訓読 >>> 886うち日さす 宮へ上ると たらちしや 母が手離れ 常(つね)知らぬ 国の奥処(おくか)を 百重山(ももへやま) 越えて過ぎ行き 何時(いつ)しかも 京師(みやこ)を見むと 思ひつつ 語らひ居れど 己(おの)が身し 労(いたは)しければ 玉桙(たまほこ)の 道の隈廻(くまみ)に 草手折り 柴取り敷きて 床じもの うち臥(こ)い伏して 思ひつつ 嘆き臥(ふ)せらく 国に在らば 父とり見まし 家に在らば 母とり見まし 世間(よのなか)は かくのみならし 犬(いぬ)じもの 道に臥(ふ)してや 命過ぎなむ 887たらちしの母が目見ずておほほしく何方(いづち)向きてか吾(あ)が別るらむ …