堀川惠子の『暁の宇品』が大佛次郎賞に決まった。「暁の」でピンとくる人はそう多くないはずだ。私がこの言葉を耳にしたのは札幌である。ベーコン研究で著名だった花田圭介先生とのサロン・デ・フローラ(無名哲学者俱楽部)でのよもやま話であったと記憶する。「君も広島生まれなら宇品は知ってるだろう。私はそこの暁部隊にいてね、原爆に遭ったんだよ。」暁部隊が陸軍の海上輸送部隊で海軍の呉と並び立っていた(はずだった)んだとも聞かされたが、戦争末期瀬戸内海は機雷の海で、大発やボロ船で朝鮮半島との間を行き来したのだそうだ。運良く生き延びながらも8月6日を比治山下の兵舎で迎えた。先日亡くなられた坪井直さんが写真にうつった…