、サッカーのキャンプ需要に対応した「フトボル・トゥリズム(サッカー・トゥーリズム)」と、リゾートでのんびり滞在しながら人工透析、美容整形、レーザーによる近視矯正手術、人工授精などの治療を受けようという患者を対象とした「サールック・トゥリズム(健康トゥーリズム)」にも注目が集まっている。

*1:ちなみに国連機関のひとつにあたるWTO(世界観光機構)の発表によれば、2005年度の全世界での海外旅行者数は8億800万人。したがって、トルコの占める割合は2.5%となる。

*2:クシャダス、ミレトス、ディディマ等含むエーゲ海に面した地方

*3:ボドルム、マルマリス、ダルヤン、フェティエ等含むエーゲ海〜地中海に面した地方

*4:ウルギュップ含むカッパドキア地方

トルコの巨大ホテル王国アンタルヤ

LETOONIA GOLF RESORT BELEK



トルコのビジネス・経済・文化情報誌
Turkishtime5月号の特集記事は、「トゥリズムの巨人たち」。サブタイトルは、「トルコのホテル、ビーチ、コングレスのリーダーたち」。


トルコの、ひいてはヨーロッパ有数のリゾート地アンタルヤに住み、かつて観光業界に勤めていた者として、このような記事を見逃せるわけがない。
早速記事に目を通し、あらためて巨大リゾート地としてのアンタルヤの実力を数字で再確認することになった。


ちなみにここで紹介するデータおよびランキングは、『Turkishtime』誌が観光・ホテル業界誌の大手出版社ボユット出版グループ(Boyut Yayın Grubu)の協力を元にまとめあげた記事から借りたものである。

トライベッカ・フィルム・フェスティバルでトルコの女性監督が受賞

OYUN



ニューヨーク、トライベッカ地区を舞台に開催され、今年で5回目を迎えるトライベッカ・フィルム・フェスティバル(Tribeca Film Festival)*1で、この度トルコ人女性監督ペリン・エスメル(Pelin Esmer)が最優秀ドキュメンタリー新人監督賞を受賞した。


彼女の作品『OYUN/The Play(芝居)』(2005年、70分)は、トルコ南部メルスィン地方、トロス山脈の中ほどにある村*2で生活する9人の女性たちの物語である。
この女性たちの一日は、畑で、あるいは建築現場で、家で、いつ終わるとも知れない労働に従事しながら終わる。
彼女たちは、日常生活に追われながらも、自分たちのライフストーリーを題材にした脚本を書き、それを舞台で演じようと試みる。女性であるがゆえの問題を反映させた『Kadının Feryadı(女の叫び声)』という芝居を。


役づくりの過程で、彼女たちの知らない面が浮かび上がってくる。
ペリン・エスメルのカメラは、彼女たちの創造的な舞台が芝居を作り上げていく様を静かに映し出す。
公演を終えたとき、9人の女性たちには、かすかながら意味深い変化が訪れていた・・・・。


☆トライベッカ・フィルム・フェスティバル公式HP
☆『OYUN/The Play(芝居)』予告編
☆『OYUN(芝居)』トルコ語版公式HP



監督:ペリン・エスメル(Pelin Esmer)
1972年、イスタンブール生まれ。ボアジチ大学で社会学を専攻する。
大学卒業後、ヤウス・オズカン(Yavuz Özkan)監督に弟子入りする。国内外の多くのドキュメンタリー映画、特集作品、コマーシャル・フィルムなどの助監督を務め、同時にカディル・ハス大学で映画制作の講義も行った。

彼女の最初の監督作品『Koleksiyoncu/The Collector(収集家)』(2002)は、ローマ・インディペンデント映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。

この作品『OYUN/The Play(芝居)』は、この2月に開催された第17回トリエステ国際映画祭でも最優秀ドキュメンタリー賞を獲得している他、サン・セバスチャンサンパウロ・フェスティバルで最優秀新人監督賞、モンペリエ映画祭でも最優秀ドキュメンタリー作品賞候補に選ばれている。

*1:ニューヨーク、リトルイタリー出身で、トライベッカ地区に20年以上住み着いている俳優ロバート・デニーロが、ビジネス・パートナーであるジェーン・ローゼンタールと組んで創設したこの映画祭は、9・11テロで打撃を受け、復興に邁進するローワー・マンハッタン地区全体へ貢献するものと評価されている。今年2006年は、4月25日から5月7日まで開催された。

*2:アルスランキョイ(Arslanköy)。メルスィンから北西に約60km奥まったトロス山脈中腹に位置する村。

トルコの春祭り「フドゥレルレズ祭」


フズルの日(Ruz-ı Hızır/Hızır günü)という名でも呼ばれるフドゥレルレズの日(Hıdrellez günü)は、預言者フズル(Hızır)とイリヤス(İlyas)が地上で出会う日と考えられている。*1
「フドゥレルレズ」という名前は、フズルとイリヤスという言葉が結びついて、人々の口から口へと語り継がれるうちに変化したものと思われる。


民衆の間で古来用いられてきた暦によれば、1年は大きくふたつに分けられていた。
5月6日*2から11月8日*3までが、「フズルの日々(Hızır Günleri)」と呼ばれる夏の季節。11月8日から5月6日までが、「カスムの日々(Kasım Günleri)」と呼ばれる冬の季節である。
したがって5月6日は、寒かった冬の日々が終わりを告げ夏の暑い日々が始まる、その最初の日であり、それがこの祭りの由来となっている。


フドゥレルレズにおいて、重要な役割を果たすのが、フズル(Hızır)である。
このフズルとは何か。


フズルは、最も広範に信じられているところでは、「命の水(ab-ı hayat/hayat suyu)」を飲んで不老不死の境地に至り、時々、とりわけ春になると人々の間を廻りながら、困難な状況に瀕している人々に援助の手を差し伸べ、富と恵みと健康を分け与える、アッラーの段階にまで到達した聖人あるいは預言者、と考えられている。

フズルがかつて実在した人物であるのか。その身分や生きていた時代・場所については一切知られていない。
フズルは、春とともに姿を現す春の使者であり、新しく萌え出ずる生命のシンボルなのである。
フズル信仰の広まっているトルコで、フズルの特徴は以下のようなものと信じられている。


1.フズルは、困難な状況に置かれている者の救済に駆けつけ、人々の願いごとを叶える。
2.フズルは、心の清らかな、善意を愛する人々には常に手を差し伸べる。
3.フズルは、立ち寄る場所に富と恵みと豊かさを届ける。
4.悩める人々には力を、病人には治癒を与える。
5.植物を芽吹かせ、動物を繁殖させ、人間に力を与えるよう促す。
6.人々に運が開けるよう手助けをする。
7.幸運と運命(縁)の象徴である。
8.奇跡と驚異の持ち主である。



フズルおよびフドゥレルレズの起源に関しては、さまざまな説がある。そのいくつかはメソポタミアアナトリア古来の文化に帰そうとするものであり、他のいくつかはイスラム化以前の中央アジアにまで遡るトルコ人独自の文化と信仰に帰そうとするものである。
いずれにせよ、フドゥレルレズの祭りとフズルの信仰が、単一の文化の産物である可能性は低い。
古来今日まで、メソポタミアアナトリアペルシャギリシャ、あるいはまた東地中海全域で、春および夏の到来を祝福する様々な儀式が、時に神の名のもとに執り行われているのを見ることができる。*4


トルコにおける春祭り「フドゥレルレズ祭」は、トルコ各地で様々な形で行われる。
大都市に行くほど珍しくなる一方で、小さな町や村では、前もって入念な準備が行われる。
この準備とは、家の掃除、服の洗濯、食べ物・飲み物に関した準備である。フドゥレルレズの前には、家々は隅から隅まできれいに清められる。なぜなら不潔な家にはフズルは立ち寄らないと考えられているからである。フドゥレルレズの日に身につけるため新しい服や靴も購入される。


アナトリアの一部の地域では、フドゥレルレズの日に行われる祈願が認められるようにと、喜捨や断食、犠牲を屠るなどの習慣がある。犠牲と供え物は、「フズルのもの」であり、これらすべての準備は、フズルに出会うことを目的として行われる。


フドゥレルレズのお祝いは、決まって緑地や木々の多い場所、水辺、貴人や聖人の墓・廟などの傍で行われる。
またフドゥレルレズでは、新鮮な春の植物や新鮮な子羊肉、新鮮なレバーなどを食べる習慣がある。春、初めての子羊を食べれば、健康と治癒がもたらされると信じられている。さらに、野原で花や草を摘み、それらを煮出した汁を飲むと、あらゆる病気によく効くと、またこの汁で40日間身体を洗うと、若返り美しくなると信じられている。


フドゥレルレズの夜、フズルの立ち寄った場所や触ったものには多産と富がもたらされるという信仰により、さまざまな試みが行われる。食べ物の容器、倉庫、財布の口は開けたままにしておかれる。家、ブドウ畑、田畑、車を望む者は、フドゥレルレズの夜に望む物をかたどった小さい模型をどこかに置いておくと、フズルが援助してくれると信じられている。


フドゥレルレズでは、開運の儀式もまた広く行われている。この儀式はトルコ各地で見られ、それぞれ異なる名前で呼ばれている。
この儀式は、春には自然およびすべての生物が覚醒するという意味において、人間の歴史も新たに開けるという信仰により、運試しのために行われる。
フドゥレルレズの前夜、運を試し、運命(縁)を開きたいと望む若い女性たちは、緑の多い場所や水辺に集まる。中に水を入れた素焼きの壷の中に、自分の所有する指輪、イヤリング、ブレスレットなどの品物を入れ、その口をガーゼのような布で覆った後で、1本のバラの木の根元に置き去りにする。
早朝、壷の傍に行き、ミルクコーヒーを飲みながらお祈りを捧げる。その後で、壷を開けるのに取り掛かる。壷の中の品物を取り出す際、同時にマーニ(民謡の一種)が唱えられる。それにより、品物の持ち主についての解釈が行われる。


フドゥレルレズ独特のこの方法は、基本的にこのような形で行われるが、地方によって多少の違いが見出される。
近年この儀式は、単に独身の娘たちの運命(縁)を開く目的で行われているようだ。


                        (トルコ共和国文化観光省公式HPより抄訳)


                         

*1:イズミール9月9日大学ブジャ教育学部トルコ語学科助教授メフメット・ヤルドゥムジュ博士によるズィレ(Zile)での調査レポートによれば、フズルは普段陸で住み、イリヤスは水の中で住む、と考えられている。5月5日の夜半、両者は水辺にあるバラの木の根元でめぐり合い、1年振りの邂逅を懐かしむと信じられている。

*2:ちなみに、現行のグレゴリオ暦では5月6日であるが、旧暦であるユリウス暦では4月23日であった。

*3:同じく日本の暦で言えば、11月7日頃が立冬にあたることから、ほぼ同じ暦が使用されてきたことが分かる。

*4:お隣の国ギリシャでは、5月1日が「プロトマイア」と呼ばれる春を祝う日となっており、野原などにピクニックに出掛けたり、黄色い花を摘んで花輪をつくりドアやバルコニーなどに飾る習慣があるのだそうだ。また南ドイツ地方でも、5月1日に広場の中央に「マイバウム(5月の木)」を立て、その周りで踊ったりして春の到来を祝う習慣がある。

トルコの春祭り「フドゥレルレズ祭」

HIDRELLEZ



5月5〜6日*1は、日本の暦の上では「立夏」。
そろそろ夏の気配が立ち上る頃とされる。


トルコではこの両日は、春の到来を祝う春祭り
「フドゥレルレズ祭(Hıdrellez Bayramı)」であり、全国各地でさまざまな形の行事が行われる。


今日はこの「フドゥレルレズ」について、少し紹介してみようと思う。

*1:太陽黄経が45度の時と決められているため、多少のズレが生じる。

トルコには、結婚の方法は30通りもある(後編)


16.既成事実(oldubitti)婚:
ある既成事実によって、一方がもう一方に無理矢理に結婚に持ち込むもの。
娘が男性の弱みに付け込んで関係を迫る、あるいは男性が娘の弱みに付け込んで誘惑(暴行)することによって、結婚へとつなげるものである。


17.金銭と引き換えの結婚:
東部および東南部の田舎の、貧しく教育のない環境の中で見られる。
小学生の子供を通学させず、あるいは退学させ、金銭と引き換えに結婚させるもの。


18.血の代償としての結婚:
東部および東南部の田舎では、殺された人物の「血の代償(kan bedeli)」として、お金、金、家や田畑と並んで、娘が引き渡される現象が見られる。
無教育が根底にある原始的な結婚のかたちである。


19.知り合い、理解し合っての結婚/恋愛結婚:
大きな都市部で、また教育程度の高い環境において、最も広まっている結婚のかたち。
娘と男性が、一定期間友人として付き合い、お互いをよく知り合ってから行われる結婚である。
個性を発見し、経済的にも自由な教育程度の高い若者が、この方法で結婚することを選択する。


20.一夫多妻婚:
共和国成立後禁止されたにもかかわらず、教育の行き届かない田舎ではいまだに継続されている。
男の子を多く持つことで、周囲を支配しようという目的が優先される。


21.契約結婚
やもめ暮らしの女性もしくは男性が、老年期に行う結婚のかたちである。
世話の必要な年老いた男性が、未亡人もしくは未婚の女性と、取り決めの上で宗教的結婚を行う。相手の女性には、お金や金などの経済的支援がなされる。
法律上の結婚を行っていないため、年老いた男性が亡くなれば、女性はそれまでに贈られた金品だけで満足しなければならない。残された遺産は、男性の法定相続人によって分配される。


22.出会い頭の結婚:
偶然の出会いの結果、後先考えずに行われる結婚。
旅行の途中や、友達、友人知人、親戚の家で出会って、あるいは電話で話す時の声や、目や脚、胸に惹き付けられたといった理由で、非常に短期間で決断された結婚である。


23.選択的結婚:
このタイプの結婚は、一般的に母親、父親、祖母、祖父のような家族の中の年長者の勧めによって行われるものであり、一般的に隣人や近親者などの間で行われる。
社会的にみてこの結婚は、経済力の同等な家族間で多く見出せる。


24.外国人との結婚:
外国で働いている者が行う結婚である。
この結婚は、外国人から娘をもらう、あるいは外国人へ娘をやるというかたちにおいて見られるものである。
何らかの楽しさ、虚しさ、問題を伴う結婚である。


25.異なる宗派間の結婚:
結婚が実現されるまでに出くわす障害のトップに、宗教・宗派の違いがくる。


26.妾を囲っての結婚:
大きな都市に暮らす、教育のない金持ちの間では、裕福さの指標として「妾を囲う(metres edinme)」ことがファッションとなっている。
あらゆる点で手入れと出費には事欠かない別の家に、2番目の女性を住まわせて築く不法な関係である。


27.資料(muta)*1結婚:
ある一時のために行われる結婚である。
イランでよく行われているが、トルコでもある環境のもとに行われているのが見られる。


28.仇をとる(öç alma)ための結婚:
殺害を原因とした恨み(kan davası)を持つ、封建時代から続く家族間で、ある家族が先方の家族の名誉を傷つけ、信望をダメにする目的で行う結婚。


29.外婿(dış güveyi)婚:
最近、日本のテレビ番組の仲介で、トルコに結婚相手を選びに来たクニ・ナカゾノに示された極端な関心*2は、トルコ男性が「外婿(dış güveyilik)」という話題に大いに関心を抱いたことが明らかになった。


30.広告による結婚相手の選択:
ごく最近、新聞・雑誌・テレビのテレテックス・ページやインターネットで広告を出すことで結婚相手を選ぼうとする傾向が多く見られる。



* * * *


トルコで見ることのできる結婚形態を以上30種に分類したのは、エルズルムにあるアタチュルク大学カズム・カラベキル教育学部トルコ語学科助教授ルトゥフィ・セゼン(Lütfi Sezen)博士である。
博士は、「トルコにおける結婚形態(Türkiye'de Evlenme Biçimi)」をテーマとした研究において、トルコの広範囲で調査を行いこの結果を発表したが、博士は、トルコで見られる結婚形態の大部分は、女性の発言権の認められない結婚であり、また伝統の受け継がれている地方で特に広まっているものであることを明らかにした。


アナトリア東部および東南部でいまだに続く因習的な結婚形態の一部は、何らかの事件・問題が起きた際、全国的なニュースとなって私たちの耳にも届く。
近年流行となっているアナトリア中部や東南部を舞台としたテレビドラマの中でも、現代日本人である私たちには、にわかに信じがたい結婚例がしばしば登場するが、これは作り話でもなんでもなく、一部の地方の現実の一片を切り取って見せているに過ぎないことが分かる。


個人的には、調査のサンプル数、それぞれの結婚の全体における割合等に関して言及がなかったのが残念である。さらに順不同なのか、順番には何らかの意味付けがあるのか、そこが気になるところだ。
また、27番の意味が不明なこと、29番、30番のように実際の調査結果というより傾向分析(流行分析?)と思える分類が入り混じっているところが、研究としてどうなのか。(正直なところ、29番には笑いを禁じえなかったが・・・)
いずれにせよ、非常に興味深く翻訳できたことだけは白状しよう。

*1:muta=veri(資料、データ) 

*2:2001年、日本テレビ『進ぬ!電波少年』の企画で、トルコ男性とのお見合いを希望する独身女性の中から選ばれた中園邦仁(なかぞの・くに)さんをトルコへ連れて行き、テレビや新聞を通じて花婿募集したところ、なんと167名ものトルコ人男性が応募してきた一件。

トルコには、結婚の方法は30通りもある(前編)


1.下見女(görücü)*1を通じた結婚:
伝統観の根強い地方に多く見られる結婚。娘選びは、結婚予定の若者の母親、父親、近親者によって始められる。若者が娘を気に入るだけでは十分でない。


2.略奪婚(kız kaçırma)/駆け落ち婚:
家族が結婚に完全に反対である場合、略奪(駆け落ち)という現象が引き起こされる。この状況は、社会経済的理由により、あるいは別の理由により、娘側が障害となって発生している場合が最も多い。
この障害の中で、娘側の要求する嫁取金は大きな位置を占める。


3.嫁取金(başlık parası)を伴う結婚:
嫁取金とは、結婚する若者が娘側に支払うお金のことを指す。これは現金以外に、金、家、田畑、農地、家畜という形でも通用する。
東部および東南部の田舎で広く通用している嫁取金だが、これの値引き交渉の片をつけることを、「嫁取金を差し引く(başlık kesme)」と表現する。
嫁取金は、女性を品物と見なす考えの産物であり、原始的な物の考え方の継続といえる。


4.居座り(oturak alma)婚/押しかけ婚:
男性が娘を無理やり連れ去るという状況があれば、娘が風呂敷包みひとつで若者の家に押しかけ、居座るという状況も存在する。これを一部の地方では、「腰掛けを取る(oturak alma*2」と表現する。娘が見初めた男の下へ逃げることもよくある。


5.ヘッドスカーフを奪うこと(baş örtüsü kaçırma)による結婚:
ハッキャーリ、ワン、アール、エルズルムの郡部で見かける結婚で、娘の持ち物を奪うことが、娘を奪うことと同等と見なされている。若者の家族は、娘の家族の同意をうる必要がある。


6.ゆりかごに刻み目(beşik kertme)婚/いいなずけ婚:
互いに非常に仲の良い親友、隣人、近しい者たちが、子供がまだゆりかごにいる間に、ゆりかごにそれぞれ刻み目(kertme)をつけることで婚約させるもの。


7.仔馬が来た(taygeldi)婚/連れ子婚:
未亡人となった女性が、亡くなった夫の子供を連れて、やもめの男性と生活する。あるいは妻を亡くした男性が、亡くなった妻との子供を連れて、独り身の女性と生活するところに発生する結婚。男性もしくは女性の連れてきた子供は“仔馬が来た(taygeldi)”=連れ子と呼ばれる。


8.妾連れ(kuma getirme)婚:
共和国成立以前、不妊の妻を持つ、もしくは男子を持てない男性は、新たな結婚をすることが多かった。現在でも、東部および東南部の田舎では続けて行われている。
このような結婚においては、最初の妻は、後からやってきた新しい妻の下位に置かれることになる。


9.相当・見返り・等価交換(berdel/bedel)婚:
アナトリア東部および東南部において多く行われている結婚で、嫁取金の問題を取り払う意味を持つ。
互いに娘や息子を持つふたつの家族間で、互いに相当するもの・見返り(bedel)としてそれぞれの娘と息子を結婚させあうところに発生するもの。


10.不毛(kepir)婚・異種交換(yaban değisimi)婚:
強制的に行われる結婚の形態で、結婚したいが嫁取金や披露宴の資金を用意できるお金のない、あるいはまた家族の引き起こす問題によって結婚をためらう二人の友達同士が、それぞれの女兄弟を交換し合うもの。


11.死んだ兄弟の妻との結婚・レヴィラット(Levirat)婚*3
東部および東南部でよく見かけるもので、トレ(因習・伝統的習慣)に根ざす結婚の形態。
純潔をよそ者に奪われないための知恵で、夫を亡くした女性が、夫の独身者である兄弟と再婚する、もしくは、既婚者である兄弟の2番目の妻となるもの。


12.妻の姉妹との結婚・ソララット(Sorarat)婚:
妻を亡くした男性が、亡くなった妻の姉妹と結婚するもの。
母を亡くした子供たちに対し、伯母・叔母なら継母としてより寛容に振舞うだろうという考えが、この結婚の選択に影響を与えている。


13.婿養子(içgüveyi)婚:
男子のいない、経済的にも恵まれた家族で、娘を外に嫁にやるよりも、婿を「婿養子(içgüveyi)」として家に迎える場合がある。特にひとり娘を持つ家族は、この方法をとろうとすることが多い。


14.孤児(yetim)婚:
両親に死なれ、兄弟姉妹もいない若者か娘を、身寄りのないままにしておかないために、近親者の一人と結婚させるもの。
この結婚の根底には、人助けと社会的連帯への欲求が横たわっている。


15.近親婚:
トルコでは、夫婦の4組におよそ1組は親戚同士であり、その相手の80%は従兄弟・従姉妹であることが明らかになっている。

*1:結婚を希望する男性のために、娘の下見を行う女性。görücü gitmek は、下見に行くこと。görücüye çıkmakは、下見女の案内された部屋に当の娘が見てもらうために現れること。

*2:oturakは「腰を落ち着ける場所」「(木製の背の低い)腰掛け」という意味合いの他、さまざまな意味で使われるが、ここではとりあえず「腰掛けを取る」=「居座る」と訳しておく。

*3:Levirate/レヴィリット婚:夫を亡くした妻に子がない場合、その妻は夫の兄弟または近親者と結婚するという古代ユダヤの慣習。