月がないころであったから燈籠《とうろう》に灯《ひ》がともされた。 「灯が近すぎて暑苦しい、これよりは篝《かがり》がよい」 と言って、 「篝を一つこの庭で焚《た》くように」 と源氏は命じた。 よい和琴《わごん》がそこに出ているのを見つけて、引き寄せて、 鳴らしてみると律の調子に合わせてあった。 よい音もする琴であったから少し源氏は弾《ひ》いて、 「こんなほうのことには趣味を持っていられないのかと、 失礼な推測をしてましたよ。 秋の涼しい月夜などに、 虫の声に合わせるほどの気持ちでこれの弾かれるのははなやかでいいものです。 これはもったいらしく弾く性質の楽器ではないのですが、 不思議な楽器で、すべ…