パトリス・ルコント監督作。ミシェル・ブラン(昨年亡くなつた)、『冬の日』、『悪魔の陽の下に』のサンドリーヌ・ボネールが出演、最優秀助演賞にブラームスのピアノ四重奏曲第1番第4楽章と、在りし日のパリ北駅。 何度でも言ふ。これはフランス一流の心理小説の系譜に連なる、「フランス映画」の傑作である。アメリカ映画には、かかる繊細さは表現できまい。本作を「気持ちが悪い」の一言で片付ける奴輩は、御倖せな境遇に生活する、苦しむ人間に一顧眄すら与へない、非人道的な功利主義者に違ひない。 本作は、孤独な男の心理を、比肩のない精緻さを以て描破する。ムシュー・イールは、アルベール・カミュが描ゐたやうな『異邦人(L'É…