【私本太平記 藤夜叉①〈ふじやしゃ〉】 ——夜《よ》は夜《よる》を新たにして。 と昼間、道誉が言った。 いかにもばさらないい方で彼らしい言と思われたが、 約束のごとくその晩、 城内の的場から武者廂までを容れた俄舞台と桟敷で、 新座の花夜叉一座の、田楽見物が行われた。 もちろん、高氏を主賓に。 そしてその晩は、家中一同にも陪観をゆるされ、 人影は桟敷の外まであふれたが、 とりわけ、道誉のそばには、 盛装した一と群れの女房たちが華やいで 芝居篝《しばいかがり》に照り映えていた。 また、高氏の後ろにも、数名の女性が侍《かしず》いている。 が、それは、道誉の侍女たちか、遊女の種類なのか、 高氏には判じ…