毒血の壺:江見水蔭 1918年(大7)樋口隆文館刊、前後終全3篇。 明治大正の頃、結核は不治の病として、現代のガンと同等以上に人々に恐れられていた。効果的な治療法もまだ確立されておらず、滋養豊富な食事と転地療養ぐらいしか考えられなかった。人によっては牛の生血を飲むことが体力をつける手段と考えられていた。 この小説の冒頭では、東京の品川大崎地区に当時設けられていた屠牛場(食肉処理場)に毎朝通って、そこで供される生血を飲む人々の中に、若い男女と一人の老人の奇妙な三人組の出会いから語られる。三人とも胸を患っているが、偶然にも共通する二組の金満家たちに恨みを抱き、自分が死ぬ前に復讐の鉄槌を加えたいと密…