!!!/Myth Takes(2007年1月24日発売/Beat Records)

yuzurusato2007-02-23


ケヴィン・ホーインマンが描いたジャケットからもイメージできるように、前作よりもサイケデリックな感触が強くなった!!!の最新作です。!!!とOut Hudのどっちが好きかと言われると、ダブ色の強いOut Hudがこの前までは好きだったりしたのですが、この作品で並んだという感じがします。音飛ばしまくりでぶっ飛びまくりの1枚です。

前作はディスコ通いまくったっていう部分も影響してか、かなりビートを重視していて、しかもそのビートがかなり強いせいか、なぜかマッチョなセックスを強要する男、みたいな印象があった訳です。んが、今作ではなんだか相手の呼吸に合わせながら巧みに身体を動かしているような感じがします。ビートも生っぽい要素が増えて軽やかになったせいかもしれませんが、曲の押し引きがくっきりとかなり絶妙。“Sweet Light”のようなメロディアスでブレイクのカタルシスの強い曲や長尺の“Bend Over Beethven”はまさにそうした彼らの成長を物語っています。

それにしてもフリーキー。レッチリとやるのもなんだか納得です。今じゃアレだけど、レッチリも若い当時は相当ヘンテコなバンドだったんですよね、ホントに。そのヘンテコな部分を我々が忘れてはいけないと感じる今日この頃。!!!のイマジネーションの世界が曲に乗り移った稀代のサイケデリック・イタコ・ブルース“Infinifold”を聴きながら、この人たちのおかしなところも情熱的なところも全て愛して踊りたいと思いました。

Ana/Extra EP(2007年2月21日発売/Compactsounds)

yuzurusato2007-02-22


福岡出身の3ピースバンドで、普通なはずなのにそこはかとなく気持ち悪さの漂うルックスがやけに印象的なAnaのシングル“Extra”のアナログカットです。CDでもリミックスは“Deep Imagination Hardfloor's Aciddub”以外は収録されているので、アナログ派じゃない方はCDでも多分OK。

スチャや電気、コーネリアスの影響を受けていることもあってネオ渋谷系と称されているらしく(果たしてこの御三方が渋谷系なのかと言われると甚だ疑問でありますが)、渋谷系が余り好きでない、というかお洒落系嫌い、むしろ積極的に避けたい人間としてはちょっと困った感じだったのですが、Force Of Natureのリミックスが気になって気になってしょうがなく、えいやっと聴きましたらばその音圧にぶっ飛ばされました。ええ、メランコリックなメロディの具合といい、これは新たなる“ワールドエンドスーパノヴァ”ではないかと。

ヴォーカルの所在無さげで不安定な声がビッキビキのFONの音圧といい具合のコントラストを描いていてそれが最高。『III』以降で確立したFONのコズミックな世界観を狂気の領域までぶっ飛ばしてくれたのは間違いなく音圧の飛躍的な向上があったからなわけで、その音圧がもたらす説得力がそのままAnaの持っている“今夜はブギーバック”的な世界観の底を支え、フロア中を埋め尽くしてくれるわけです。

HardfloorもTakizawa Kentaroのリミックスもいいですが、その飛び抜けた音の強靭さが際立つForce Of NAtureの今の調子のよさはちょっと凄すぎ。mule musiqから出ているアナログもリミックス含めてはずれなし。今のFONの音源は全て要チェックでございます。Anaもソングライティングの才能が際立っているので今後注目です。

Amandine/This Is Where Our Hearts Collide(2005年11月14日発売/Fat Cat Records)

yuzurusato2007-01-06


あけましておめでとうございます。今年もマイペース更新ですが、どうかひとつよろしくお願いいたします。さらっと面白いことがやりたいなと考える今日この頃です。

という訳で新年一発目は、この年始年末で聴いていた豊穣としかいいようのないグッド・ミュージックを奏でるAmandineの2005年の名盤をご紹介。2001年に結成されたスウェーデンのバンドでメンバーはOlof Gidl?f(Vo/Gt/Banjo/Mandolin/Trumpet)、Andreas Hedstr?m(Ba/ Vo/Theremin)、John Andersson(Pi/Accordion)、Andreas Bergquist(Dr)の4人。アルバムは名門インディ・レーベル、Fat Catからのリリースになります。

サウンドですが、ジャケットが示す通り瑞々しさと枯れの実に素晴らしい融合。絶妙の水墨画サウンドニール・ヤングザ・バンドニック・ドレイクを神様と崇めている筆者にとってまさに理想的な音です。温かいのにひんやりとした叙情的なメロディとアコーディオンバンジョーが柔らかく響く豊かすぎるアンサンブル。北国ならではのおおらかで荒涼としたトーン。中でも適度にザラつくギターの音色と時間の流れを操るタメの効いたリズムには身震い。儚さを感じさせるヴォーカルと絡み合い悠久の世界へと連れていってくれます。

クリアなアコースティック・チューンだけではなく、様々な楽器が溶け合うバンド・サウンドというのもいい。再びイケイケ状態になっているロックやダンスを聴いてやや疲れている時にこれが実に染みます。ニック・ドレイク直系のオープニング“For All The Marbles”。ガース先生を彷彿とさせる味わい深いピアノが素晴らしい“Halo”。特に悲しみのメロディがストリングスと共に洪水のように溢れかえる“Firefly”から力強い旋律がゆったりとしたリズムと共に確かな前進を見せる“Sway”への流れは圧巻。お前ら幾つだ?と問い正したくなるほどの空気作りの達人ぷり。味わい深いにもほどがある一枚です。最高だ。座ってぐでんぐでんになるまで酒飲みながらライヴ観たい。

Home Video/No Certain Night Or Mornig(2006年10月3日発売/Defend Music)

yuzurusato2006-12-19


ニューオリンズ出身であり、現在はニューヨークを拠点として活動しているデイヴィッド・グロスとコリン・ラフィーノによるエレクトロ・デュオ、ホーム・ビデオのデビュー・アルバムです。以前はWarpに所属し、シングルをリリースしていたこともあって記憶に残っている方も多いかもしれません。で、これが本当に本当に実に実に素晴らしいデビュー・アルバム。ちなみにスパルディング・ロックウェルやA.R.E.ウェポンズなどをリリースするDefend Musicからになります。

Warp時代よりもすっきりとポップに仕上がったサウンドは大雑多にいってしまうとトム・ヨークやインターポールあたりを思わせるアンニュイなヴォーカルに、ニュー・オーダームームあたりのギター・サウンドを活かしたラフなタッチで繊細さを表現したメロウでエレクトロニックなトラックを掛け合わせたような感じ。レモン・ジェリーロイクソップよりももう少しバンド感を活かした仕上がりになっています。で、いちいちどの曲もメロディが素晴らしい。トム・ヨークのソロ・アルバムに質感がとても近いですが、敢えてメロディを抑制/解体している節もある(これはレディオヘッドでもそう)トム・ヨークよりも歌えるアンニュイなメロディという点ではこのホーム・ビデオの方が素晴らしいと感じます。

ブレイク前のタメと繊細なシンセの味付けが心地よくドライブしていく“Sleep Sweet”。バタバタしたリズムと広がるようなエフェクトを施したヴォーカルが暗い水面を波立たせていくような“Penguin”。チープなエレクトロビートと飛び音の中でバーナード・サムナーのギターを思わせる薄いギターがさざめく“Superluminal”。端正なダンス・トラックを物憂げなヴォーカルが絡み合う“That You Might”。軽めのブレイクビーツになだらかなシンセとヴォーカルがリラックスしたムードを醸し出す“Gas Tank”。レディオヘッド“Where I End And You Begin”“Sit Down, Stand Up”を思わせる攻撃的なエレクトロ“Confession Of A Time Traveler”。“Idioteque”をまったりとしたエレクトロへとアレンジしたような“Pidpunk”。コンパクトにまとまったトラックによる全10曲(隠しトラックあり)。助長になりがちな最近のアルバムとは異なり短めな構成ながら飽きのこない絶妙の温度感と練られた楽曲は素晴らしい余韻を残しながら、アルバムのプレイボタンを再び押すようにしむけてくれます。個人的な考えですが、CDの容量限界まで収録するアルバムってサービス精神旺盛なようで実は全然リスナーフレンドリーではないと思うのですがいかがでしょうか。

話が逸れた。今年はボーダーレスな感覚を持ったアーティストのもはやジャンル分けすら難しいようなアルバムがいっぱい出てまして、そうした作品に魅せられていました。その中で、自分の判定基準というかぶっとい軸になっているのはやはり歌心(ヴォーカルじゃなくてもいい)というところにあったことを再確認した次第。その好例として本作は今年の作品の中では輝きまくっています。夜にこのまったりひんやりしたトーンのアルバムを聴いていると、実に心地よく仕事がはかどるのですよ。

Hot Chip/Coming On Strong(2004年5月17日発売/moshi moshi records)

yuzurusato2006-12-08

“Boy From School”のエロル・アルカンのリミックスや“Over And Over”がテクノ、ハウス、エレクトロ問わず色んなDJからヘビー・ローテーションされるなど、今年リリースされたセカンド・アルバム『The Warning』が好調なディスコ・エレクトロ・バンド、ホットチップ。セカンド・アルバムもそのうち紹介いたしますが、今回はファースト・アルバムの『Coming On Strong』を。

レイヴ・ハードコアまで飛び出し、ダンサブルな要素が強くなったセカンドに比べ、ファースト・アルバムはよりソウルフルでムーディ・アンダートーンな仕上がりになっています。ブラックではなくホワイトなソウル。しかも負け犬的な雰囲気がかなり強く、それだけで私は胸がときめいてしまいます。

バンドのヴォーカルで中心人物であるアレクシアは筋金入りのプリンス好きで、その影響のせいか、ねじれたポップセンスが効いたソウル・チューンが『Coming On Strong』には多数収録されています。酔っぱらったようなリズムとため息のようなアレクシアのヴォーカルが“Take Care”。端正なコーラスワークとコミカルな音色なのに静謐な雰囲気を醸し出すバンジョーの組み合わせが面白い“The Beach Party”。“Take Care”よりさらにため息度が増した“Playboy”。乾いた打ち込みリズムとブルーアイドソウル直系の哀愁溢れるメロディが心地よい“Crap Kraft Dinner”。アルバムの中でも温かなバイブレーションが印象的な“Bad Luck”。2ステップっぽいリズムが四つ打ちに雪崩れ込んでいくアップリフティングな“You Ride, We Ride, In My Ride”。イールズあたりとも共振しそうな、暗く温かな“Shining Escalade”や温かな希望に満ちた“Baby Said”。ストリーツあたりと共振しそうなソリッドなリズムが印象的な“A-B-C”(2005年にリリースされたAstralwerk盤に収録)。チャカポコしたリズムが高めのテンションでドライブする“Hittin Skittles”(Astralwerk盤に収録)。そして、バッドリー・ドローン・ボーイのリミックスでも見せた温かく柔らかく天使のような神々しいアンサンブルが心地よい“From Drummer To Driver”(Astralwerk盤に収録)でアルバムは幕を閉じます。全編に渡ってアレクシアの美しく色気はあるが辛気臭いヴォーカルと、隙間を活かしたシンプルなトラックの美しくねじれた融合という初期ホットチップの黄金律が本作では堪能できます。

アー写を見て頂けると分かるのですが、まさにウィーザーの系譜を感じさせるナードな佇まい(アレクシアのルックスはリヴァース・クオモにそっくりだと思うのですがいかがでしょう?)の彼らのアルバムからは、「うだつの上がらない青年たちの冴えない日常」がとてもダメダメに美しくソウルフルに描かれており、同様にひねりが効きつつもアッパーにはじけたセカンドからは得ることのできない大事な負け犬感がハートを遠慮がちに鷲掴みにするのであります。それは『Weezer』から非常にぶっちゃけてしまった『Pinkerton』に移行するときに失ってしまったものと同じなんじゃないかなと思うんです。

キャッチーで分かり易くなったセカンドよりも玄人好みのするファーストですが、このアルバム、真夜中に聴いたりするとエラく染みます。もう冬ですが、これも秋の夜長にぴったりと言えるアンニュイな名作と言えるでしょう。物思いに耽りたいダメ人間のサウンドトラック。是非お試しあれ。

Timmy Regisford/Nyc Club Shelter(2006年11月15日発売/ポニーキャニオン)

yuzurusato2006-12-06


さて、NYハウス・シーンのレジェンド、ティミー・レジスフォードのニュー・ミックスの登場です。ティミーがレジデントを務めるパーティ「シェルター」15周年を記念してのミックスCDで日本独自の企画盤だそうです。最近はテクノ面白いなあウワハハハとそっちの方ばっかり聴いていたせいか、なんだかハウスのミックスを聴くのは久しぶりな気がします(実際は聴いているはずなんですが、それでもテクノの色合いの濃いエレクトロハウスが多い訳で)。

あくまで個人的な好みなんですが、こういうオーソドックスなハウス・ミュージックのミックススタイルはコップにゆっくりと水を溜めるようなミックスが好きです。緊張感と解放感をジワジワと溜めていきながら表面張力を超えてラストに水がこぼれるわ溢れ返るわもう大変みたいな歓喜をくれる。クラブで言えば朝方のご褒美タイムですね。そこまでにいかに飽きさせないでタメを作るかっていうところにハウスの醍醐味があるんじゃないかなと。

で、ティミーのこのアルバム。序盤のバー・サンバ“Morris”のセクシャルな歌声で先制パンチをしつつ、まさに先ほど申し上げたようなジワジワ、時に大きくなりそうなうねりを予感させつつ、そうはならずにやっぱりジワジワ。焦らし方が非常に巧みです。そして溜めに溜めたバイブレーションはラストのクエンティン・ハリス“Let’s Be Young”のめくるめくストリングスの竜巻で豪快に盛り上がり、同アーティストの“Haunted”でフィニッシュ。ウワ音もビートっもなんとも言えない雰囲気を纏っていて、酔いしれるという言葉がぴったり。当たり前ですが、DJによってなんでこうも曲の雰囲気が違うんですかねえ。オーソドックスなミックスだからこそ際立つ濃密な空気。DJってホント不思議です。

それと、ミックス中にズレとかが見られるのでライヴ・ミックスだと思うんですが,個人的にはこうしたその場の繋ぎの方がミックスの緊張感があって好きです。最近のミックスCDではLiveとかを使ってズレなく繋げてしまう作品も多いんですが、よっぽどのアイデアがない限り、それでやられてもつまらないんですよね。DJミックスも生もの。当たり前ですが、そのよさがしっかり伝わってくる1枚です。あ〜、クラブ行きたくなってきたあ!

The Futureheads/Hounds Of Love(2005年4月5日発売/Weaner Music International)

yuzurusato2006-11-16


2006年に取り上げるべき音楽がいっぱいあるというに己はなんで今2005年の曲を取り上げているのだしかもシングルをとお思いの方もいらっしゃるとは思うのですがそこをぐっとこらえていただき筆者は書かせていただきたいのです。

さて、リリー・アレン嬢の“LDN”同様ここでも取り上げるのはリミキサーです。ロンドンをベースに活動しているDJ/プロデューサーのポール・エプウォースことフォンズ(Phones)について。上のフューチャーヘッズのリミックスは現時点でフォンズのベストリミックスと思いましてご登場いただいた次第です。

2004年リリースのブロック・パーティ“Banquet”あたりから彼は様々なロック・バンドやエレクトロ系のアーティストたちのリミックスを手掛けるようになります。デス・フロム・アバヴ1979やエレクトロ歌姫のアニー、ザ・キルズ、ニュー・オーダー、ジ・アザーズ、ゴールドフラップ、最近ではミューズなんかも。彼のHPに行くとベイビーシャンプルズにもリンクが張られていて、どんな仕事やってどこまで関わっているんだと思わず問い正したくもなります。

彼の仕事の特徴を上げるとするならば、エレクトロを軸とし、カットアップなどを非常に上手く組み合わせた非常にソリッドなサウンドが上げられます。特に素晴らしいのがビートに対する感覚で、なんちうかエラくタイトでピンポン玉のように跳ね、すんごい前のめり感満載でぶっ飛んでいく鉄砲玉みたいなアグレッシヴなグルーヴなんです。で、そんな個性的なビートマナーを駆使して思わず踊り狂いたくなるようなリミックスに仕上げてくれちゃうわけですね。

フューチャーヘッズの“Hounds Of Love”ではそうしたフォンズ独特のビートにフューチャリスティックなシンセとカットアップとエコーを絶妙の位置で効かせたメロディックなウワものを組み合わせるという非常にケダモノ的なピークタイムチューンに仕上がっています。バンドの熱っぽい叫びがまた実にいい感じに衝動煽ってくれちゃいます。ニュー・オーダーの“Krafty”もこの系譜のリミックス。是非お試しください。

さて、なんでこのタイミングでフォンズを取り上げたかっちゅうと、書きたかったってだけではなく、実はパリジャン・パンク・エレクトロの2人組、ブラック・ストロボの新曲がこのフォンズとタッグを組んだ作品になっているからなんです。タイトルは“Shining Bright Star”で「Phons Industrial Vesion」として彼らのリミックスワーク集『A Remix Selection』に新曲として収録されます。で、これがフォンズの才能をさらに花開かせたさせたような作品。原曲にデペッシュ・モードナイン・インチ・ネイルズを足したようなメロディックでゴシックでインダストリアルなアレンジに仕上げ、ブラック・ストロボのMyspaceで聴くことのできる原曲を遥かに上回る素晴らしいロックなプロダクションを見せているのです。この曲への参加でフォンズ、一気にブレイクし、新たに爆発しつつあるロック×ダンスの重要プロデューサーになりそうな気がいたします。ということでダンス・ファンだけでなくロック・ファンの方にも是非要チェックしていただきたいフォンズなのです。<追記>
そんなことを書いてたらKitsuneから遂にフォンズ名儀でのオリジナル曲『Sharpen The Knives / Worryin’』がリリースされるアナウンスが出まして、これがあっさり過去最高の作品になりそうな感じ。ものすごいディストーション・ディスコです。こちらも要チェック。