西行花伝 (新潮文庫)作者:邦生, 辻新潮社Amazon 辻邦生という小説家がいる。私はこの人から文体について多くのことを学んだ。特に彼のルビ遊びはおそらく文学史上類を見ないものである。『西行花伝』では、森羅万象いきとしいけるもの、実在感たしかさのように読者に読ませる。愛かなしさ、という読み方も、私は彼から学んだ。この「かなしみ」について、詩人、批評家の若松英輔は次のように指摘している。 かつて日本人は、「かなし」を、「悲し」とだけでなく、「愛し」あるいは「美し」とすら書いて「かなし」と読んだ。悲しみにはいつも、愛いつくしむ心が生きていて、そこには美としか呼ぶことができない何かが宿っているとい…