数年前に読んだ本書を今回再読してみたが、残念ながらやはり論述の速さについてゆけない箇所がいくつか残った。著者の工藤氏は多数の引用を行うが、集められた資料は、時に狭い意味での風俗の事例として使われている。 結論部分でも、著者工藤氏は女性と性的倒錯が支配的だった暗いフランスの十九世紀末の風俗を描くプルーストは「傍観者として一生をおわってしまったように見える」が、一方コレットのほうは二十世紀の新しいタイプの女性の風俗を描いた、と大胆にまとめている。私には短い結論部分をそのように読んだ。 しかし、はたしてそうだろうか。気になった主な点を本書の冒頭からいくつか拾い出してみよう。 「芸術家小説」という主要…