Hatena::ブログ(Diary)

Essais d’herméneutique このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2050-11-18

はじめに……

アカデミズム底辺で生きる流しのヘタレ神学研究者氏家法雄による神學、宗教學、倫理學、哲學の噺とか、人の生と世の中を解釈する。思想と現実の対話。

2010年11月25日より「はてな」に雑文を移項いたしますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

ついでですのでひとつ。

絶賛求職ちう。

過去(2007年8月28日〜2010年11月24日)の雑文は以下のURLより閲覧できます。

引っ越しがうまくいけばこちらへ完全移行の予定。

当分はココログと併用いたします。

Essais d’herméneutique

氏家法雄のブクログは以下のURLから閲覧できます。

ujikenorioの本棚 (ujikenorio) - ブクログ


f:id:ujikenorio:20111229153022j:image

2018-06-22

日記:人間性は、自己自身の到達し(言語や理性のような)人間的才能にふさわしい有意義な生活を送ろうという、つねに冒険的な人類の企てなのである。

f:id:ujikenorio:20180621235256j:image



-----

 人間性とは、一般には文字通り、他のあらゆる生物から人間を区別するもの、つまり人間の本性または本質を意味している。ところが、人間は、本性的には特定の行動様式生活形態に固定されてはいない。動物とは異なって、器官に欠陥があり、本能にも縛られていない代わりに、われわれは、限られた自然法則や、特殊化した器官や本能とか、多かれ少なかれ閉ざされた生活空間や経験の空間などによって、限定されているのではない。器官や本能に欠陥があり、また知性をもっているため、人間は、異常なほど広い活動の場を有する、世界に開かれた存在なのである。その活動の場において、個人としても集団としても、きわめて多様な発展を遂げ、生活してゆくことができる。ところが世界開放性はまた、自分自身の長期の幸福という観点だけからでも、さらには社会的、政治的なパースペクティヴにおいて見た場合でも、良い生活に達し得ないことが人間にはあり得るということをも意味している。成功か失敗かという原理的な二者択一から言えば、人間性は、失敗ではなく成功した、しかも優れた成功した人間的生活の理想を意味している。

 このような生活への能力を、人間は、生物学的過程によって獲得するのではなく、教育や修養、自由な性格を創出することによって初めて獲得する。したがって、成功した真実の人間存在の理想としての人間性は、経験的な現状を表しているのでもなければ、既存の模範を表しているのでもない。むしろ人間性とは、形成や自己発見、自己投企の果てしない過程をつうじて、人間本質を厳密に確定し、個人的衝動から人間を解放すべきであるという、人間的素質の教育に課されている課題を表している。

 人間性は、自己自身の到達し(言語や理性のような)人間的才能にふさわしい有意義生活を送ろうという、つねに冒険的な人類の企てなのである。人間性は、人間の弱さや、無力、卑しさや悪意を意味するのではなく、このような誘惑にもかかわらず、自己実現と協同によって自己を規定するという、規範的な指導理念を意味している。このような指導理念の本質には、人々の個人的、社会的、文化的な多様な諸条件や関心、考え方に対して開かれているということが含まれている。したがって必然的に、人間性は、内容的には限定されていない概念である。

    −−オトフリート・ヘッフェ(青木隆嘉訳)『倫理・政治的ディスクール法政大学出版局1991年、85−86頁。

-----




f:id:ujikenorio:20180603180936j:image


覚え書:「社説 憲法70年 改憲ありきの姿勢では」、『朝日新聞』2017年11月17日(金)付。


f:id:ujikenorio:20180619200207j:image


-----

社説 憲法70年 改憲ありきの姿勢では

2017年11月17日

 自民党憲法改正推進本部の会合を開き、改憲に向けた議論を再開した。

 衆院選自民党は、自衛隊の明記▽教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参院の合区解消の4項目を公約にうたった。公明党とあわせた与党で、改憲発議に必要な3分の2を上回る議席を獲得した。

 与野党を問わず、国会議員改憲志向は強まっている。本紙と東大の調査では、当選者の82%が改憲に賛成姿勢だった。

 一方で、国民の意識と大きなズレがあるのも確かだ。

 本紙の今月の世論調査で「首相に一番力を入れてほしい政策」を聞くと、社会保障32%、景気・雇用20%、教育15%などが高く、憲法改正は6%にとどまった。

 自民公明両党にも温度差がある。公明党山口那津男代表は最近、こう指摘した。

 「発議は、国会内の多数派工作で可能な場合もあるが、国民投票でぎりぎりの過半数では大きな反対勢力が残ってしまう。国民の憲法としては不幸な誕生になる。発議の3分の2の背景には、それ以上の国民の支持があるくらいの状況が望ましい」

 見識だろう。

 国会による発議にこぎつけたとしても、最終的に改憲の是非を決めるのは主権者である国民による投票だ。

 国民の納得が不十分なまま強引に発議に持ち込めば、国民投票の結果がどうあれ、国民の間に深刻な分断をもたらす恐れさえある。

 憲法のどこに、どんな問題があるのか。その問題は憲法を改めなければ解消できないのか。他の政策課題より先に、いま改憲を急ぐ必要性はあるのか。

 まず衆参両院の憲法審査会での超党派議論が重要だ。

 少数意見を排除せず、丁寧な議論を積み重ねる。少なくとも野党第1党の賛成をえる。

 手順をふんだ合意づくりの努力を尽くすことしか、国民の幅広い納得をえる道はない。

 安倍首相は5月に憲法への自衛隊明記を訴え、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と意欲を示したが、夏以降は「スケジュールありきではない」と述べている。

 当然の姿勢だろう。

 何よりも大事なのは、国民の多くがその改憲は必要だと理解し、同意することである。

 改憲ありきの姿勢は厳に慎むべきだ。

 ましてや安倍氏自身の首相在任中の施行を視野に、期限を区切るようなやり方では、国民の合意は広がらない。

    −−「社説 憲法70年 改憲ありきの姿勢では」、『朝日新聞2017年11月17日(金)付。

-----




(社説)憲法70年 改憲ありきの姿勢では:朝日新聞デジタル





f:id:ujikenorio:20180617155157j:image

f:id:ujikenorio:20180603180920j:image

2018-06-21

覚え書:「インタビュー ロシア革命100年 日本共産党前議長・不破哲三さん」、『朝日新聞』2017年11月17日(金)付。

f:id:ujikenorio:20180619195716j:image

-----

インタビュー ロシア革命100年 日本共産党前議長・不破哲三さん

2017年11月17日

写真・図版

「世界初の『マルクス・エンゲルス全集』は戦前の日本で出ました。その遺産が生きています」=池永牧子撮影

 ロシア革命から100年。労働者による革命で社会主義を打ち立てようというマルクスの思想が、ソ連という国家の形で実現し、世界は大きく揺さぶられた。だが、国際社会を二分する冷戦を経て、ソ連は1991年に消滅する。革命は世界をどう変えたのか。いま社会主義とは何か。日本共産党不破哲三前議長に聞いた。

 ――ロシア革命を今日、どう評価しますか。

 「20世紀初頭は、資本主義が全世界を支配していた時代でした。その時、資本主義に代わる新しい社会を目指す革命がロシア勝利した。マルクスの理論の中でしかなかった社会主義が現実化し、世界に大きな衝撃を与えたのです。社会党などがあった国では、左派共産党に発展する。日本のように社会主義者はいるが、政党がなかった国にも共産党が生まれた。影響は世界に広がり、第2次大戦後には、中国ベトナムなどで革命が起きた」

 「もうひとつ大事なことは、ロシア革命が起点となって、民主主義原則が新たな形で世界に定着したことです。のちに社会的権利と呼ばれる労働者の権利が、革命後の人民の権利宣言で初めてうたわれた。男女平等を初めて憲法に盛り込んだのもソ連の最初の憲法でした。革命は第1次世界大戦中に起きたが、革命政権は、大戦終結の条件として、民族自決権の世界的確立を求めた。これは国連植民地廃止宣言に実りました。世界の民主的国際秩序の先駆けとなる原則を打ち立てました」

 ――ロシア革命功罪のうちの「功」ですね。では、「罪」はどうでしょうか。

 「ソ連が積極的役割を果たしたのは革命後の短い期間、レーニン(1870〜1924)が指導した時期でした。それをどんでん返しにしたのがスターリン(1879〜1953)です。晩年のレーニンスターリンの大国主義など危険性に気づいて闘争を開始したが、その途中で病に倒れた。スターリンは、一連の内部闘争を経て30年代には共産党政府の絶対的な支配権を握り、社会主義とは本来無縁の独裁者になってしまった」

 ――スターリンの負の側面が暴かれたのは56年のフルシチョフによる批判以降です。それ以前の、たとえば不破さんのスターリン観は。

 「ソ連は革命後の困難を乗り越えて、第2次世界大戦で米英と組んで勝利したのだから、スターリンはすごい人物だと思い、スターリン全集なども全巻読んで研究したものです。ソ連で起こったスターリン批判はまだごく部分的なものだった。私は、1964年、党本部に入って理論部門を担当して、ソ連の『悪』にぶつかり、スターリンの指揮でソ連日本共産党に内部干渉して、党を一時分裂させた歴史も知った。日本の革命は日本の党自身で考えて答えを出すという『自主独立路線』はこの痛苦の歴史から確立したものです」

 「スターリンについては、コミンテルン(共産主義インターナショナル)書記長ディミトロフが詳細な日記を残しており、私は最近、これらの内部資料を使って全6巻の『スターリン秘史』を書き上げました」

 ――何がわかりましたか。

 「スターリンは、第2次世界大戦でヒトラーを破ったが、戦争の始まる瞬間まで、ヒトラーと組んで世界を再分割する夢に酔っていた。戦争の時期にも、大国主義の野望は捨てない。東欧を支配し、対日参戦の条件に領土を要求する。今の中国にもその危険があるが、過去に覇権を握った歴史を持つ国は、新政権ができても大国主義が復活しやすい」

    *

 ――現代の世界についてはどう見ているのでしょう。

 「21世紀ほど貧困と格差がひどくなった時代はないでしょう。さらに資本主義による最大の害悪は、地球温暖化だと思います。エネルギー消費量がケタ違いに増えてこれほど環境を破壊するとは、誰も予想しなかった。この問題を解決できるかどうかで、資本主義の、人間社会を担う力が試されると言ってもよい」

 ――それを解く力が社会主義にあるということですか。社会主義も現実には、統制経済の破綻(はたん)など失敗の連続ではありませんか。

 「マルクスの考えは、十分な生産力が発達し、自由人間関係が生まれる経済的基盤があって初めて社会主義が生まれるというものです。しかし、現在までに革命を成功させた国は、欧米の先進国ではなく、ロシアアジアなど発展の遅れた国でした。社会主義に到達した国は世界にまだ存在しないのです」

 ――マルクス主義の可能性はまだあると。

 「マルクスの理論は、長く誤解されてきました。本当に自由な社会をつくるのが、社会主義の根本論なんですよ。政治的自由だけでなく、生活が保証された上で、自由に使える時間があり、人間の能力を自由に発展できる社会を目指していた。資本主義の段階で生産力をそこまで発展させるのが大前提でした。日本ぐらいの生産力があれば、人間の自由を保障することは十分できる。資本主義に取って代わる社会像に向けての変革の運動とその成功の条件は、資本主義自体の中から生み出されると思います」

    *

 ――不破さんは日本政治の変遷を見てきました。政治はどう変わりましたか。印象に残る人物は。

 「80年に一部の野党が『共産党を除く』という原則を唐突に打ち立てました。戦前の抑圧とは違うが、共産党排除という異様な政治体制が34年続きました。それ以前はマスコミでも、ひとつの政党として自然体で見られていました」

 「60年代、私が国会議員になる前に新聞の企画で、幹事長時代の田中角栄さんと顔を合わせました。政治家としてなかなか面白かった。彼が首相の時に、私が書記局長で国会論戦をずいぶんやったけれども、石油ショック後の物価高のこと、米軍原子力潜水艦の入港の際の放射能監視のでたらめさなど、問題を指摘するとしっかりと認めて、『自分の責任でやる』と言って、実行するだけの幅がありました。いまの安倍晋三首相野党との論戦に応じようとしない。自民党は劣化したんだと思いますね」

 ――なぜ劣化したのでしょう。

 「自民党政治の中身は財界密着と対米従属で、昔から変わりませんが、今は『戦前回帰』というウルトラ右翼の潮流が加わった。それに小選挙区制の問題もあります。党本部が候補者を選ぶので、派閥を超えて総裁体制をがっちりと握っている。かつて『三角大福中』が首相の座を競い合ったような活力はない。さらに秘密保護法をやり、上級官僚の人事を全て官邸が行う。政治私物化の道具立てがそろってしまった」

 「野党憲法に従って臨時国会要求したら、遅らせて、いざ開くとなったら冒頭解散選挙まで私物化した。自信のなさの裏返しではないか。昔の自民党のほうが強かったのではないでしょうか」

    *

 ――今回の総選挙共産党は大幅に議席を減らしました。過去にもブームがありましたが、ある地点で壁にぶつかります。

 「日本共産党前進したときには、必ず反攻作戦が組織されるのが、戦後政治の一つの特徴で、先ほどの『共産党を除く』の壁もその代表的な一つでした。それに負けないで前進する条件をつくってきたのが、私たちの歴史だった。今度の党自身の後退は、『市民と野党共闘』をめぐる状況の突然の変化の中で起こったことで、『壁』の再現とは位置づけていません」

 ――共産党と他の野党との協力は野合だと批判されました。

 「綱領の一致は政党の『合同』の条件であって、『共闘』の条件ではない。綱領の違う政党が当面の国民的重大問題で一致してたたかうのが、共闘の本来の精神です。選挙中も訴えたことだが、第2次世界大戦でヒトラーフランスを占領した時、宗教界から『神を信じる者も信じない者も』という声が上がり、これが抵抗運動レジスタンスの精神になりました。今、日本の『市民と野党共闘』を支えているのは、まさにこの精神だと思います」

 ――共産党という名にアレルギーがある人もいます。より広い層に訴えるために党名変更すべきだ、という議論があります。

 「いわゆるアレルギーの大もとには、いろいろな誤解があります。例えば、ソ連型、あるいは中国型の社会を目指している、という誤解。今度の選挙戦の教訓からも、そういう誤解を取り除いてゆく日常的な努力を全党を挙げて強めるつもりでいます。日本共産党は、戦前から95年、この名前で活動してきたが、将来的には、21世紀から22世紀をも展望しながら、日本に理想社会をつくるために活動する政党です。党名には、その目標が体現されています。誤解を取り除く本格的努力をしないで、名前だけ変えて当面を糊塗(こと)するといったやり方は、日本共産党の辞書にはありません」

 (聞き手・三浦俊章、池田伸壹)

    ◇

 ふわてつぞう 1930年生まれ。共産党の書記局長、委員長などを歴任。69年から衆院議員連続11期。「スターリン秘史」「宮本百合子と十二年」など著書多数。

    −−「インタビュー ロシア革命100年 日本共産党前議長・不破哲三さん」、『朝日新聞2017年11月17日(金)付。

-----



(インタビュー)ロシア革命100年 日本共産党前議長・不破哲三さん:朝日新聞デジタル





f:id:ujikenorio:20180603180819j:image

覚え書:「折々のことば:932 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年11月14日(火)付。


f:id:ujikenorio:20180619195713j:image


-----

折々のことば:932 鷲田清一

2017年11月14日

 過酷な環境で生活し、研究するのは本当に困難なことだと思います。私は一人の人間として、あなたに感謝します。

 (松本紘〈ひろし〉)

    ◇

 前野ウルド浩太郎の『バッタを倒しにアフリカへ』から。昆虫にたかられるのが好きだった前野は、長じて西アフリカに渡り、バッタ研究に励みつつ、バッタによる食糧被害の解決にも身を砕く。帰国後の職を求めて、京都大学の有給の若手研究者育成プログラムに応募。最終面接で当時の京大総長の松本にこう言われ、胸を詰まらせた。

    −−「折々のことば:932 鷲田清一」、『朝日新聞2017年11月14日(火)付。

-----




折々のことば:932 鷲田清一:朝日新聞デジタル





f:id:ujikenorio:20180613192406j:image

f:id:ujikenorio:20180603180804j:image


バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
前野ウルド浩太郎
光文社 (2017-05-17)
売り上げランキング: 472

2018-06-20

日記:俺は、案外、俺のために生きているわけではないのかもしれない

f:id:ujikenorio:20180619195215j:image

-----

 ところで、グレーバーが指摘しているように、人間生活のすべてを自己利益の追求として説明しうるとする考え方は、人類史的な時間の中ではずいぶん新しい考え方なのです。

 経済学の基本であり、政治学においても広く認知されている「合理的選択論」、つまり、人間とはあらゆる場面で、最小のコストで、最大の効用を求める利己的な存在であるという考え方も、ずいぶん新しい理論であり、政治の分野でこの理論が強調されたのは一九五〇年代以降、経済分野においては、もっと新しいかもしれません。アダム・スミス評価の流れの中で、出てきた考え方ではないかと思います。スミスは、「自己利益によって人間は動く」と書いていましたからね。

 しかし、わたしの経験から導かれた結論は、そうしたものとはおよそかけ離れたものだったのです。

 それは、簡単に言えば、こんなことです。

 「俺は、案外、俺のために生きているわけではないのかもしれない」

 「誰もが、自分が大事と思っている」と、思っているかもしれませんが、このこと自体が、ホッブズ以来の資本主義的な社会が生み出した、人類史的にみれば比較的新しい、偏見なのかもしれないと、疑ってみる必要があると思ったのです。

 実際問題として、現実の生活の中では、自分のことは二の次にして、親や子どものために、身を粉にしている人々をわたしたちは見ているわけです。肉親だけではありません。他者のために、全財産をなげうつような奇特な人間がいるという事例も、たくさん見てきています。

 かれらは、なぜそんなことができるのでしょうか。

 「困ったときは相身互い」だから?

 そういう面もあるでしょう。「相互扶助」ですね。

 わたしは、ちょっと違う考え方を採用しています。それは、私たちの遺伝子の中には、自分だけが生き残ろうとする遺伝子と、自分たちの種を存続させなければならないという遺伝子の両方が存在していて、あるときには利己的になり、あるときには利他的な行動になるが、本人はなぜそんなことをしているのか、本当はよくわからない。別に科学的な根拠があるわけでもないのですが、わたしはそんなふうに考えています。

    −−平川克美『21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学』ミシマ社、2018年、48−50頁。

-----




f:id:ujikenorio:20180603180703j:image



21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学
平川克美
ミシマ社
売り上げランキング: 48,540

覚え書:「インタビュー 米民主党、苦悩の背景 デビッド・ベトラスさん」、『朝日新聞』2017年11月16日(木)付。

f:id:ujikenorio:20180619195212j:image


-----

インタビュー 米民主党、苦悩の背景 デビッド・ベトラスさん

2017年11月16日

写真・図版

バーで地元民の声を聞く

 トランプ米大統領の当選が突きつけたのは、労働者の支持をつなぎとめられない米民主党リベラル派の姿だ。かつて製造業や製鉄業が栄えた米中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)のオハイオ州ヤングスタウンでは、今も労働者の支持は戻っていないという。離反を目撃してきた地元民主党トップに苦悩の背景を聞いた。

 ――オハイオ州などラストベルト諸州で連勝し、トランプ大統領が当選して1年。民主党は敗北から立ち直れていますか?

 「民主党全国委員会はまだ敗因を十分に理解していない。1回の選挙では、党は変わらないのでしょう。党の将来を全く楽観していません。まず、トランプ氏の言動一つ一つを非難することをやめることが重要です。非難ばかりしていると、それが当たり前になり、誰も聞かなくなる」

 「民主党選挙戦の失敗を今も繰り返している。トランプ氏や支持者を、人種差別主義者や外国人嫌い、バカなどと侮辱すれば、彼らは二度と民主党に戻らない。怒りにまかせての批判をやめないといけない。批判は(自身への)支持にはならない。有権者に響く方向性を示し、メッセージそのもので勝たないといけない」

 ――かつて民主党を支持した労働者はなぜトランプ氏に流れた?

 「民主党ブルーカラー労働者の暮らしを以前ほど気に掛けなくなった。少なくともそれがこの街の労働者に残した印象です。私は投票日の半年前に問題点を列挙したメモを党上層部や選対幹部に送りました。『メッセージを変えないと民主党はラストベルトで負ける』と。全て現実となり、いまホワイトハウスにトランプ氏がいる。これが昨年5月のメモです」

 〈メモ抜粋〉

 クリントン氏の貿易や経済の主張に労働者は共感していない/ラストベルトの民主党員がトランプ氏の応援共和党予備選に参加している/オハイオミシガンを含め、楽勝のはずの州が接戦になる。

 ――なぜ、このようなメモを?

 「戦略を変えなければ負ける、今なら間に合うと陣営を説得したかった。党候補を1人に絞り込む予備選で、多くの労働者民主党から共和党に移り、共和党の投票用紙が足りなくなった。本来は民主党への投票を呼び掛ける役割の地域の幹事も『トランプに投票する』と続々と党を去った。何があっても民主党支持だった人々。前代未聞のことが続いた。クリントン氏のメッセージが労働者に響いていないことは明白でした」

    ■     ■

 ――今後、どう変えるべきか?

 「配管工、美容師、大工、屋根ふき、タイル職人、工場労働者など、両手を汚して働いている人に敬意を伝えるべきです。高等教育が広がっていても、多くの人は学位を持っていない。重労働の価値を認め、仕事の前ではなく、後に(汗を流す)シャワーを浴びる労働者の仕事に価値を認めるべきです。彼らは自らの仕事に誇りを持っている。しかし、民主党の姿勢には敬意が感じられない。『もう両手を使う仕事では食べていけない。教育プログラムを受け、学位を取りなさい。パソコンを使って仕事をしなければダメだ』。そんな言葉にウンザリなんです」

 「労働者たちに民主党は『労働者庶民の党』と伝えてきたが、民主党や反トランプ派からはメディアを通じて(性的少数派の人々が)男性用、女性用どっちのトイレを使うべきか、そんな議論ばかりしているように見えた。私が選挙中に聞かされたのは『民主党雇用より(性的少数者の人々の)便所の話ばかりしている』という不満だったのです」

 ――でも、60年代以降の公民権運動象徴されるように民主党は少数派の権利を擁護してきました。米リベラリズムの功績では?

 「その通り。不満を抱く人々、(偏見や差別に)抑圧された側に立つ。それが民主党の品質証明です。でも、順番を間違えてはいけない。雇用賃金などの労働問題は、万人にとって最大の関心事。これが中央にあるべきです。夕食の卓上を想像して下さい。人工妊娠中絶や性的少数者の権利擁護、『黒人の命も大切だ』運動など、今のリベラル派が重視する争点はどれも大切ですが、選挙ではメインではなく、サイドディッシュです。卓上の中央は常に肉か魚で、労働者雇用賃金という経済問題であるべきです。トランプ氏が『今晩のメインは大きなステーキです』と売り込んでいるときに、民主党は『メインはブロッコリー。健康にいい』と言っているように聞こえてしまったのです」

    ■     ■

 「そもそも、この地域で民主党支持だった労働者の多くは自らをリベラルとは認識していない。リベラル派の争点は、彼らにとっては最重要ではないからです。労働者の関心は、よい仕事があるか、きちんと家族を養えるか、子の誕生日にパイを用意できるか、教育を用意できるか、十分な休暇を取れるか、自分の仕事に誇りを持って引退できるかです。これらが、アイデンティティー政治(サイドディッシュ)より重点的に扱われなければならないのです」

 「カリフォルニアニューヨーク両州は民主党が圧倒的に強い。今の民主党にはシリコンバレーに住む超富裕層から他のどの地域よりも献金が集まる。彼らが党を本来の争点から遠ざけてしまった」

 ――とはいえ、かつての製造業をラストベルトに戻すのは容易ではないと多くの人が言います。

 「そんな言葉は候補者の口から聞きたくないんです。労働者の再教育という訴えも何度も聞かされた。今さらプログラミングなんてできませんよ。そんなメッセージは響かない。なぜ労働者のための政策を実施すると訴えないのか。インフラ整備は代表例。古びた橋や道路を補修すれば多くの雇用になる。彼らは汗を流して自分の腕で稼ぎたがっているんです」

    ■     ■

 ――結局、昨年5月のメモはどうなったのですか?

 「私はオハイオ州に88ある郡の委員長の一人に過ぎません。反応なし。メモを読んでいてくれればラストベルト諸州で連敗することはなかったと思います」

 「想像ですが、私のメモは誰かの机の上に埋もれているのでしょう。『はあ? マホニング郡ってどこだ? なんだオハイオの片田舎か。オハイオは既に獲得済みだ』となったんでしょうね。世論調査を信用し、オハイオで勝てると思い込んだ」

 「ビッグデータの過信にも問題がある。私は前線の一隊長。本部に無線で『ミサイルが標的に当たっていない(メッセージが有権者に届いていない)』と伝えたが、作戦本部は『ミサイルは的を射ている』と自信たっぷりだった、というわけです。有権者と日々接している現場よりも、ビッグデータや、それを活用する大都会ニューヨーク選挙コンサルタントが信用されたのです。私は彼らをインソルタントと呼んでいます(※英語でインソルトは無礼を意味)」

 ――この地域を取材中、トランプ支持に流れた元民主党員から「民主党の指導層からは『自分たちは地方よりも物事を理解している』という傲慢(ごうまん)さを感じる」という不満を繰り返し聞きました。

 「党内のエリート主義です。資金と権力を握っている指導部には『地方のキミに何がわかる?』という姿勢がある」

 ――トランプ氏の支持率歴代大統領に比べても低いです。

 「少なくともこの地域では、ほとんどトランプ支持から離れていない。それが実態です。選挙期間と同じで、世論調査を信じてはいけない。トランプ支持は『恥ずかしいこと』という認識があり、調査の電話がかかってきてもなかなか支持しているとは認めません」

    *

 David Betras 1959年生まれ。オハイオ州マホニング郡の民主党委員長弁護士として、医療過誤や刑事弁護などを手がける。

 ■取材を終えて

 ベトラス氏は全米の民主党を代表していない。大勢いる地方の委員長の一人だ。それでも意見を聞きたかったのは、労働者の票をまとめきれない、今の米民主党リベラル派の課題が、現場から見えるかもしれないと考えたからだ。

 世界経済が急速にグローバル化し、企業が国際競争にさらされる中、先進国でかつての雇用賃金を維持することは難しくなった。1990年代のクリントン民主党政権労組の反対を押し切って、北米自由貿易協定(NAFTA)など自由貿易路線を進めた。80年代の大統領選で3連敗した民主党にとって、現実的な軌道修正とも評された。

 ただ、警告を発する人もいた。

 90年代末に哲学者、故リチャード・ローティ氏は、労働問題が正面から語られなくなる中で「ストロングマン(有力者)」の誕生を望む声が強まる事態を警告していた。さらに、その後に起こりそうなこととして、60年代以降に拡大した少数者の権利が「帳消し」になることも懸念していた。米国では今、トランプ大統領が誕生し、白人至上主義勢力労働者への勧誘を活発化させている。

 米民主党の苦悩は、左派が混迷してきた日本にも示唆を含むかもしれない。米民主党リベラル派が今後、何を訴え、どこに向かうのか。日本社会への意味も考えながら伝えていきたい。(聞き手 ニューヨーク支局員・金成隆一)

    −−「インタビュー 米民主党、苦悩の背景 デビッド・ベトラスさん」、『朝日新聞2017年11月16日(木)付。

-----




(インタビュー)米民主党、苦悩の背景 デビッド・ベトラスさん:朝日新聞デジタル





f:id:ujikenorio:20180613192124j:image

f:id:ujikenorio:20180603180648j:image

2018-06-19

覚え書:「ミゲルは潜伏キリシタン? 長崎の「墓」に聖具」、『朝日新聞』2017年11月16日(木)付。

f:id:ujikenorio:20180618140337j:image

-----

ミゲルは潜伏キリシタン? 長崎の「墓」に聖具

2017年11月16日

写真・図版

天正遣欧少年使節顕彰之像」の千々石ミゲル長崎県大村市

 天正遣欧使節のひとり、千々石(ちぢわ)ミゲルは、ローマに旅立った少年4人の中で唯一の棄教者として、「背教者」などと烙印(らくいん)を押されてきた。だが、そんな彼のイメージが覆るかもしれない。この夏、長崎県諫早市ミゲルとその妻の墓とされる遺構で発掘が行われ、信仰が続いていたとみられる証しが見つかったのだ。

 使節は16世紀後半、大友宗麟九州キリシタン大名ヨーロッパに送り込んだ少年たちだ。有馬晴信大村純忠の縁戚だったミゲル伊東マンショ原マルチノ中浦ジュリアンとともに欧州の地を踏み、熱烈な歓迎のもとでローマ法王やスペイン国王に謁見(えっけん)する栄誉を得た。

 旅立ちから8年後の1590年に帰国したとき、キリシタンを取り巻く状況は一変しつつあった。迫害のなか、4人のうちある者はマカオで死去し、ある者は国内で殉教した。ミゲル信仰を捨てて清左衛門と名乗り、4人の息子に恵まれたとされる。ただ、居を転々とし、幸せな晩年とは言えなかったようだ。

 そんな彼の生涯は謎に包まれている。ミゲルイエズス会を脱会したのは1601年前後という。キリスト教世界の繁栄を目にしたにもかかわらず、なぜ棄教したのか。そもそも本当に信仰を捨てたのか。

 諫早市多良見町の静かな山間に、ミゲル夫婦の墓とみられる場所がある。古い石碑には禁教の往時を反映してミゲルの名はないが、仏式で男女の名があり、裏に玄蕃という名が刻まれている。ミゲルの四男、千々石玄蕃が建てたらしい。

 8月下旬から9月にかけ、ミゲルの血を引く浅田昌彦さん(川崎市)や地元の歴史愛好家らが専門家の協力を得ながら発掘調査を実施。石碑の下の礫(れき)やふた石を取り除くと長持ち状の埋葬施設らしき穴があり、直径2〜5ミリの5色のビーズが59個、半円形のガラス板などが見つかった。ビーズは容器の装飾や鎖の玉、ガラス板は聖遺物入れの一部ではないかとの見方が出ており、いずれにしても「キリシタンの聖具なのは間違いない」(発掘調査実行委員会)。墓穴の構造は上級武士のものという。

 人間の骨や歯も見つかった。専門家の分析によると、25〜45歳の女性らしい。もしミゲルの妻なら、隣接してミゲルの墓がある可能性が高いという。

 調査を統括する石造物研究者の大石一久・大浦天主堂キリシタン博物館副館長は、ミゲルは晩年まで信仰を保っていたと考える。

 ミゲルイエズス会を脱会した時期は、修道会同士の対立仏教寺院の徹底破壊など様々な問題が噴出していた。「当時のイエズス会は日本という異文化に適応しようとしなかった面もある。ミゲルはそんな姿勢に異を唱えたのではなかったか。だから、あくまで脱会であって、信仰を捨てたわけではなかったと思う」

 ■子孫ら、歴史の闇に光

 日本キリスト教史の黎明(れいめい)期、禁教や迫害で様々な資料が葬られた。当時の実態を知るにはイエズス会側の記録からのアプローチに偏らざるを得ない。それだけに、発掘調査の成果は事実解明に向けた糸口となる可能性を秘め、「文献史料を補う例になる」と五野井(ごのい)隆史・東京大名誉教授(キリシタン史)は語る。

 調査は道半ばだ。出土品がミゲルゆかりの遺品かどうかは、まだ断定できない。しかし、行政アカデミズムではなく、後世の縁者として発掘に私費を投じてきた浅田さんや地元ボランティアの熱意が歴史の深い闇に光をあて、ミゲルの「復権」と通説の再検討を促しつつあるのは確かだ。

 来夏はユネスコ国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会で「長崎天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が審査される。もし、ミゲルが生涯信仰を胸に秘めていたとしたら、彼はその先駆けだったといえるかもしれない。

 (編集委員中村俊介

    −−「ミゲルは潜伏キリシタン? 長崎の「墓」に聖具」、『朝日新聞2017年11月16日(木)付。

-----







ミゲルは潜伏キリシタン? 長崎の「墓」に聖具:朝日新聞デジタル


f:id:ujikenorio:20180613191627j:image


f:id:ujikenorio:20180603180550j:image

覚え書:「評伝 島成郎 ブントから沖縄へ、心病む人びとのなかへ 佐藤幹夫 著」、『東京新聞』2018年05月06日(日)付。

f:id:ujikenorio:20180618140334j:image



-----

評伝 島成郎 ブントから沖縄へ、心病む人びとのなかへ 佐藤幹夫 著

2018年5月6日

◆患者のため再開した戦い

[評者]吉田司ノンフィクション作家

 六〇年安保闘争は、戦後日本の「天下分け目の関ケ原」のようなものだった。日米安保条約は成立したが、岸信介首相の戦前復古ナショナリズムには反対するニューライト型平和民主主義軽武装重商主義)の道を歩むという国民の選択がはっきりした。

 この戦で国会に突入した全学連流派を率い、数十万人もの反対デモの先頭に立ったのが若きニューレフト、ブント共産主義者同盟書記長の島成郎(しましげお)である。ブント安保騒乱の民衆エネルギーを国内革命に転化させることを夢みたが、一敗地にまみれ、崩壊・分裂した。つまり六〇年安保とは、軍国主義の復活とマルクス主義的なプロレタリア革命への道という<二つの可能性>の消滅をも意味したのだ。当然、島も政治の表舞台から姿を消し、ブントの島は「安保親分」という英雄伝説だけが残った。

 本書は、その島の知られざる後半生を掘り起こした評伝ノンフィクションである。それによれば一九六八年五月(あの全共闘の大学騒乱の時期)、島は沖縄那覇空港日本政府厚生省派遣精神科医として姿を現す。彼は古巣の東大に復学し、国家御用のエリート医師に変貌していた。

 しかし島は、まだ座敷牢(ざしきろう)や監置小屋の残る沖縄の保守的な医療風土の中で精神を病む患者のために再び戦い始める。保健師たちの協力を得て島々を巡回診療し、閉鎖的な精神科病院の開放など地域医療改革の運動を続けた。

 彼は常に「民衆の側にいた」という元活動家の声を本書は伝えている。ヴ・ナロード人民の中へ)の志を貫いたのだと。ならば、彼のマルクス離れは<偽装転向>だったのか。謎が謎を呼ぶ展開で面白い評伝だ。筆の運びも力強い。ただ全体的にブント中心「英雄史観」の色彩が濃く、高度成長期の日本経済が<安保沖縄>に与えた影響の大きさなどについての考察が少ないのではないか、との印象は残る。

 (筑摩書房・2808円)

<さとう・みきお> フリージャーナリスト。著書『ルポ 高齢者ケア』など。

◆もう1冊 

 宮内勝典(かつすけ)著『永遠の道は曲りくねる』(河出書房新社)。島成郎をモデルにした沖縄の病院長が主要人物の一人として登場する物語。

    −−「評伝 島成郎 ブントから沖縄へ、心病む人びとのなかへ 佐藤幹夫 著」、『東京新聞2018年05月06日(日)付。

-----






東京新聞:評伝 島成郎 ブントから沖縄へ、心病む人びとのなかへ 佐藤幹夫 著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)



f:id:ujikenorio:20180603180544j:image




評伝 島成郎 (単行本)
評伝 島成郎 (単行本)
posted with amazlet at 18.06.17
佐藤 幹夫
筑摩書房
売り上げランキング: 33,395

覚え書:「【書く人】強さって?性描き考える 『青春のジョーカー』作家・奥田亜希子さん(34)」、『東京新聞』2018年05月20日(日)付。

f:id:ujikenorio:20180618140331j:image


-----

【書く人】

強さって?性描き考える 『青春のジョーカー』作家・奥田亜希子さん(34)

2018年5月20日

 テーマは、ずばり思春期の性欲。教室内の人間関係にいや応なく介在する性のやっかいさが、ヒリヒリした痛みとともに伝わる物語だ。おとなしく、気弱な中学三年の男子を主人公に、青春の入り口に立つ年代ならではの切実な問題を浮かび上がらせた。

 男性の体と心に切り込んでいるけれど、作者は女性。「書けるか不安もありました。でも、自分の中で答えがなんとなく見えているものでは面白くない。以前から気になっていた性のことを、ど真ん中で書くには、男子中学生が一番合っていると思って」

 描かれている学校生活の大変さは、男女問わず多くの人が思い当たるだろう。誰かを<レベルが下>と見ることで、自身の立ち位置を確保しようとする小競り合いに巻き込まれる。一方で、自分は誰からも恋愛や性の対象として受け入れられないのではという不安も、頭をもたげる。「私は教室の隅にいたので、真ん中にいる子は、無敵でハッピーなんだろうと思っていました。でも、今思えば、コンプレックスのない人間なんて、そうはいないんですよね」。作中では、ほかの登場人物が抱える悩みも、少しずつ明かされていく。

 主人公の兄は、名門とされる大学に行くことで、モテない生活から必死で抜け出そうとする。そして<セックスすればいいんだよ。セックスをすれば、一気に世界が変わる>と語る。本当に性体験は、そんなに万能な「ジョーカー」なのか。「書き進めるうちに、強さって何だろう、希望って何だろうと、あらためて考えることになりました」

 物語は、現実世界で起きているセクハラや性暴力のニュースも、連想させる展開をみせる。「性なんてなければいいのに、という気もする。でも、そちらに突き詰めても、きっといい結果は生まない。だからすごくいいものとも、すごく悪いものとも、ならないように書きました」

 今年でデビュー五年。愛知県内の大学を卒業後、フリーペーパーの制作会社をへて、作家になった。小学生の娘を育てる母でもある。「私には今の生き方を、あのころの自分に見せているような、敵討ちをしているような気持ちが、どこかにある。小中高校くらいまでに体験したことは、その後の人生に、すごく響くものなのかもしれませんね」

 集英社一六二〇円。 (中村陽子)

    −−「【書く人】強さって?性描き考える 『青春のジョーカー』作家・奥田亜希子さん(34)」、『東京新聞2018年05月20日(日)付。

-----







東京新聞:強さって?性描き考える 『青春のジョーカー』作家・奥田亜希子さん(34):Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)








f:id:ujikenorio:20180603180538j:image



青春のジョーカー
青春のジョーカー
posted with amazlet at 18.06.17
奥田 亜希子
集英社
売り上げランキング: 33,930

覚え書:「【東京エンタメ堂書店】<江上剛のこの本良かった!>政治家・官僚は直視を 国家が国民を苦しめた歴史」、『東京新聞』2018年05月14日(月)付。

f:id:ujikenorio:20180618140327j:image


-----

東京エンタメ堂書店】

江上剛のこの本良かった!>政治家官僚は直視を 国家が国民を苦しめた歴史

2018年5月14日

 財務次官セクハラ疑惑は論外だが、森友学園への国有地売却に関する財務官僚文書改ざんが大きな問題になり、政権を揺るがしている。これらは政治家官僚傲慢(ごうまん)さの表れではないか。過去にも政治家官僚が問題に真摯(しんし)に向き合わず、人々を苦しめ続けた事実がある。

◆被害民 踏みにじり

 <1>城山三郎著『辛酸 田中正造足尾鉱毒事件』(角川文庫、四七五円)

 田中正造明治二十四年十二月の帝国議会で「足尾銅山鉱毒事件」について初めて質問。しかし被害民の救済などは進展せず、議員を辞し、明治三十四年十二月、天皇に直訴する。本書の第一部は、正造の運動が挫折しつつあった頃の話である。正造は、鉱毒反対運動急先鋒(きゅうせんぽう)である谷中村を守る戦いに明け暮れていた。国家は村を買収して遊水池にしようとし、十九戸の家族は村を残すべく政府徹底抗戦していた。

 しかし大正二年九月四日、正造は頭陀袋(ずだぶくろ)に鼻紙、新約聖書、小石だけを残して亡くなる。集まった人々は「よしよし、正造がきっと敵討ちをしてやるぞ」という言葉を懐かしく思い出す。第二部は、正造の支援者宗三郎が主人公。正造の遺志を受け継ぎ、村の強制収用に徹底して戦う。

 第一部、第二部とも「強制破壊にあった谷中堤内十六戸の残留民が国家に対して何の害をなしたというのだろう。かつて一反あたり八俵もとれた富裕な村をここまで追い込んだのは、足尾銅山とその銅山資本家の言うがままになっていた国家の方ではないか」という正造(実は著者)の、人々を踏みにじる国家権力に対する怒りで貫かれている。

侮蔑と破壊の体質

 <2>石牟礼(いしむれ)道子著『苦海浄土(くがいじょうど)−わが水俣病』(講談社文庫、七四五円)

 第三章「ゆき女(じょ)きき書(がき)」で自身の病を語るゆきは、漁師の夫に嫁いで三年もたたずに水俣病に侵される。それまでは夫を助ける働き者だった。ゆきは「あをさの汁をふうふういうて、舌をやくごとすすらんことには春はこん」と言うが、痙攣(けいれん)して一人で食事もできない今、汁を吸うことはできない。病気になって夫に離婚され「ここは、奈落の底でござすばい、墜(お)ちてきてみろ、みんな。墜ちてきるみゃ」と怨念の言葉を吐く。

 水俣市チッソの町。水俣病を問題にすれば工場が潰(つぶ)れ、市は消滅する。著者は「水俣病イタイイタイ病も、谷中村滅亡後の七十年を深い潜在期間として現れるのである。新潟水俣病も含めて、これら産業公害が辺境の村落を頂点として発生したことは、わが資本主義近代産業が、体質的に下層階級侮蔑共同体破壊を深化させてきたことをさし示す」と書き、そのことが集約された水俣病の直視を訴える。この問題提起は今も生きている。

文書改ざん予言

 <3>黒川清著『規制の虜(とりこ) グループシンクが日本を滅ぼす』(講談社、一八三六円)

 著者は、東京電力福島第一原発事故の原因調査のため国政調査権に基づき国会に設置された、民間人から成る憲政史上初の調査委員会国会事故調)の委員長を務めた。

 彼は冒頭から怒りをぶつける。「志が低く、責任感がない。自分たちの問題であるにもかかわらず、他人事(ひとごと)のようなことばかり言う。普段は威張っているのに、困難に遭うと我が身かわいさからすぐ逃げる。これが日本の中枢にいる『リーダーたち』だ」。調査報告を実現するまでの並々ならぬ苦労と、何よりも「国会事故調などまるで『存在しなかった』かのよう」に原発を推進する現政府への深い失望からだ。

 著者は調査の過程で、国民の安全のための規制当局(原子力安全・保安院)が事業者(東電)の利益のために機能する逆転現象が起きていると気付き、これこそ日本社会の問題で「規制の虜」であると指摘する。規制機関が規制される側の勢力に取り込まれ、支配されてしまう状況を指す経済用語だ。森友学園問題なども「規制の虜」になった結果ではないだろうか。

 また日本を滅ぼす「グループシンク」(集団浅慮)とは、日本の組織、特に同質性の高い人が集まる大企業や役所などで起きやすい「異論をなるべく排除しようとする関係者の独善的なマインドセット思い込み)」に基づく意思決定パターンだ。ここに陥ると「時としてとんでもない大間違いをしてしまう」と著者はいうが、財務省公文書改ざん事件を予言したように読めないか。

 日本は国家の無作為、もっと強く言えば国民無視の事件が多い。そしてその歴史に政治家官僚も学ぼうとしない。これでは国民の絶望は深くなるばかりである。謙虚に歴史に学ぶ姿勢になってもらいたい。

 (えがみ・ごう=作家)

 *二カ月に一回掲載。

    −−「【東京エンタメ堂書店】<江上剛のこの本良かった!>政治家官僚は直視を 国家が国民を苦しめた歴史」、『東京新聞2018年05月14日(月)付。

-----







東京新聞:<江上剛のこの本良かった!>政治家・官僚は直視を 国家が国民を苦しめた歴史:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)


f:id:ujikenorio:20180603180535j:image


新装版 苦海浄土 (講談社文庫)
石牟礼 道子
講談社
売り上げランキング: 1,093

規制の虜 グループシンクが日本を滅ぼす
黒川 清
講談社
売り上げランキング: 164,265

覚え書:「折々のことば:931 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年11月12日(日)付。

f:id:ujikenorio:20180618140324j:image


-----

折々のことば:931 鷲田清一

2017年11月12日

 鳥の魂は空で、空の身体は鳥だ。

 (岩田慶治

    ◇

 人間からすれば、空を飛ぶ鳥も、庭の小枝に止まる鳥も、籠の中の鳥も、焼かれた鳥も、みな鳥だ。が、鳥にとっては、空の懐深くに抱かれて自由に飛ぶ時だけが鳥なのだと、文化人類学者は言う。鳥は空を魂とし、のびやかに飛翔(ひしょう)する。空は鳥を身体とし、その透きとおる広がりを自在に描く。そこでは、飛ぶことと身をまかせることが一つとなっている。『カミの人類学』から。

    −−「折々のことば:931 鷲田清一」、『朝日新聞2017年11月12日(日)付。

-----




折々のことば:931 鷲田清一:朝日新聞デジタル





f:id:ujikenorio:20180613191813j:image

f:id:ujikenorio:20180603180531j:image