本作はディックが生前に発表した最後の作品。死後出版された作品もいくつかあるけれど、時系列上最後に執筆した作品と目されていて実質的な遺作ということになっている。そして、いわゆるヴァリス三部作の最終作でもある。 ヴァリス系統の作品らしく、本作もディックの自伝的な要素が強い。訳者解説ではティムは実在の人物であるパイク主教、エンジェルは自分の娘やかつてのガールフレンドたち神秘体験中のAIの声がモデルであると説明されている。それはその通りなのだろうけれど、個人的にはティムとエンジェルはどちらもディック本人の似姿なんじゃないかと思っている*1。 エンジェルはディックの現実的な一面で、ティムはディックの空想…