怪談 ~バス~ 低い呻き声とともに寝ていたベッドから跳び起きた健次は深い呼吸を繰り返していた。全身にまとわりつく湿り気が不快で、着古したTシャツが肌に貼り付く感触に思わず顔を顰める。また、あの夢だ。バスが横転し、動けない体で意識が薄れていくあの悪夢。一体何度、この悪夢に苛まれただろうか。健次はこれまで、バスどころか車での事故にさえ遭遇したことはなかった。にもかかわらず、なぜこれほどまでに生々しい夢を見るのか。もしや、これが予知夢というものなのだろうか。だとすれば、健次には未来で事故に巻き込まれる運命が待ち受けているということになる。そんな未来など、真っ平御免だった。もし夢の通りに事故に遭うとい…