【平家物語109 第4巻 鵺〈ぬえ〉①】 源三位入道頼政は、 摂津守頼光から五代目の子孫三河守頼綱の孫、 兵庫頭《ひょうごのかみ》仲政の子である。 保元の合戦のとき朝廷側につきさきがけしたが別に恩賞はなく、 平治の乱においても親類などを捨てて合戦に力をつくしたが、 みるべき恩賞は与えられなかった。 大内守護として長年勤めていたが、 昇殿は許されなかったのである。年すでに老いた時、 一首の歌を詠んだ。 『人知れぬ大内山の山守は 木《こ》がくれてのみ月を見るかな』 この歌が目にとまり昇殿を許されたうえに、 正下四位を与えられたが、 頼政はさらに三位の位にのぞみをかけた。 『昇るべきたよりなき身は木…