鯖田豊之『金(ゴールド)が語る20世紀』

 金と国際通貨体制を通じて20世紀の歴史を語る。日本だけではなく、欧米の動きもフォローされている。金を通じて見る世界の動きは面白い。目次で内容を見ると...

序章 太平洋戦争と金現送
 1. 消えた潜水艦イ52号
 2. 開戦までの対米金現送は600トン以上
 3. 20世紀は金の時代
第1章 為替管理なき金本位制
 1. 国際的金本位制の誕生
 2. 外貨国債日露戦争
 3. 近づく日本の財政破綻
第2章 第一次大戦金本位制の停止
 1. 史上初の総力戦
 2. 難航する講和への途
第3章 二つの大戦のあいだで
 1. 賠償問題
 2. 国際連盟の内と外
 3. 世界大不況と再建金本位制の崩壊
第4章 経済大国をめざして
 1. 戦後処理
 2. 高度経済成長時代
 3. 変動相場制の誕生と定着
終章 海図なき航海
 1. 円高へのうねり
 2. アジア、ロシアの通貨危機とヨーロッパの通貨統合
 3. 最後の頼りは金

 目次を読んでいても、波乱万丈の20世紀であったことがわかる。日清・日露戦争の戦費を日本は外債で調達したのだなあ。関東大震災のあとは発行条件が一気に悪化してしまい、「国辱国債」などという名前があった時代もあったのだなあ。
 冒頭のイ号潜水艦の話は、第2時大戦中、ドイツから最新鋭の軍事技術の供与を受ける見返りに、日本が金塊を運んでいった話。第一次大戦に敗北したドイツは、賠償金問題もあり、金の保有が少なかった。一方、日本は同じ第一次大戦の時に戦争成金のように金の保有高を増やす(その後、景気の悪化や関東大震災で金はまた減っていく。もう一度、日本を金を大きく上積みするのは朝鮮戦争特需の時)。スイスは戦争中もドイツと金融取引をしていたが、決済にあたっては、しっかりとドイツから金で取り立てていたという。ドイツはドイツで、ユダヤ人や占領地域から強奪した金をスイスに備蓄し、その総額はよくわからないらしい。
 ドイツに比べると、日本は純なところがあって、タイやインドシナの金については「イヤマーク」といって日銀の保有準備金のなかからタイ国銀行、仏領インドシナ銀行分は別勘定にし、この分は敗戦後、両国に戻したという。官僚主義の良い面だろうか。
 このほか登場するエピソードが面白い。歴史を金と通貨から見るのは新鮮。債券から歴史を振り返ってみても面白いのかも知れない。企業の興亡は株式に象徴されるが、国勢の興亡は債券に象徴されるのだろう。ギリシャもそうだし。
 この本の著者が鯖田氏であったことは、ちょっと驚き。西洋中世史の専門家で、文化がフィールドの人だと思っていた。まあ、金融も文化ではあるが。

政治抗争の季節になると思い出す この映画、この台詞

 民主党代表選が菅vs小沢と決まり、政治抗争の季節に入ったが、自民党時代から政治家たちの抗争を見ていると、すぐに頭に浮かんでくるのが、この映画。

仁義なき戦い [DVD]

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 そう「仁義なき戦い」。タイトルが派閥や政治グループ同士のなりふりかまわぬ闘争を思い起こさせるからとか、政治家の親分・子分関係がヤクザ社会に似ているから、なんていうことではない。テレビニュースで政治家の方々の様子を見ていると、笠原和夫が書いた傑作シナリオの名台詞がいくつか思い浮かんでしまうのだ。
 例えば、松方弘樹が演じた山守組若頭、坂井のこんな台詞。

「夜中に酒飲んどるとよ、つくづく極道がいやになっての......足洗うちゃるか思うんじゃが......朝起きて若いもんに囲まれるちょるとよ、のう、夜中のことは忘れしまうんじゃ.....」
笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

 「極道」を「政治」に置き換えると、小沢さんとか、鳩山さんとか、派閥領袖とか各グループの代表の人たちって、こんな気分かなあ、と。おふたりにしても政治の一線から身を引くようなことを言っていたのが、ここにきて一変した。自分はそう思っていても、周りがもう辞めさせてくれないし、そのうちに本人も周囲の熱に感染してしまって、ということかな、などと思ってしまう。
 金子信雄が扮した老獪な山守組長が、若手幹部たちの反乱に際してのこんな台詞もある。もう一つ、説明すると、この台詞の前に若頭の坂井に「おやじさん、言うとってあげるが、あんたは初めからわしらが担いどる神輿じゃないの。組がここまでなるのに、誰が血流しとるんや。神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみいや、のう!」とすごまれている。そして、坂井たちが引き上げたあと、次の台詞になる。

「あれらにゃやりたいようにやらせときゃええ。若いもんには智恵いうもんがないけん、喧嘩してどっちも消耗するだけよ。その時になりゃ、わしがただの神輿じゃないいうことにがよう分かる......」
笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

 これは昔の自民党の長老たちを思わせる。今だと、この役回りは誰なんだろう。鳩山さんもこのあたりの気持ちなんだろうか。あるいは、菅さん?「神輿じゃないぞ」と。いずれにせよ民主党の1年生議員、参院自民党の若手がどれだけ動きまわっても両党の老獪な長老たちは、こんな感覚で見ているのだろうか。
 ともあれ、「仁義なき戦い」ほど、日本の組織社会の生理を的確に表現した映画はない。シナリオだけ読んでも、これは社会学の教科書のようで、一つ一つの言葉が的確。でも、『笠原和夫シナリオ集--仁義なき戦い四部作』は絶版みたいだな。残念。これ、古本でも手に入れる価値があります。

笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

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