水鶏《くいな》が近くで鳴くのを聞いて、 水鶏だに 驚かさずば いかにして 荒れたる宿に 月を入れまし なつかしい調子で言うともなくこう言う女が 感じよく源氏に思われた。 どの人にも自身を惹《ひ》く力のあるのを知って 源氏は苦しかった。 「おしなべて たたく水鶏に 驚かば うはの空なる 月もこそ入れ 私は安心していられない」 とは言っていたが、 それは言葉の戯れであって、 源氏は貞淑な花散里を信じ切っている。 何に動揺することもなく長く留守《るす》の間を 静かに待っていてくれた人を、 源氏はおろそかには思っていなかった。 当分悲しくならないがために空はながめないで暮らすようにと、 行く前に源氏が…