『語りかける花』 志村ふくみ 著 ちくま文庫 国語の教科書に載っていた文というのは、なんとなく覚えているものである。 中学の国語の教科書に、桜の色を染める話に絡めたエッセイがあった。桜の色というと花びらを使って染めるように思いがちだが、実際は桜の樹皮を使うということで、そのことを伝え聞いた子供たちが、染色家を招いて、地元の桜の木の樹皮で染めてみたら、期待していたような美しい薄紅色には染まらなかったという内容だった。 著者は詩人の大岡信。『言葉の力』という題だった。 長い間、その染色家の名前を失念していたが、ある時、たまたま読んだ新聞記事に件の“上手く染められなかった”桜の色の逸話が出ていて、か…