井上光晴作品をすべて読破してやろうと、企てた齢ごろがあった。挫折・棚上げのままに了ったけれども。 年齢で申せば、吉行淳之介・安部公房・吉本隆明より二歳下で、三島由紀夫より一歳下だが、井上光晴の作風も題材も、より上の世代のいわゆる「第一次戦後文学」作家たちと共通点が多い。いわば最終戦後派文学作家だ。 炭鉱労働者問題、被差別地区問題、原爆被災者問題、在日朝鮮人問題などに着目して、劣悪な環境下で苦悩する底辺群像を次つぎ描き出した。資質的には長篇作家で、生涯の仕事量も厖大だ。 早熟な独学少年だった井上は、大学の文学部で学んだタイプとはおよそかけ離れた、労働現場から叩き上げて、のし上った作家だ。日本共産…