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Essais d’herméneutique このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2050-11-18

はじめに……

アカデミズム底辺で生きる流しのヘタレ神学研究者氏家法雄による神學、宗教學、倫理學、哲學の噺とか、人の生と世の中を解釈する。思想と現実の対話。

2010年11月25日より「はてな」に雑文を移項いたしますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

ついでですのでひとつ。

絶賛求職ちう。

過去(2007年8月28日〜2010年11月24日)の雑文は以下のURLより閲覧できます。

引っ越しがうまくいけばこちらへ完全移行の予定。

当分はココログと併用いたします。

Essais d’herméneutique

氏家法雄のブクログは以下のURLから閲覧できます。

ujikenorioの本棚 (ujikenorio) - ブクログ


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2017-12-14

覚え書:「時事小言 『アメリカ第一』の皮肉 弱まる世界への影響力 藤原帰一」、『朝日新聞』2017年07月19日(水)付夕刊。

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時事小言 「アメリカ第一」の皮肉 弱まる世界への影響力 藤原帰一

2017年7月19日 

 トランプ政権が発足してから半年が経った。その間に明らかになったのは、トランプ大統領の下におけるアメリカが国外への影響力を失いつつあることである。

 その一面は、アメリカ政府自発的な行動の結果である。「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権は、政権発足直後に環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、二つの首脳会議、G8とG20においてアメリカ以外の諸国が反対を明示したにもかかわらず、環境保護に関するパリ協定からも離脱した。各国がアメリカを追い出そうとしたわけではないから、アメリカが意図的に退いたわけだ。

 だが、アメリカが抜けた後にも国際的制度や機構は揺らいでいない。日本は欧州連合(EU)と経済連携協定について大枠合意に達し、TPPについてはハノイアメリカ抜きのTPP11実現を目指す閣僚会合が開かれた。パリ協定についても、アメリカを除くG8・G20諸国は支える方針で一致している。貿易でも環境保護でもアメリカの撤退はアメリカなき国際合意への道を開いたのである。もしアメリカ政府が、アメリカが国際協定から離脱すれば各国が動揺し、国際協定の再交渉に合意するのではないかと期待していたとすれば、その期待は裏切られた。

     *

 国内政治の動揺が、アメリカ対外的影響力をさらに押し下げている。トランプ政権オバマ政権のもとで実現した医療保障制度オバマケアに代わる新たな制度の実現を最優先課題としてきたが、その目的から作られたヘルスケア法案の審議はまだ続いており、上院が可決する可能性は少ない状況である。そして、このヘルスケア法案の審議を最優先したことから、トランプ政権の求める減税も、大規模な公共投資を求める予算案議会を通過する公算は立っていない。共和党が上下両院の多数を占めているにもかかわらず、議会政府の間にきしみが続いているのである。

 スキャンダルも深まる一方だ。ロシア政府大統領選挙に工作を加えたという疑惑については、トランプ氏の長男トランプ・ジュニアに加え、現在上級顧問としてホワイトハウスに加わっている女婿ジャレッド・クシュナー氏がロシア政府とつながりのある複数の人物との会合に加わっていたことが明らかとなった。ロシア政府による選挙工作をトランプ陣営が承知していた、もっと露骨にいえばロシア政府を使って大統領選挙に勝とうとしていたという疑いである。この件では連邦捜査局(FBI)の捜査も続いているだけに、政権に与える影響は少なくない。

 政権のなかでは極右サイトのブライトバートを主宰したスティーブン・バノン首席戦略官やスピーチライターも務めるスティーブン・ミラー補佐官らがパリ協定離脱などアメリカ第一という立場を訴える一方、レックス・ティラーソン国務長官やクシュナー氏がより穏健な対外政策を求めるなど、政策対立も伝えられている。スキャンダルに加え、内部対立がトランプ政権を弱め、それがアメリカ対外的影響力をさらに引き下げる結果を招いている。

     *

 トランプ氏の前任者オバマ大統領は対外介入に慎重な姿勢を続け、混乱を続けるシリアなどでも地上軍の投入を避けてきた。力の行使に消極的なオバマ政権の姿勢に対し、オバマアメリカを弱くしてしまったという批判が起こり、大統領選挙においてトランプ氏がクリントン国務長官を破る一因となった。

 そのトランプ氏のもとでアメリカの影響力が弱まってきたのだから皮肉というほかはない。ISIS、いわゆる「イスラム国」の手からモスルを奪回しながら、イラクにおけるイランの影響力が拡大する結果となっている。中国を誘い込んで北朝鮮を圧迫する政策も効果はなく、逆にミサイル実験を続ける北朝鮮を前にして中国ロシアが共同でアメリカ北朝鮮政策の転換を求めるという事態となってしまった。オバマ政権の8年のどの時期をとっても、ここまでアメリカ外交の失態が続き、ワシントンの存在が軽くなった時代はなかったといっていい。

 このままトランプのアメリカ地盤沈下を続けるのだろうか。ティラーソン国務長官やマクマスター安全保障担当補佐官は対外的にもそれなりに信頼されているだけに、彼らが主導権を握るなら日本やEUなどとの関係にも展望が見えてくる。問題は、トランプ氏が政策遂行を専門家に任せようとしないことだ。この情勢が変わらない限り、つまりトランプ氏がトランプ氏であり続ける限り、アメリカの後退は続き、日本もEUも、アメリカ抜きの国際体制を作ることを強いられる。トランプ氏はアメリカを弱くした指導者として歴史の中で記憶されることになるだろう。(国際政治学者)

 ◆月に一度、掲載します。

    −−「時事小言 『アメリカ第一』の皮肉 弱まる世界への影響力 藤原帰一」、『朝日新聞2017年07月19日(水)付夕刊。

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(時事小言)「アメリカ第一」の皮肉 弱まる世界への影響力 藤原帰一:朝日新聞デジタル


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覚え書:「著者に会いたい 遺言。 養老孟司さん」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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著者に会いたい 遺言。 養老孟司さん

著者に会いたい

遺言。 養老孟司さん

2017年12月03日

養老孟司東京都新宿区矢来町の新潮社、伊ケ崎忍撮影

■言っておきたい、「意識」は害にもなる

 400万部を超えるベストセラーバカの壁』も刺激的なタイトルだった。ご本人はいかにも血色はよさそうなのだが、今回は『遺言。』なのだという。

 「いや何となくという感じですよ。いつ倒れてもおかしくない年代ですから、とりあえず言いたいことを言っておこうかと」

 言いたいことの一つに「意識」が引き起こす害がある。目や耳などを通じて受ける感覚に対して、そこに「同じもの」を見つけ、意味に変換し、秩序を与えるのが「意識」。動物は感覚を使って生き、人間の活動の大部分は「意識」に基づく。そして、都市化が進む社会で暮らすと「感覚入力を一定に限ってしまい、意味しか扱わず、意識の世界に住み着いている」ようになるのだと書く。

 「ほとんど病気に近づいています。そのしっぺ返しで子どもが減っているのでは。意識の中に住み着いてしまったような人間に子どもは、経済的でも効率的でも合理的でもないもの、邪魔にさえ映るのでしょう」

 実際には多くの人がその息苦しさに気付き、何とかバランスをとろうとしているのだという。

 「団塊世代はしょっちゅう山に行くし、若い人だって森へ出かけて癒やされると言う。全部そうですよ。生きるために必要なんです。みんながそれを理解するだけで大きな違いを生むと思います」

 犬や猫との比較やマグリットの絵など、奔放に広げられていく論に引かれ一気に最後まで読んでしまった。養老さんが語って、編集者がまとめる「語りおろし」スタイルかと思ったが、書き下ろしだそうだ。一から書いたものは四半世紀ぶりだという。初めての船旅で半月という時間がとれ、人間とは、生きるとは、これまで考えてきたことをまとめることができた。だから「遺言」なのだ。

 「あとは死ぬまでウロウロですかね。昔から、最期は芭蕉西行かだと思ってたんです。野ざらしで終わるのがいい」

 とは言え、虫捕りと山歩きで鍛えられた肉体は、やはりまだまだ旅に病みそうには見えなかった。

 (文・星賀亨弘 写真・伊ケ崎忍)

    ◇

 新潮新書・778円

    −−「著者に会いたい 遺言。 養老孟司さん」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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覚え書:「ビジネス 革命のファンファーレ―現代のお金と広告 [著]西野亮廣」、『朝日新聞』2017年11月19日(日)付。

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ビジネス 革命のファンファーレ―現代のお金と広告 [著]西野亮廣

ビジネス

革命のファンファーレ―現代のお金と広告 [著]西野亮廣

2017年11月19日

■ネット時代の本の売り方を指南

 漫才コンビキングコングのつっこみ担当、というより、発行部数32万部の『えんとつ町のプペル』の作者として話題の絵本作家が放つ、ネット時代の本の売り方の指南書だ。既存の概念が覆される。

 『プペル』発売から約3カ月後、著者はネット上で全編無料公開した。結果、部数はさらに7万−8万部急伸した。なぜか。公開日に約200万人がアクセス。1%でも「紙の本を買おう」と思えば、「その時点で2万部は売れる」。

 本の制作費はクラウドファンディングで調達。2回実施し、計約5650万円の支援額と当時歴代最高の約1万人の支援者を獲得した。リターンの一つとして『プペル』の絵本展の開催権利を解放。一般人をつくり手側に巻き込むことで、費用ゼロの「広告の連鎖」を起こしていった。

 ネット時代は「信用」が資源になるとの確信が原点だ。クラウドファンディングは「信用をお金化するための装置」。信用を得るには芸人でも「自分の意思を明確に表明する」。そこでスポンサー頼みを脱し、自ら会費制オンラインサロンを開設した。ネット上ではすべてが「無料化」する時代のパラダイム転換

 一読後、脳裏に「革命のファンファーレ」が鳴り響く。

 勝見明ジャーナリスト

    −−「ビジネス 革命のファンファーレ―現代のお金と広告 [著]西野亮廣」、『朝日新聞2017年11月19日(日)付。

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覚え書:「ビジネス 人生を変えるクローゼットの作り方 [著]ベティ・ホールブライシュ、レベッカ・ペイリー」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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ビジネス 人生を変えるクローゼットの作り方 [著]ベティ・ホールブライシュ、レベッカ・ペイリー

ビジネス

人生を変えるクローゼットの作り方 [著]ベティ・ホールブライシュ、レベッカ・ペイリー

2017年12月03日

■90歳、客に最適な服を選ぶ専門職

 ニューヨーク五番街に、上流顧客が集まる高級デパート「バーグドルフ・グッドマン」がある。そこにいるのは、90歳にして活躍するパーソナルショッパー、ベティ・ホールブライシュ。本書の主人公であるベティは、得意客の要望に沿って最適な服を選び、着こなしを助言する専門職。ほかならぬ彼女自身が切り開いた職能だ。

 裕福な家庭で育ったベティは、金銭的に何不自由のない人生を送っていたが、結婚生活が破綻(はたん)し、40代にして初めて人に雇われる。この挫折が転機だった。相手の役に立つ、という仕事の喜びに目覚めた後は、持ち前の生命力で自立の道をひた進む。

 そんな彼女の言葉は、自他双方に率直で辛辣(しんらつ)だ。たとえばこんな一節。「絶えず文句ばかり言っていたら、昔はよかったと言ってるただの老いぼれとなり、職を失う」

 終身雇用年金制度が危機に瀕(ひん)する一方で、「100歳社会」がいわれる今。学校を出て、40年働いて、穏やかな引退生活といった人生モデルが根本から揺らいでいる。

 こんなはずでは……と愚痴をこぼしても始まらない。前を向いて働けばいい。もやもやと募る不安を、ベティが痛快に吹き飛ばしてくれる。

 清野由美(ジャーナリスト

    −−「ビジネス 人生を変えるクローゼットの作り方 [著]ベティ・ホールブライシュ、レベッカ・ペイリー」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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覚え書:「折々のことば:818 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年07月20日(木)付。

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折々のことば:818 鷲田清一

2017年7月20日

 戦時動員された与論、すなわち「ヨロンと読まれる世論」を、いかにして討議可能な輿論(よろん)に復員するか

 (佐藤卓己

     ◇

 輿論と世論(せろん)がよくごっちゃにされる。輿論パブリック・オピニオン、人々の討議を経て形成される市民の意見で、世論はポピュラー・センチメンツ、つまり大衆の間に醸しだされる感情。世間の気分や空気を映しだす「世論調査」が輿論とすり替わっていないかと、メディア研究者は問い、輿論復権を説く。『輿論と世論』から。

    −−「折々のことば:818 鷲田清一」、『朝日新聞2017年07月20日(木)付。

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折々のことば:818 鷲田清一:朝日新聞デジタル





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2017-12-13

日記:献本御礼 村岡到様『「創共協定」とは何だったのか 社会主義と宗教との共振』社会評論社、2017年。

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献本御礼

村岡到様から『「創共協定」とは何だったのか 社会主義宗教との共振』(社会評論社2017年)をご恵贈賜りました。

巻頭論文「『創共協定』の歴史的意義とその顛末」は第三者の立場からその経緯を辿り未来を展望する初めての試みではないでしょうか。私もちょと出演?してます。

論文では、創価学会日本共産党の「創共協定」への否定的見解を検証し、雑音を斥けたうえで、協定の復活を説く。ご興味のある方は手にとって欲しいと思います。




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覚え書:「売れてる本 東大ナゾトレ [著]東京大学謎解き制作集団AnotherVision」、『朝日新聞』2017年11月19日(日)付。

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売れてる本 東大ナゾトレ [著]東京大学謎解き制作集団AnotherVision

売れてる本

東大ナゾトレ [著]東京大学謎解き制作集団AnotherVision

2017年11月19日

■ヒラメキだけで解く超難問

 なるほど「脳トレ」+「ナゾ解き」で「ナゾトレ」とはテレビ界も考えたものである。つまり、高齢者にはこの番組は脳の老化防止になりますよとアピールし、子供にはさあキミも超難問に挑戦だとけしかける。

 テレビが高齢者と子供専用メディアになってからというもの、各局は難題を抱えてきた。老人とガキ、いやシニアとキッズの両方が見てくれるような番組作りをしなくてはならなくなったからである。その答えとして登場したのが、おそらくこのクイズバラエティー「今夜はナゾトレ」(フジ系)なのだろう。

 番組の呼びものは現役東大生が出題する「東大ナゾトレ」で、それを書籍化したのがこれ。既刊3点の累計をみると、別掲のすごい部数になっている。

 ようするに、人間、大切なのは知識や教養ではなく「ヒラメキ」だというのがコンセプト。コピーには〈頭がやわらかければ、小学生でも解ける〉とあって、それを実証するかのように、この本には小学生の正解率というのが問題ごとにでている。

 さて、以下は第1巻にのっている問題。やってみますか?

〈ここ〇つはさむく□る〉

 右のようなナゾの一文がある。この「〇に数字、□に漢字を入れて文を完成させよ」というのが設問なのだが……。これをノーヒントで解いた小学生が10%もいるというから、高齢者も負けてはいられない。

 では正解。〇には「すうじ」が入り、□には「かんじ」が入るので、「ここ(すうじ)つはさむく(かんじ)る」。すなわち「ここ数日は寒く感じる」になる。なんだ、まじめに考えて損したと怒り出す人もいそうだが。

 問題を作るのは「東京大学謎解き制作集団AnotherVision」。中心メンバーの数人は番組にも出演するのだが、これが皆さん、半ズボンこそはいていないものの、名探偵コナン然としたお子さま顔ばかり。

 いいたくないが、東大はいまや世界大学ランキングで46位まで順位を落としているらしい。

 山口文憲エッセイスト

    ◇

 扶桑社・各1080円(1−3巻)=シリーズ累計35万部 1巻は17年5月、2巻が8月、3巻が今月刊行。放送されたもの以外に、書籍オリジナルの問題も収録されている。

    −−「売れてる本 東大ナゾトレ [著]東京大学謎解き制作集団AnotherVision」、『朝日新聞2017年11月19日(日)付。

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東大ナゾトレ AnotherVisionからの挑戦状 第1巻
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覚え書:「売れてる本 人工知能と経済の未来 [著]井上智洋」、『朝日新聞』2017年11月26日(日)付。

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売れてる本 人工知能経済の未来 [著]井上智

売れてる本

人工知能経済の未来 [著]井上智

2017年11月26日

■AIの不安拭う最低所得保障

 人工知能(AI)を題に持つ本が多いのは、それだけ世が存在を気にし始めたからだ。将棋ソフト「ポナンザ」が10年の進化を経て現役名人に2連勝する今日に至り、コンピュータの処理性能の向上と再帰的学習能力(ディープラーニング)の加速度的な発達は、AIが人間の能力を超える未来を感じさせ始めた。ポナンザの開発者・山本一成が5月に出した『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』はそんな未来を明快に見通す一冊だったが、それに先行する本書も、「2030年雇用大崩壊」という副題をおそらくは一因に、よく読まれている。

 AIには大別して、ポナンザのような目的特化型と、多様な能力を有する汎用(はんよう)型がある。先に生活に訪れるのは前者だが、2030年ごろには後者が実用化され、人間を様々な領域で凌駕(りょうが)し始める。恩恵も多い反面、産業革命時の機械のようにAIは人間の仕事を奪い、人口の1割しか働けなくなる−−そんな予測を立てつつ、最低所得保障(ベーシックインカム)の提案で、未来を前向きに見据えようとするのが本書だ。やや乱暴に要約すれば“最低所得保障によって人間が消費に専念しても、AIが生産を効率化し続ければ経済は拡張し、保障の原資も得られる”というわけだ。

 相対的に低い保障で人々が満足し続けるか、世界の広さと資源の有限を越えて技術と経済が拡張し続けられるかなど、見えないことは多い。だが「働いて所得を得ることが当たり前ではない」未来を前に、それをディストピアでなくユートピアと捉える著者の姿勢は、AIの訪れた先を不安に思う人々(つまり本書の読者)に、未来について考える勇気を与えるだろう。

 名人のポナンザへの敗着は、穴熊を選んだ無意識の「恐怖」にあったという。AIに勝てぬ諦念(ていねん)を刻まれた将棋の未来が今はまだわからないのと同様に、圧倒的に全能な存在を前に人間がどうありうるかは定かでない。だが、「恐怖」を抑える術(すべ)を獲得することは、訪れる未来を考えるには必要な一手に違いない。

 市川真人(批評家・早稲田大学准教授

    ◇

 文春新書・864円=15刷10万5千部 16年7月刊行。著者は駒沢大准教授マクロ経済学)。「落ちることなく売れ続けています。分かりやすく、口コミで広がっているのでは」と編集部。

    −−「売れてる本 人工知能経済の未来 [著]井上智洋」、『朝日新聞2017年11月26日(日)付。

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覚え書:「売れてる本 ふたご [著]藤崎彩織」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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売れてる本 ふたご [著]藤崎彩織

売れてる本

ふたご [著]藤崎彩織

2017年12月03日

■成長体験を共にしたふたり

 ボーカルFukaseの少年性、ポップな旋律、社会批判的な歌詞で人気を博すSEKAI NO OWARI(以下「セカオワ」)。その紅一点のピアノ奏者Saoriこと藤崎彩織がバンド継続の苦難物語を書きおろした。ヒロイン夏子の恋人役で、同じ中学の一年上級、素晴らしい歌声の月島が、高校中退米国留学にも挫折する経緯が最初描かれる。これはセカオワファンに知られるFukaseの実人生だ。「事実」が書かれているのか。読者は緊張感に包まれる。

 だがそんな詮索(せんさく)の外で、本作は少女小説として至純だ。鋭敏で病的な月島に翻弄(ほんろう)されつつも夏子の端正で地味なたたずまいが光る。後半、彼女を入れ月島のバンド活動が描かれ出すと(その多くがセカオワの伝記と符合する)、クラシックピアノを学んだだけで創作動機のない彼女が追いこまれ、演奏力も批判される。試練個々がえぐられるほど痛いが、夏子の自己省察の豊かさで救われる。文章も素直。とりわけ段落間に漂う空気が柔らかくて良い。

 嫉妬を描く小説でいえばプルースト『囚(とら)われの女』に匹敵する繊細さ。タイトル「ふたご」は成長体験を共にした夏子が月島に願う精神共同体様相だが、それにより、嫉妬が通常性から外れるのが新しい。月島と付き合いだす不思議なバンド応援団「すみれ」から、夏子は自然にディープキスをされる。このとき嫉妬が幻惑的な入れ子状態となる。「すみれちゃんの向こうに、私は月島を見ていた。彼女の唇の柔らかさを感じながら、私は彼女に触れた時の月島の気分を想像していた」。ここが唯一の性描写だった。

 ふたごという縛りで生じた不可能性から脱出する夏子の成長に打たれる。「後書き」で藤崎は吐露する。何とFukaseこそが本作完成を励ましたのだと。読了後、ついに実現されたSaori作詞作曲の「PLAY」を聴き直し、作中の夏子同様、眼(め)が潤んでいった。

 阿部嘉昭(評論家・北海道大学准教授

    ◇

 文芸春秋・1566円=2刷10万部 17年10月刊行。著者は86年生まれ。初の小説。担当編集者によると「“セカオワ”のファンにとどまらず、文芸書として広く読まれています」。

    −−「売れてる本 ふたご [著]藤崎彩織」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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ふたご
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覚え書:「耕論 教科「道徳」何を学ぶ 小佐野正樹さん、土屋陽介さん、あさのあつこさん」、『朝日新聞』2017年07月22日(土)付。

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耕論 教科「道徳」何を学ぶ 小佐野正樹さん、土屋陽介さん、あさのあつこさん

2017年7月22日

グラフィック・高山裕也


 「特別の教科」に位置づけられた道徳の小学校教科書の検定が終了し、来年度から授業で使われる。子どもたちは何を学ぶのか。「道徳」で身につけるべきことは何か。

 ■土台なき領域、押しつけず 小佐野正樹さん(元科学教育研究協議会委員長

 小学校道徳教科書検定が終わり、いよいよ来年度から使われます。私は市民団体で教科書の内容を点検する作業に参加しました。

 道徳教科書の検定は今回が初めてでした。8社が計66冊を申請しましたが、ついた検定意見は1冊あたり4件弱と、思いの外に少なかった。中身を見ると、文部科学省などが作成した副教材に掲載されている物語が多数採用されていました。不合格とならないよう、教科書会社が安全策をとったのだと思われます。

 文科省は「読む道徳」から「考え、議論する道徳」への転換を強調しますが、教科書では結論が最初から決まっています。「楽しい」「仲良く」「誠実に」が乱発され、「つらい」「苦しい」「悲しい」といった感情は認められません。1年生の最初に「たのしいがっこう」と出てきて、あまり楽しくないと感じる子も「たのしい」と模範解答をしなければなりません。

 「生命や自然、崇高なものとのかかわり」を扱うことにもなっていますが、理科の学習などで、身の回りの自然を具体的に学ぶことの方がよほど意味があります。

 ある教科書に「たのしかったハイキング」という読み物があります。子どもが木の幹に耳を当て、「水がながれているみたいだよ」と言うのですが、本当は木の葉が風でこすられた音が聞こえるのです。自然や命の大切さを無理やり入れようとして、このような間違いが生じているのではないのでしょうか。

 以前から副読本に載っていた「かぼちゃのつる」という話は全社の教科書で採用されました。畑の外の道路にまでつるを伸ばしたカボチャが、車につるを切られて痛い思いをする。「わがままはいけない」という教訓ですが、つるを伸ばすのは植物の性質です。カボチャを育てたことのある人なら、「元気だな」とは思っても「わがままだ」とは考えないはずです。

 学校教育は、主権者に必要な科学・学問の知識や芸術の素養を身につけさせることが目的となるべきです。国語や算数・数学といった教科には土台となる学問領域があり、学習内容もはっきりしています。これに対し、道徳には学問の土台がない。このため、あやふやな価値観や感情を押しつけることになるのです。

 この教科書が学校に入ってくる以上、教師はしっかり研究しなければなりません。問題がある教材でも、それをきっかけに子どもたちと話しあう授業ができる環境を、学校は保障するべきです。また、世界人権宣言子どもの権利条約太平洋戦争原爆に関する教材を盛り込んだ教科書もあります。教育委員会も、学習に活用できる内容があるか、という視点で教科書を選んでほしいと思います。

 (聞き手・吉沢龍彦)

    *

 こさのまさき 42年生まれ。東京都内の公立小学校で30年余り教え、特に理科の授業の方法や教材を研究してきた。

 ■「当たり前」問い直す力を 土屋陽介さん(哲学者

 中高一貫校哲学の専門教員として、主に中学生に「哲学対話」を教えています。年間35時間の「道徳」授業の15時間を使い、残りは学級担任道徳の授業をしています。

 道徳学習指導要領に基づき、「規則の遵守(じゅんしゅ)」「誠実さ」「家族愛」など、20ほどの諸価値を学ぶことが求められています。生活指導やしつけの面からは大切ですが、授業がこれらの項目を教えることに終始してしまう恐れもあります。また、教えられる価値は「尊いもの」として示されるため、子どもたちが疑義を唱える余地も少ないです。

 一方、哲学対話子どもたちに「規則とは、そもそも何のためにあるの?」「ウソつきは常に不誠実と言える?」などの問いをたててもらうことを重視します。授業のテーマとは直接結びつかない問いが出ることもありますが、あくまで生徒が自ら考えたい問いを持つことが出発点です。

 授業ではその問いについて考え、話し合い、解明する手立てを学びます。誰も正解を知っているとは言えない問いについて話し合うので、成績評価もありません。当たり前だと思っていたことを問い直す力、見過ごしていたことに気づく力、不満や不思議に思ったことを言葉にする力をつけて欲しいと考えています。

 道徳教育では、子どもたちに判断力を養うことも求められます。ただ、判断は常に個別の状況に左右されます。例えば、「健康に悪い」という理由で公共スペースを禁煙にする規制は、社会の理解を得やすいでしょう。では同じ理由で、砂糖や肉の摂取を減らすような規制を政府が設けるとしたら、どうでしょうか。

 食の好みという私的な領域にまで、法律が介入して良いのか。個人の不摂生は、医療費の増大などの点から、社会にとって悪だと言えるのか。様々な文脈や状況をふまえ、判断する知的な働きが求められます。これらは、哲学対話的なアプローチです。自分の判断の理由を言葉で説明できなければ、本当の意味での「徳」は身につきません。

 哲学対話で興味深いのは、ふだんは手のかかる子どもの方が、鋭い発問をするケースが多いことです。常識にとらわれず、自分の頭で考えられる力があっても、学校生活では評価されないこともあるかも知れません。既存の価値観がしっくりこない子どもに「そういう考え方もあるね」と言ってあげられる意味でも、哲学対話の可能性は大きいと感じています。

 この先、社会のグローバル化が一段と進めば、「空気を共有しているから、ツーカーで」とはいきません。そのためにも、道徳の授業を通じて思考を言語化し、他者と共有する力をつけてほしい。子どもだけでなく、教員や大人にも必要な力だと思います。

 (聞き手・前田育穂)

    *

 つちやようすけ 76年生まれ。専門は子ども哲学。開智日本橋学園中学校・日本橋女学館高校教諭。開智国際大非常勤講師

 ■いろんな人生、語れば十分 あさのあつこさん(作家)

 大人向けの小説でも子ども向けの物語でも、私は読者をほとんど意識せず、自分が書きたい人間を、どのように書くかだけを考えています。ただ、児童書を書くときは、自分がひきずってきたものをなるべく加工せず、そのまま伝えようとは考えています。それが、大人としての義務のような気がして。

 多くの読者を得た「バッテリー」の主人公、巧(たくみ)は私にとっての理想の10代です。ずば抜けた才能を持った野球投手ですが、スタート地点は常に自分。周囲と摩擦が生じても、自分が何を望み、何を心地よいと感じるか、何にあらがうかを手探りしながら、答えを見いだしていきます。

 私自身、そのような10代を過ごしたかった。できなかったことを、託したようなところがあります。だからといって、そのような生き方が「正解」だと言いたいわけではありません。「巧のような少年がいるよ」というだけです。

 道徳が教科に位置づけられることには違和感があります。道徳は上下ではなく、対等な関係の中から生まれてくると思うからです。大人は子どもをひとくくりにしたがりますが、本当は実に様々で、ややこしい。それを一つの方向に持っていこうとすることは乱暴です。

 「人を苦しめてはいけない」「いじめてはいけない」と口で言ってしまえばそれだけのことです。でも実際は、日々のいろいろな出来事を通じ、葛藤しながら身につくものでしょう。「嫌なことをされたけれども、仕返しをしてはいけないのか」とか「なぜかあの子が大嫌いだけど、この感情って悪いのだろうか」などと、一人一人が考えて咀嚼(そしゃく)して、答えを出していかなきゃいけない。

 それを、上から「こうですよ」とルートを決めて登らせるのは、自分自身とたたかうせっかくの機会を奪っている気がします。しかも、大人たちがすごく無神経で、そのことに気づいていないのではなくて、あえて押しつけているように思えます。子どものためと本心から考えてはいないのではないでしょうか。

 道徳の授業では、たくさんの大人が、自分がどのように生きてきたかを語ってやれば十分だと思います。失敗談も含めて、「私はこういう風に生きてきたから、いまここにいます」という風に。いろんな大人のいろんな話を聞く機会をたっぷり設けるのです。

 教科書を与えるくらいなら、フィクションでもノンフィクションでも、本を読んでもらった方が人としての厚みも生まれると思います。本に限らず、一枚の絵かもしれないし、演劇かもしれない。目の前の子どもが直面している問題に合わせて、そのつど素材を選んでいったらいい。一律は、こわいですね。

 (聞き手・吉沢龍彦)

    *

 54年生まれ。子ども向け文学作品を多数執筆。「バッテリー」は全6巻で延べ1千万部超のベストセラー

    −−「耕論 教科「道徳」何を学ぶ 小佐野正樹さん、土屋陽介さん、あさのあつこさん」、『朝日新聞2017年07月22日(土)付。

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(耕論)教科「道徳」何を学ぶ 小佐野正樹さん、土屋陽介さん、あさのあつこさん:朝日新聞デジタル





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2017-12-12

覚え書:「ザ・コラム 対話する力 土に潜ってわかったこと 秋山訓子」、『朝日新聞』2017年07月20日(木)付。

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ザ・コラム 対話する力 土に潜ってわかったこと 秋山訓子

2017年7月20日

 イタリアンレストラン、アル・ケッチァーノは山形県鶴岡市のはずれにある。地産地消を掲げて素材を生かした料理を食べたいと、全国からお客が押し寄せてくる。

 オーナーシェフの奥田政行さんは今から2年ほど前、野菜の気持ちになってみようと土の中に潜ってみたことがある。

 「一時期、野菜に自分の気持ちが通じなくなったというか、うまく料理できなくなった時があってやってみたんです」

 シャベルで土を掘り、首まで土に埋まった。しばらくじっとしていると、土の中の水脈の音がスルスル、と聞こえてきた。

 「あ、こっちに水があるとわかるんですよ。手を伸ばしてみようという気になる。根はこうして伸びるんだと思いました」

 車が通ると土の中に音がこだました。下から見上げると空は普段よりはるかに広く、地表に出ている部分で、風と光を思いっきり感じたいと思ったのだという。「自分の感覚が野菜の感覚になりました」

 それって野菜と対話しているってことですよねと私が言うと、「そうです。でなきゃいい料理は作れません。野菜と対話ができるようになって、野菜の良さを引き出せたんです」。

     ◇

 なぜ私が奥田さんにこんなことをたずねたかというと、安倍晋三首相の「対話する力」が気になっていたからだ。国会のやりとりでも、自分の言いたいことだけ言って相手の話を聞かず、質問に答えない姿勢が非常に目立った。だから建設的な議論にならない。一昨年の国会では、質問中の野党議員に「早く質問しろよ」とヤジを飛ばして陳謝したし、テレビの生中継中、キャスターのインタビュー中なのに、批判されるとイヤホンを外したこともあった。

 その極め付きが、東京都議選前日の東京秋葉原での「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という街頭演説だと思う。

 自民党民進党の若手とそれぞれ話していたときに、偶然にもまったく同じことを言っていた。いわく、政治家は基本的に人の話を聞く職業だと思うが、最近、話を聞くのが苦手や嫌いな人が多い。自分が話をするのは好きなのに……。

 この国の政治の未来を考えると暗澹(あんたん)たる気分になるが、その最たる人が首相だなんてしゃれにもならない。写真家藤原新也さんは会員制のブログの中でそんな安倍氏のことを「口だけあって、耳がない妖怪。だからどんな言葉も届かない」と評していた。

     ◇

 共産党衆院議員だった佐々木憲昭さんから聞いた話が忘れられない。1996年から2014年まで6期務め、「ムネオハウス」など鋭く切れ味のいい国会追及でならした。

 佐々木さんは橋本龍太郎氏から安倍氏まで10人の首相を相手に国会論戦を交わしたが、国会では厳しく質問しても(あるいはそれだからこそ)、国会の廊下でばったり会ったときや、偶然エレベーターで一緒になったときなど、あいさつをし、言葉を交わしたものだったという。

 「小泉さんは、国会で激しく対立して予算が通った後に出くわしたら『おお。けしからん、反対って大きな声で言ってたな』って声をかけてきましたね」

 佐々木さんは議員会館で、よく荷物用のエレベーターを利用していた。そこが自分の部屋に近かったからだが、ある時そこに福田康夫首相が1人で乗ってきた。

 「僕が、『総理なのに、何で荷物を運ぶエレベーターに乗っているんですか』と言ったら福田さん、『荷物総理も使い捨て』。2人で大笑いになりました(笑)」

 ところが、まったく声をかけてこない首相がいた。それが安倍氏だった。エレベーターで2人きりになった時もあったが、「前をまっすぐ向いて黙ったきり。こちらが声をかけようとしても目を合わせず、拒絶する感じがあって、シーン、と気まずい時間が流れましたよ」。

 冒頭の奥田シェフは、野菜と対話ができて料理がおいしくなると、さらに野菜のことが理解できてポジティブな循環が生まれたと言っていた。敵を作り排除し始めるとやがては憎悪の連鎖を生み出すだろう。そんな社会は救いがなく、つらい。

 (編集委員

 ◆ザ・コラムは毎週木曜日に掲載します。

    −−「ザ・コラム 対話する力 土に潜ってわかったこと 秋山訓子」、『朝日新聞2017年07月20日(木)付。

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(ザ・コラム)対話する力 土に潜ってわかったこと 秋山訓子:朝日新聞デジタル


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覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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悩んで読むか、読んで悩むか> 誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん

悩んで読むか、読んで悩むか

誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん

2017年12月03日

70年生まれ。社会学者詩人。『「居場所」のない男、「時間」がない女』など。

■相談 10年ぶりの再就職へ自信をもつには

 子どもたちも手がかからなくなり、10年ぶりに仕事に出たいと思っていました。ところが、引き受けている子どもの学校の役員活動で、書類作成などをしている際に細かいミスを連発し、こんな状態では、とすっかり仕事に対しての自信をなくしてしまいました。こんな私に、また自信が戻ってくるような本はありますか?(東京都、主婦、46歳)

■今週は水無田気流さんが回答します

 「自信をもちたい」とのお言葉、胸に迫りました。この社会では、出産で離職した女性が再び社会に出るとき、自信をもつことが難しいように思います。それは、主婦の時間が「生活の論理」によって出来ているからです。家族とりわけ子どもという「生きた自然」のケアは、何事につけ予定通りには行かず、コントロールは困難です。これに対して、「仕事の論理」は、合理性や効率性を前提とするもの。用語や数値をそろえ、コントロール可能な領域を増やすことを軸に、職場のルーチンワークは出来ています。問題は、生活の場での家事育児にお金はもらえませんが、職場の労働にはもらえるため、仕事のほうが価値があると、多くの人が考えがちな点です。人間にとっての必要性からは、どちらも価値ある労働なのですが。

 子どものいる女性の再就職の際、陥りがちな罠(わな)を小気味よく解消する知恵を与えてくれる本として、まずはお薦めなのが、現在手に入りにくい本ではありますが、和田清華『ママは働いたらもっとスゴイぞ!』(ダイヤモンド社・1296円)です。子どもが生まれて人生がリセットされたからこそ、新しいスタートを切りましょう、自信がないのは当たり前。では、何から始めるべきか?時間の使い方から心身のメンテナンスまで項目別に書いてあり、参考になります。

 もっともやもやとした、名づけ得ぬ感情に向き合う良書は、川上弘美『これでよろしくて?』です。些末(さまつ)だけれども、何となく釈然としない問題を、ただ話して記録を取るという「これでよろしくて?同好会」メンバーの会話を軸とした小説です。結婚後離職して専業主婦になったヒロインの感じている、社会や夫との距離感は、とりたてて問題にするようなものではないけれども澱(おり)のように溜(た)まっていきます。合理性を是とするこの社会の中で、主婦の生活は、名づけ得ぬ非合理的な部分を引き受けることを求められすぎているように思います。女性から自信や誇りを奪うような世間のもやもやは、吹き飛ばしていただけたら幸いです。

    ◇

 次回は作家の三浦しをんさんが答えます。

    ◇

 ■悩み募集

住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。水無田さんと三浦さん以外の回答者は次の通り(敬称略)。石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘歌人)、山本一力(作家)、吉田伸子書評家)。

    −−「悩んで読むか、読んで悩むか 誇りを奪うもやもや吹き飛ばして 水無田気流さん」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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これでよろしくて (中公文庫)
川上 弘美
中央公論新社 (2012-10-23)
売り上げランキング: 7,081

覚え書:「文庫この新刊!  辻山良雄が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞』2017年11月26日(日)付。

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文庫この新刊!  辻山良雄が薦める文庫この新刊!

文庫この新刊!

辻山良雄が薦める文庫この新刊!

2017年11月26日

 (1)『食卓一期一会』 長田弘著 ハルキ文庫 734円

 (2)『キムラ食堂のメニュー』 木村衣有子著 中公文庫 778円

 (3)『人間をお休みしてヤギになってみた結果』 トーマス・トウェイツ著 新潮文庫 1015円

    ◇

 (1)食べる営みは日々自然に行われる行為だが、その一つ一つは替えの効かないその場限りのものである。詩人は食卓という場に詩を発見し、自らの「言葉の一番ダシ」で、その光景をすくいとる。アップルバター、ポトフ、天丼カレー……。ことばにより供された食事は、味や色、においや温かさで満ちあふれ、生きる歓(よろこ)びが瞬時によみがえる。

 (2)そうした食の場は、自分の周りを見渡せばすぐに発見できる。家の台所、近所の畑、お気に入りの食堂や喫茶店……。食材や料理を作る人と話すなかで、著者は心に残ったことばを綴(つづ)り、それを反芻(はんすう)する。もっと食べることを味わいたい。読めば自分の食と向き合わざるをえない本。

 (3)〈人間なんて休んでしまい、動物になりたい〉というふとした思いを、実際に行動に移したドキュメント。人工の前脚を着用しヤギの群れに混じり、脳にショックを与え、ヤギ的心理状態に近づいてみる。あきれてしまうが、その真っすぐな心情に不覚にも胸を打たれる、爽快な一冊。

 (書店「Title」店主)

    −−「文庫この新刊!  辻山良雄が薦める文庫この新刊!」、『朝日新聞2017年11月26日(日)付。

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食卓一期一会 (ハルキ文庫)
長田
角川春樹事務所 (2017-11-15)
売り上げランキング: 19,233

キムラ食堂のメニュー (中公文庫)
木村 衣有子
中央公論新社 (2017-10-20)
売り上げランキング: 87,832


人間をお休みしてヤギになってみた結果 (新潮文庫)
トーマス トウェイツ
新潮社 (2017-10-28)
売り上げランキング: 6,987

覚え書:「売れてる本 いのち愛しむ、人生キッチン [著]桧山タミ」、『朝日新聞』2017年11月12日(日)付。

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売れてる本 いのち愛しむ、人生キッチン [著]桧山タミ

売れてる本

いのち愛しむ、人生キッチン [著]桧山タミ

2017年11月12日

■新鮮な「当たり前」がいっぱい

 私の祖母は、明治時代の終わりに生まれた。盛夏以外は着物に袖を通し、よく働く人だった。共働きだった両親にかわって家事全般をこなすのは祖母で、特に料理は、祖母の手によるところが大きく、私は祖母の手料理を食べて大きくなった。祖母は、料理上手だった。

 その祖母と、タミ先生の姿が重なる。タミ先生は、九十歳代となられた今も、現役の料理家として、幅広い年代の生徒さんたちに料理を教えている。そして、料理だけでなく、生き方そのものまで教えてくださる。ページをめくりながら、なんだか祖母と対話をしているような、懐かしい気持ちに包まれた。

 筍(たけのこ)には女筍と男筍があり、女筍の方がアクが少なくて柔らかいというのも、初めて知った。記憶を探ると、確かに筍には、切った断面が、丸いのと楕円(だえん)のがある。丸は男筍、楕円は女筍。これを知っているだけで、おいしい筍が簡単に見分けられるようになる。こういう知識は、八百屋さんでも教えてもらえない。

 また、神様と仏様の好物の違いに関しても、興味深かった。曰(いわ)く、神様は自然に近いものを、仏様は人の手で作られたものを好まれるので、同じ小豆でも、神様には粒あんを、仏様にはこしあんをお供えするといいという。これまで、そんなこと考えもしなかった。

 タミ先生の教えの中心になっているのは、当たり前のことを、当たり前にすること。きっと祖母たちの世代では、卵の殻を洗剤の代わりとして使ったり、新聞紙や広告をキッチンペーパーの代わりとして使ったりすることは、当たり前だったのだろう。この本には、そんな、私たちからすると新鮮な「当たり前」が鏤(ちりば)められている。

 それにしても、タミ先生のちらし寿司(ずし)が、美味(おい)しそうだ。料理とは、相手の命を慈しみ、優しさを届ける最高の手段。料理を通して神様のお役に立ちたい、という先生の言葉が、ずしんと胸に響く一冊だった。

 小川糸(作家)

    ◇

 文芸春秋・1566円=6刷8万4千部。17年7月刊行。著者の地元、福岡から人気に火が付いた。50代以上の女性を中心に若い世代の女性や40代以上の男性にも広がっている。

    −−「売れてる本 いのち愛しむ、人生キッチン [著]桧山タミ」、『朝日新聞2017年11月12日(日)付。

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覚え書:「折々のことば:817 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年07月19日(水)付。

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折々のことば:817 鷲田清一

2017年7月19日

 大衆が見たがるものを提供しているのは、大衆自身である。

 (尾原宏之

    ◇

 戦後、NHKで「日曜娯楽版」や「のど自慢」などの番組を立ち上げた丸山鐵雄(てつお)(政治学者・眞男の兄)の、「本当の大衆の歌」を求めた格闘を、政治思想史家はこう評す。メディアによる大衆の指導と大衆への迎合とをともに斥けたが、組織の中では、大衆が大衆をいたぶる構図にも、企業が大衆に「唄わせる」構図にも、ついに抗いきれないかった。『娯楽番組を創った男』から。

    −−「折々のことば:817 鷲田清一」、『朝日新聞2017年07月19日(水)付。

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折々のことば:817 鷲田清一:朝日新聞デジタル





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2017-12-11

日記:女性は家族の「時間財」

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女性は家族の「時間財」

 家電製品をはじめとする家事のテクノロジーは、基本的にこの「つねに家にいる主婦」を前提として作られているため、女性の家事時間は一向に減らない。それどころか、変化する家庭生活や家事の方法に対し柔軟な変更を要請されるのは、つねに女性の受け持つ家事に大幅に偏ってきた。これは、女性が有償労働に従事するようになっても変わらなかった。

 この点は、A・R・ホックシールドの『セカンド・シフト』に詳しい。共働き世帯が増加し、女性が外で働いて帰宅しても、待っているのはくつろぎややすらぎではなく、「次の仕事(セカンド・シフト)」。家族のケアに奔走する女性の時間は、際限なく削られていく過酷な現実が待っている……。

 以上、見てきたように、家事のテクノロジーの進化は、家事のやり方を変え省力化する一方で、毎日の家事の水準を大幅に上昇させた。テクノロジーが進化する前は、あえてする必要はないとされていた贅沢が、一般化したためである。

 たとえば、毎日洗濯された真っ白な衣服に、アイロンのきいたシャツ、清潔な水回りなどは、テクノロジーが普及するまでは決して庶民には入手できないものであった。そしてテクノロジーの向上によって、アウトソージング可能となったものはあっても、手間がかり評価もされない「チョア」はつねに残されていた。それゆえ、たとえ共働きが多数派を占めるようになった現在でも、家事育児の負担は女性偏重のままとなっている。

 この、家事のテクノロジーと、主婦の労力とのいたちごっこは、いったいどこに起因するのだろう? 筆者はこの点に関し、「女性は家族の『時間財』」としてみなされてきたことが要因と考える。19世紀以降、賃労働が重視され、家庭内でなされてきた仕事のうち、男性が担ってきた分野はどんどんアウトソージング可能になった。だが、一方女性の「チョア」は一向に減らないどころか、変化する社会に対し柔軟に時間を差し出し、対応を要請されてきたのは、つねに女性であった。

 あえて言えば、女性の時間は女性個人のものではなく、家族の共有財産であると考えられているのではないか。それゆえ、変化する社会の中で、より価値ある社会資源(貨幣社会的地位)などに直結する社会活動参加は男性中心に行われ、その分新たに生じた価値の低い「チョア」はいつまでも女性が対応を要請されてきた。そしてそれは、「愛情」をもって「自発的」になされるべきものとされてきた。

 だが、待てよ、と思う。人間、持って生まれてきた寿命とは「時間」であり、好きに使える時間の量こそが、どれだけ自分の人生を生きたかを決定するのではないか。たしかに、女性の平均寿命は男性よりも長い傾向があるが、「自分が生涯のうちで自由に使い得る時間」は、男性よりずっと短いように思える。

 日本語の「後家楽」、つまり女性は夫が死んでようやく楽ができる……とはよく言ったものである。夫が死んでケア義務のある対象がすべていなくなってから、女性はようやく、自分の時間を獲得することができるのだ。第1部で指摘した、日本の男女の寿命格差の長さ(約6年)は、もしかしたらようやく「自由時間」を手に入れた女性が、できるだけ長くこのときを堪能したいという思いも反映しているのではないか……、などと穿った見方をしたくもなる。

 さて、コーワンが指摘するアメリカ人女性の時間配分以上に、日本の女性の家事労働時間は長く、手間数は多く、期待される母や妻の役割規範も強固である。

    −−水無田気流『「居場所」のない男、「時間」がない女』日本経済新聞出版社2015年、156−158頁。

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覚え書:「エンタメfor around 20 少年少女のあまりに淡い恋」、『朝日新聞』2017年11月26日(日)付。


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エンタメfor around 20 少年少女のあまりに淡い恋

エンタメfor around 20

少年少女のあまりに淡い恋

2017年11月26日

 難関の進学校入学したものの、微妙に高校デビューに失敗した郷津香衣(ごうづかい)は、「残念な美少女」峯村セリカを唯一のベントモ(=弁当と便所の時に一緒になる友人)に、学業に追われていた。そんなある日、好きな人ができたとセリカがとある名前を口にする。それは香衣が中学時代に付き合っていた、そして今も付き合っているのかもしれない男子生徒の名前だった。

 『6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。』は昨年デビューした新鋭・大澤めぐみの新作だ。デビュー作『おにぎりスタッバー』(角川スニーカー文庫・648円)は、「男食いまくってる」せいで売春疑惑をかけられた女子高生・アズをヒロインに、魔法少女やらエクスカリバーやらおにぎりやらが次々登場する混沌(こんとん)とした世界観を、けれども爽やかな青春小説にまとめ上げた怪作にして快作だ。姉妹編の『ひとくいマンイーター』(同・670円)に続き、そんな著者が送る新たな一冊は、デビュー作とうってかわり、超常的な要素を一切排し、長野県を舞台にした群像劇となっている。

 優等生の香衣、サッカー部のエース・隆生(たかお)、学年唯一の不良・龍輝(りゅうき)、そして残念美少女セリカ。同じ学校に通う以外まったく異なる個性を持った高校生4人は、日常の中でそれぞれの役割を演じつつ、人には言えない葛藤を抱えている。視点が変わるごとに、彼ら4人は異なる一面を見せながら、恋と別れの3年間が過ぎていく。

 本作が描くのは、気づかぬうちに終わってしまったり、ともすれば終わって初めて気づいたりといった、あまりに淡く捉えどころのない恋だ。もしかしたら当人ですら、うまく言葉にできない少年少女の揺れ動く胸の内を描き出すのは、著者ならではの特徴的な文体だ。軽妙なユーモアを交えつつ、長野に暮らす高校生たちの日常を過剰なほどのディテールで語り続けたと思いきや、まるで不意打ちのように切実なモノローグを展開し読み手の胸を打つ。

 あるいは本書は、主人公たちと同じ10代より、すでに高校時代が過去の物となってしまった読み手にこそ突き刺さるかもしれない。広い世代に読まれてほしい作品と書き手である。(前島賢

    −−「エンタメfor around 20 少年少女のあまりに淡い恋」、『朝日新聞2017年11月26日(日)付。

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覚え書:「速水健朗の出版時評 POSとスリップの技法 独自の棚作りで発信力強化」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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速水健朗の出版時評 POSとスリップ技法 独自の棚作りで発信力強化

速水健朗の出版時評

POSとスリップ技法 独自の棚作りで発信力強化

2017年12月03日

携帯できるPOS端末。無線LANで店内どこでも使える=東京神保町三省堂書店

 この10年、書店の発信力の時代が続く。カリスマ書店員の仕掛けからベストセラーが生まれ、「本屋大賞」は市場に大きな影響を与えている。

 その背景に出版市場の縮小やネット書店進出がある一方で、POSシステムの普及による書店環境の変化に対する現場からの抵抗という要素もあるかもしれない。

 POSとは在庫管理システムのこと。書店チェーンや大手取り次ぎが集めたデータを書店が参照する仕組みである。書店員が手持ちの端末で書籍からピピッと情報を読み取る光景を見かけることがある。端末にリアルタイムで売れ筋のランキングが示され、棚づくりに反映されていく。

 売れている優れた本がいち早く棚に並ぶようになったことはPOS導入の功績だが、一方、チェーン店化が進む中で書店員の専門スキルが軽視され、非正規労働者の割合が増えるという実質的なリストラが進んだことも事実だ。

 だが最近では、POS以前の仕組みである「スリップ」を見直す動きも。スリップとは本に差し込まれる二つ折りの長細い伝票だ。かつてはそれを仕分けることで売れた数を把握し、次の注文に活(い)かすことが書店員の仕事だった。

 『スリップ技法』(苦楽堂)は、元書店員が書いた独自性のある棚作りを提唱する本である。「全国的に売り上げ上位の本は、どの書店でも売れる可能性が高いですが、店舗独自の売り上げを構成するのは、中位グループの本。店ごとに異なる既刊ロングセラーを見つけるかで売り上げは変わる」というのは、著者の久禮(くれ)亮太氏。彼は客が買った本の組み合わせに着目して客層を推測し、次の品揃(しなぞろ)えのアイデアにつなげる。スリップとPOSの共存という提案である。もうひとつ重要なのはバランス。「独自の視点が行き過ぎると担当者の独善的な選書になってしまう」

 これ見よがしな書棚の並びでは近寄りにくさを感じてしまうもの。やりすぎないのも書店員の腕の見せどころだ。

 再訪したくなるアイデアあふれた場所。書店にはそうあって欲しい。

    −−「速水健朗の出版時評 POSとスリップ技法 独自の棚作りで発信力強化」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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覚え書:「ひもとく 辞書の編纂 活きたことばを採集する人々 サンキュータツオ」、『朝日新聞』2017年12月03日(日)付。

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ひもとく 辞書の編纂 活きたことばを採集する人々 サンキュータツオ

ひもとく

辞書の編纂 活きたことばを採集する人々 サンキュータツオ

2017年12月03日

広辞苑』第七版の改訂作業に使用した「校正刷り」の束が棚に並ぶ=東京神保町岩波書店

 これほど辞書編纂(へんさん)に注目が集まった時期はない。2011年に三浦しをんの小説『舟を編む』が刊行、ヒットして以降、映画、アニメ、更に漫画化されたこともあり国民的に興味が持続、増幅している。10年の「常用漢字表改訂」以降、関心の高さと符合するように各国語辞典も改訂の時期を迎えてきた。

 今年大きなニュースだったのは、現行で日本最大の国語辞典である『精選版 日本国語大辞典』のアプリが発売されたことと、来年1月に10年ぶりの『広辞苑』改訂新版の第七版が出るという発表だった。

広辞苑の物語

 近年では辞書編纂に関する書籍も多い。本年刊行された『広辞苑はなぜ生まれたか』は『広辞苑』編者・新村出(しんむらいづる)の孫で、フリー編集者・恭(やすし)氏による出の伝記だ。編纂は、家族の理解を得られないと物理的に不可能な仕事だ。専門知識だけでなく、執筆陣や出版社など関係者との人脈、ノウハウ面も親族で継承されるらしい。たとえば言語学国語学の金田一家や、『新明解国語辞典』の山田家、『大日本国語辞典』の松井家、そして新村家。本には、出の編纂で昭和10年に博文館から刊行された『辞苑』が次男・猛(たけし)による改訂作業で、戦後になって岩波書店から『広辞苑』として発売された経緯が事細かに記される。

 親族の評伝では真偽もあやしくアテにならない、と思うかもしれない。しかし、親族だからこそ入手できる書簡などの一次資料に綿密にあたっている点、さらに著者が『広辞苑』の編纂に直接関わっていない点を見ても、内容の客観性は信用に値する。辞書はたしかに「人」が書いたものであり、また市井の人々にもっとも身近な研究書でもある。そのことを実感させてくれるように、新村出の人となりや研究に関しても、紙幅をたっぷり割いた書籍である。

■街角でもメモ

 『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』は、新語収録に非常に積極的な『三省堂国語辞典』(以下『三国〈さんこく〉』)の編集委員・飯間(いいま)浩明氏の「ワードハンティング」ぶりがうかがえる用語採集の記録だ。『三国』は、見坊豪紀(けんぼうひでとし)という人物が生涯をかけて「活(い)きた用例」を拾い続け、編んだ辞書である。見坊は雑誌や新聞だけでなく、街に出て広告を見たり人々が話すのを聴いた。その中から馴染(なじ)みのない言葉をメモし、実際に使用されていた例として「用例カード」に保存した。これらは145万枚にも及ぶ「見坊カード」として、現在でも三省堂の倉庫に保管されている。

 飯間氏は、秋葉原深川など様々なニュアンスをもつ「街」に出かけ、現代らしくデジカメで撮影した用例とともに、持論を展開する。例えば高円寺でみつけた「ジャンプ傘」の文字。日本人なら誰もが知るワンタッチで開く傘だが、商標でもないのに、どの国語辞典にも掲載されていなかった。飯間氏は考える。昔からあるのに、なぜ採用されてこなかったのか。一般浸透度の問題か、使用例の少なさか。「ジャンプ」を調べても、「傘」を調べても、おそらく「ジャンプ傘」の意味は推測できない。〈これは次の改訂にいれなければ〉と考える。次の版ができるまでの編者の思考の過程ものぞけ、楽しめる。

 『辞書になった男』は『三国』とおなじ三省堂から『新明解国語辞典』という別の辞典が出版された経緯に迫る。大学の同門だったふたりの編者の人間ドラマも描かれる。NHKのドキュメンタリー番組制作のため取材を行った著者が内容を書籍化した。近年判明した真実も多く読み応え充分。

 辞書を愛する私としては、一人でも多く辞書熱を高めてくれると、仲間が増えてうれしい。

    ◇

 さんきゅー・たつお 学者芸人 76年生まれ。漫才コンビ米粒写経」として活動。一橋非常勤講師など。『国語辞典の遊び方』『ヘンな論文』ほか。

    −−「ひもとく 辞書の編纂 活きたことばを採集する人々 サンキュータツオ」、『朝日新聞2017年12月03日(日)付。

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コラム別に読む : 辞書の編纂 活きたことばを採集する人々 サンキュータツオ - サンキュータツオ | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト


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覚え書:「憲法季評 「こんな人たち」首相発言 国民を「個人」と見ぬ不明 蟻川恒正」、『朝日新聞』2017年07月20日(木)付。

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憲法季評 「こんな人たち」首相発言 国民を「個人」と見ぬ不明 蟻川恒正

2017年7月20日


 7月2日の都議選で敗れたのは、自民党東京都連というよりは、安倍内閣である。内閣支持率が投票日を前に急落し、選挙での歴史的大敗のあと更に落ち込んだことは、この観測が大きく誤っていないことを裏づける。選挙戦最終日、応援のため秋葉原駅前に立った安倍晋三首相は、集まった多くの市民による「安倍辞めろ」「帰れ」の連呼に「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫んだ。一国の首相が公然と国民の一部を「こんな人たち」呼ばわりすることは、議場で自身に厳しく迫る野党議員罵声を浴びせることとは一線を画する。自衛隊治安出動を命ずることができる首相による(自衛隊法78条)、自分に政治的に反対する者を国民として守ることを疑わせるような言動は、最高権力者が最も大切にしなければいけない国民の信任を失わせるものである。しかも、この首相発言は、自分に反対する者を敵視する安倍政治の根底を鮮明に炙(あぶ)り出すこととなった。

    *

 この発言で注目すべきは、「こんな人」ではなく「人たち」である。秋葉原でのうねりのような連呼を受けて、ネットでは「あれは共産党に動員されたのだ」といった風説が流れた。首相もまた、連呼する市民を何らかの組織の人たちと直感的にみなしたものと思われる。演説を邪魔されたと感じたとはいえ、1票でも多く票を取り込みたい投票日前日に有権者を攻撃することができたのは、「こんな人」呼ばわりをしても、失う票はその組織の「人たち」の票だけであり、コアな支持者の結束はむしろ高まると判断したからではないか。だが、その判断は誤りであった。事態を動員に帰す前記の風説に対し、連呼に参加したと言う人々から、「誰にも指図されず一人で行きました」という声が相次いだ。「私は行けなかったけれど、自分の声を代弁してもらえたと感じた」と、名も知らぬ参加者に感謝する不参加者のツイートが続いた。

 「辞めろ」の連呼は自発的に湧き起こったものと考えるほかない。秋葉原首相の眼前に現われた政権批判者には、彼ら自身も気づいていなかったが、相互に独立した無数の「同志」がいた。だからこそ、あのような開票結果になったのである。

 自分と反対の立場の政治的行動をする人を動員された「人たち」と決めつける短絡は、沖縄辺野古での基地反対闘争に参加する市民を「日当が支払われている」と誹謗(ひぼう)する人々の発言にも見られる。そうした発言をする人々は、人がもはや黙ってはいられない窮境に直面したとき、組織の支えがなくとも声を上げることがあるという人間性の真実が理解できないだけかもしれない。だが、その種の発言の主がもし首相であるとしたら、それを単なる想像力貧困として捨ておくわけにはいかない。自らの発意により政治的行動に出た国民を組織に動員された人たちと根拠なくみなすことは、国民を個人とは見ず、組織に一体化した存在とみなすことであり、「すべて国民は、個人として尊重される」(憲法13条前段)とする日本国憲法の最も基底的な精神に反するからである。

    *

 組織と個人という二項図式は、この間の日本の政治過程を読み解く上で鍵となるものである。2015年9月19日未明、安保関連法が成立した。成立までの約1カ月、国会前は法案に反対する市民で連日埋め尽くされたが、これに対しても、政党労働組合等の組織による動員であるという批判が声高に語られた。例えば数万人が集結した同年8月30日の国会前に、動員された者がいなかったといえば嘘(うそ)になろう。けれども、その場を埋めた大多数の人は、法案に対し、それぞれに居たたまれぬ思いを持って集まった個人であったはずである。政権はこれらの人々を恐れたが、9月後半の大型連休が明ける頃には忘れるだろうと高を括(くく)ってもいた。組織による動員と個人に発する行動との見分けがつかず、しかも、個人の力を見くびっていた。

 いわゆる共謀罪法をめぐる今年の国会審議では、「一般人」が処罰の対象になるかが焦点となった。法案反対者が示した懸念の核心には、政権批判をする市民が、本当は一人一人別々に行動しているのに、「組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体)」(「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」2条)に関係する「人たち」とみなされてしまうのではないか、いいかえれば、個人の行動とは認められないのではないか、という正当な危惧があった。そのことを曖昧(あいまい)にしたまま共謀罪法は成立した。動員と自発的行動を区別できない政権のもとでは、眼前の批判者を組織の「人たち」と決めつける短絡から前述の危惧の現実化までは、ほんの一歩である。

 政権批判をすることは、市民にとっては、危険をおかすことである。それでも声を上げた小さな個人の葛藤と決断を組織による動員と見誤る政権は、国民と向き合う自己の姿勢を反省することもできないだろう。政権がいまだ事態をわきまえぬなかで、自らの発意にもとづく政治的判断を積み重ねた個人が力を示すのは、都議選だけではあるまい。

    ◇

 ありかわ・つねまさ 1964年生まれ。専門は憲法学日本大学大学院法務研究科教授。著書に「尊厳と身分」「憲法的思惟」。

 ◆憲法、科学などテーマごとの「季評」を随時、掲載します。蟻川さんの次回は10月の予定です。

    −−「憲法季評 「こんな人たち」首相発言 国民を「個人」と見ぬ不明 蟻川恒正」、『朝日新聞2017年07月20日(木)付。

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(憲法季評)「こんな人たち」首相発言 国民を「個人」と見ぬ不明 蟻川恒正:朝日新聞デジタル





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