夢遊病者が殺人事件を起こした場合、罪の所在は那辺にありや? 単純かつ剄烈に、彼を殺人者として裁いてよいのか? 江戸時代初期、四代将軍徳川家綱の治世に於いて、この難題を突き付けられた者がいた。 京都所司代、牧野親成その人である。寛延二年に刊行された説話集、『新著聞集』十七篇にその旨克明に記されている。 (Wikipediaより、牧野親成) 現場は西谷なる小字、加害者は、さる代官の手代某。 悪夢に魘され、はっと我に返ってみれば、既に掌中、血刀が握られていたという。 (えっ) 心臓が凍った。 (まだ悪夢の続きにいるのか) 狼狽のあまり、そんなことまで考えた。 そうであったら、どれほどよかったことだろ…