重盛は、烏帽子に直衣《なおし》という平服姿で、 さらさらと衣ずれの音をさせながら、 終始、落着き払って、清盛の座所にやってきた。 重盛の到着を聞いた時から、 「あいつのことだから、又じゃらじゃらした平服姿で、 わざとやってくるぞ、少しは意見してやらねば」 と思っていた清盛だったが、わが子とはいえ、 一目《いちもく》おいている上に、 その礼儀正しさと、慈悲深さは定評のある男であり、 会ったとたんに清盛は、 自分の格好が恥ずかしくなってきた。 急いで障子を立てると、 彼は、慌てて腹巻の上から法衣をひっかけたが、 胸板の金物が、ともすると着物の合せ目から見えるのを、 無理にひっぱって、しきりに衿《え…