宮沢賢治の『やまなし』は昭和46年(1971)版(『小学新国語六年上』)に掲載されて以来今日まで国語教材として使われてきた。国語教材の「てびき」の平成17年版と平成27年版に「なぜ,十二月にしか出てこない「やまなし」が題名になっているのだろう。理由を考えてみよう」とある。本稿では,その疑問に答えてみたい。 国語教材の「てびき」にある疑問を別の言葉に換えてみれば,第一章「五月」で谷川に「樺の花」が流れてくるのに,なぜ第二章「十二月」では別の木である「やまなし」の実を落ちてくるのであろうかということになる。童話『やまなし』は「うそ」と「ほんとう」が入り混じっているということはすでに述べた(石井,2…