人気時代劇「必殺シリーズ」第22弾。豪華な配役と派手な殺しショーが話題となった作品である。
1984年(昭和59年)8月31日より12月28日まで全18回にわたって放送された。
仕事人シリーズで人気を博したキャラクター・三味線屋勇次をスピンオフさせ、『必殺仕舞人』で活躍した京マチ子、高橋悦史、西崎みどりをキャスティング。更に、『必殺からくり人』シリーズでお馴染みの常連・芦屋雁之助、『太陽にほえろ!』の小野寺昭、ジャニーズの若手・山本陽一など、シリーズ屈指の豪華メンバーが起用された。
当時、必殺シリーズのプロデューサーであった山内久司(朝日放送)は、世間が必殺ブームに沸き返る中「これからは主水と勇次の二枚看板で行きます」と今後の必殺シリーズの方向性を明確にし、事実必殺シリーズ歴代作品において最高視聴率も記録したが、終わってみれば時代性無視、話題性重視で中身の無い作品として、シリーズのファンからは酷評されることが多い。
特に、物語の根幹となる時代設定が破綻。第1話、第2話は作品の設定固めとして手堅い作劇がなされているが、第3話で江戸にピラミッドが出現し、第4話で狼男が出現、第5話では鳥人間コンテストが開催されるなど、『必殺仕事人IV』で顕著になりはじめた現代社会へのストレートな関連付けがピークを迎えたことにより、古参のファンの間からは見放される形となった。
また、出演者も揃わないことが多く、第6話で高橋悦史が降板。また、主演の京マチ子も出演しない期間があるなど、足並みが揃わない作品でもあった。
しかしながらトリの殺しは大変豪華で、中でも芦屋雁之助演じる勘平の殺しも途中で変更し、当時大流行であったプロレスを取り入れるなど、話題性に長けた演出が人気を呼んだ。
バラエティー色が強く、本格的な時代劇を期待すると拍子抜けをするかもしれないが、華麗な殺しショーとして割り切った楽しみ方が出来る作品とも言える。
花が咲いても 人は泣き
その泣き声は蝉時雨
月は晴れても 心は闇で
逃げてさ迷う 雪の中
一年三百六十五日
鴉の鳴かぬ 日はあれど
悪人笑わぬ 日とてない
恨みを断ち切る 仕切人
浮世の気晴らし なすってくだせえ
(作:山内久司/語り:市川段四郎)
大奥中臈頭・お国(京マチ子)と、それに仕える女中・お清(西崎みどり)は、大奥の醜い権力闘争に巻き込まれ、対立関係にあった歌橋(谷口香)によって罠に嵌められ大奥を追放の身となってしまう。
市井の暮らしなど全く分からず、また無一文で大奥を追放された二人の姿を見て哀れと思った御広敷御用人・虎田龍之介(高橋悦史)は施しを与えるのであった。
大奥の権力を一手に握ることとなった歌橋は、自らの権力を維持するため、将軍と関係を結び赤子を宿した女中たちを斬殺していく。
将軍のお種を宿した女中のうち、お袖(井上ユカリ)だけは身の危険を感じ、お宿下がりとして生家である井筒屋へと身を隠した。城外で始末ができないことを歯痒く感じた歌橋は、金を殺しを請け負う仕切人の存在を知り、お袖殺しを命じるのであった。
中村主水と別れ一匹狼となった勇次(中条きよし)は、今では殺し屋稼業から足を洗っていた。そんなある日、仕切人の元締・鬼アザミ(菅貫太郎)から呼び出しを受ける。大きな仕事を引き受けたために、助っ人を欲していた鬼アザミは勇次をスカウト。鬼アザミが受けた仕事というのは、実は歌橋からの依頼であるのだが、依頼の筋を知らされない勇次は、渋々依頼を引き受けるのであった。
大奥を追放されたお国とお清は、長屋に住むこととなる。庶民の暮らしなど全く分からない二人に、同じ長屋の住人であるお勝(ひし美ゆり子)と勘平(芦屋雁之助)は優しく接するのであった。
易者として第二のスタートを切ったお国であったが、庶民の暮らしには慣れないことばかり。そんな中、お宿下がりとして市中に逃げだしたお袖と出会ったお国は、歌橋の卑劣な行為を耳にする。そして、仇を討ちたいと願うお袖は、金で恨みを晴らす仕切人を探しているのだ。その事について相談しようと虎田龍之介を訪ねるのだが、大奥での変死事件を調べたことにより歌橋の機嫌を損ね、御役御免となり、武士を捨てた後であった……。
お袖とお国がコンタクトを取っていたことを知った鬼アザミは、早速お国を殺すため、仕立て屋の新吉(小野寺昭)に命じて勇次を動かし、二人でお国を始末しようとするが、お国のあどけない純粋な言葉に、二人は仕掛けることが出来なかった。
一方、鬼アザミたちは井筒屋を強襲。一家を斬殺する。お国が駆けつけたときには、お袖は虫の息であり、お国に恨みを晴らすように伝言。お国は何とかお袖の恨みを晴らしたいと殺害現場の野次馬だった勘平に仕切人のことを尋ねるのだが、勘平は知らないようだった……。
長屋に帰ったお国は、ある男から国分寺の境内に呼び出される。龍之介からの使いだそうで、仕切人が見つかったと言うのだ。境内には龍之介がおり、お国は仕切人が見つかったことを確認するが、龍之介はお国に呼び出されたのだと言う。「なるほど……こりゃどうやら罠のようですな……」その予感は的中し、勇次と新吉が二人の前に現れる。
「仕切人……晴らせぬ恨みを晴らしてくれるのが仕切人ではないのですか?歌橋様は心の歪んだお方です。そんな人に雇われて、罪も無いお袖さん一家をあんなに無残に殺す。それが仕切人というものですか!?」
お国の訴えに、勇次と新吉は手が出ない。手をこまねいている二人を見て業を煮やした鬼アザミは、反発する勇次と新吉に襲い掛かるが、返り討ちに遭う。遂には短筒まで取り出した鬼アザミであったが、隙を突いて現れた勘平によって仕置される。実は勘平は、ベテランの仕切人であったのだ。
手を引いて欲しいと頼む勘平であったが、仕切人の掟によりお国と龍之介を消そうとする勇次と新吉。しかし、歌橋がどうしても許せないお国と龍之介は、一日だけ待って欲しいと懇願する。歌橋一味を始末する、その一日が欲しいのだ。お国は勇次たちに、仕事にして欲しいと依頼する。一度は断る勇次と新吉であったが、お国たちは自分たちも仕切人になると言うとんでもない条件を提示。その覚悟を見届けた勇次たちは、お国たちと共に歌橋一味を仕掛けるべく、肥汲船で大奥への潜入を試みる。
そして歌橋を前にしてお国は言う。「お命……終わります」