【平家物語23 第2巻 座主流し①〈ざすながし〉】 治承元年五月五日、叡山の座主、明雲《めいうん》大僧正は、 宮中の出入りを差しとめられた。 同時に、天皇平安の祈りを捧げるために預っていた、 如意輪観音《にょいりんかんのん》の本尊も取上げられた。 更に検非違使庁《けびいしのちょう》を通じて、 神輿を振り上げて、 都へ押し寄せた張本人を摘発せよという命令もきていた。 こうした、矢次ぎ早の朝廷の強硬策は、 先の京の大火事に原因と理由があったろうが、 もう一つには、とかく、法皇の信任厚い西光《さいこう》法師が、 あることないこと、山門の不利になることばかりを、 後白河法皇に告げ口したためであった。 …