短編小説で、慈しむように読者に語りかけ、読者もその小説を慈しむような詩情あるれたもの。川端康成によるものが特に有名。
小川洋子『人質の朗読会』 今日は読書の話題。最近読んだ本2冊の感想。 1冊目は小川洋子の『人質の朗読会』。小川洋子の作品を読むのは3冊目だ。以前ブログにも書いた『ことり』がたいへんよかったので、あえて少し間を置いて買ってみたのがこの本。十数年前に書かれた作品だ。 話はまず、海外で起きた日本人のツアー客の反政府ゲリラによる誘拐事件から始まる。ツアーに参加した8人は人質となるのだが、現地の軍とゲリラの銃撃戦のため、全員死亡してしまう。ショッキングな形で終わった事件だが、2年後になり、人質たちが収容されていた猟師小屋から録音テープが見つかり、彼ら彼女らが自ら書いた物語を朗読し合っていたことが分かる。…
掌の小説(新潮文庫) 作者:川端康成 新潮社 Amazon 『掌の小説 新版』川端康成著を読む。これまで作者の掌編小説をアンソロジーなどで読んできた。この本は、若い頃から晩年まで作者が書いた掌編小説を遍く収録したもの。全122編。 すぐ読めると思っていたら、これがなんと時間がかかった。浅い沼だと思って足を踏み入れたら、底なし沼だったような。 新感覚派と呼ばれる若手時代の前衛的な作品もよいが、円熟期のオーソドックスな作品もよい。でも、何か底辺には凄みや歪みを感じる。 素朴な疑問。掌編小説とショートショートは、どう違うのか。川端文学はマジックリアリズムの文学とみなしてよいのか。著者は少女小説も書い…
今日4月16日は、川端康成の命日です。 川端康成というと「雪国」「伊豆の踊り子」となりますが、 実はですね、 川端という、 作家はですね… 若い娘が老人と添い寝をする「眠れる美女」 男が女性の片腕と一夜を過ごす「片腕」 美しい女を見かけると後を追ってしまう男の幻想を描いた「みずうみ」など、 健全なる教科書にはふさわしくない、耽美で偏愛に満ちた世界も描く、妖しげな作家でもあるのです。 眠れる美女(新潮文庫) 作者:川端康成 新潮社 Amazon みずうみ(新潮文庫) 作者:川端康成 新潮社 Amazon そんな川端康成のなかでいちばん好きなのが、 『化粧の天使達・花』という、たった五行の掌編。 …
「人生は、数学的には言い尽くせないが、音楽的には言い尽くせる」 私が忘れられない言葉である。出典は、確か、森毅*1の著書の中にあった言葉だった。 ここ最近、余りにも感情的な文章を読む中で、私が失念していたことがあった。 それは、 「相手は文章を書く専門家ではない」 ことである。 丁寧に、書いてみる。 *1:敬称略・故人
「川端康成の「百合」(掌の小説)について 」 土岐, 栄里香 『高知大國文』17 33-43,1986-12。 CiNiiで読めました。初出は『文藝春秋』昭和二年五月号。初出時の題は、「百合の花」。ついでがあればコピーしてきます。 昭和二(一九二七)年発表ということは、「百合」にレズビアンの含みはないようです(一応調査)。
川端康成『掌の小説』(新潮文庫)収録の、2頁の小品です。 バトラーの『ジェンダー・トラブル』は読むたびに眠くなるので(つまり、関心が続かないのです)、関わり合いがなくもなさそうな「百合」の紹介から始めます。 一番好きな人とそっくりになりたくて仕方のない百合子。小学校の時は可哀想な梅子さんの真似をし、女学校の時は美しい松子さんの真似をします。 女学校を出て結婚すると、ご想像通り百合子は愛する夫の真似をするようになります。髪を切り、ひげを生やし、陸軍へ志願さえしようとします。夫はそのどれも許しません。百合子は苦しみ、神様を愛するようになります。そして神様の声を聞きます。 ※ 「汝百合の花となるべし…
その辺にあった本。いもやが出てくるので、つい誘惑に駆られて読みました。おおいもや、どうしてあなたはいもやなの? 古本食堂 新装開店 (角川春樹事務所) 作者:原田ひ香 角川春樹事務所 Amazon 画 大塚文香 装幀 名久井直子 角川書店でなくハルキ事務所なのですが、同様に例のハッカーたちに汚染されているらしく、事務所公式をはてなブログに貼ろうとするとすべて文字化けします。 www.kadokawaharuki.co.jp 前巻は未読。神保町に古書店を開業して軌道に載せた滋郎サン時代の話かと思いきや、続編と登場人物は変わらないようです。 古本食堂 古本食堂(単行本版) (角川春樹事務所) 作者…
原田ひ香さんの 「古本食堂 新装開店」 を読みました。 「古本食堂」の続編です。 第1話 森瑤子『イヤリング』と川端康成『掌の小説』と日本で一番古いお弁当やさん 第2話 侯孝賢監督『珈琲時光』と「天ぷらいもや」 第3話 『カドカワフィルムストーリー Wの悲劇』と豊前うどん 第4話 昭和五十六年の「暮しの手帖」と「メナムのほとり」 第5話 伊丹十三『「お葬式」日記』『「マルサの女」日記』と「なかや」の鰻 最終話 「京都『木津川』のおひるご飯」と中華料理店のカレー この6つの話の中で一番好きなのは 第4話。 中学生の頃に自分や友達・クラス全員分のお弁当が雑誌に載った事があった。 それを母親がふと思…
・「職業としての作家」 要約 第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み 小説を書くということは孤独な作業。自分の心に存在する混沌に巡り会うために意識の底に降りてゆき、そこから必要なものを取って日常生活の意識まで戻ってこなければならない。そのために必要なのは、①寡黙な集中力、②あるところまで堅固に制度化された意識。それらの基盤となるのはフィジカルの強さ。少なくとも小説書きに関する持続力を身につけるためにはフィジカルを鍛えるのが良い(有酸素運動を勧める)。とある研究では海馬のニューロンの生まれる数は有酸素運動を行うことによって飛躍的に増大する。そして、新たに生まれたニューロンも何もしなければ二十…
こんな仕事をしていながら、私には美しい日本語は書けません。 論理的な文章は書けても、「美しい日本語」は書けないのです。 だから、そうした日本語を操る作家の本を読むことが大好きです。 小中学生にはまだ早くても、いつかきちんと読ませたい。 今回はそう考える作家を何人か紹介したいと思います。 三島由紀夫 川端康成 小川洋子 中勘助 浅田次郎 宮部みゆき 谷崎潤一郎 夏目漱石 三島由紀夫 もう間違いなく、「美しい日本語」の使い手です。 代表作の一つ「金閣寺」の文章を見てみましょう。 夜空のように、金閣は暗黒時代の象徴として作られたのだった。そこで私の夢想の金閣は、その周囲に押し寄せている闇の背景を必要…
(8/2)ひとまず100点選書。第一弾の選書なので推薦本には頼らず。蔵書とアマゾンのブックリスト、これまでの読書経験と知識を駆使して、読みたい本を直感で選んだ。 今のところ順番はランダムだ。3500の選書リストが完成するまでには適切な分類法を見つけようと思う。その際、選書やリスト作成におけるルールも付記する(表紙画像は載せない、アマゾンや出版社ページへのリンクは貼らない等)。 (8/3)200点選書。 (8/4)300点選書。 (8/5)400点選書。そろそろ分類しないとね。日本十進分類法を参考にする予定。 (8/9)500点選書。 (8/10)600点選書。 (8/11)700点選書。 (8…
ショート・ショートといえば私にとっては星新一です。小学生か中学生の頃に初めて読んで、その短い物語の中の豊かなドラマに胸を踊らせて、ラストの鮮やかなどんでん返しや見事なオチに舌を巻いたものです。その後、川端康成の「掌の小説」に出会い、これもまたショート・ショートなんだろうけども、と、その濃密すぎる世界にクラクラで(笑)。こんなに短編なのに映画1本分ぐらいの濃さと深みよ、です。さてそして、ここ最近新たなショート・ショートに出会いました。 江戸川乱歩の作品を中心に配本されるシリーズを楽しく集めて時間を見ては少しずつ読むのを楽しみにしているんですが、中に、「夏の葬列」という背表紙を見つけました。山川方…
書痴と言うほど本を読んでいるわけではないけれど、私は分厚い本が大好きです。 一部界隈では鈍器本と呼ばれたり、レンガ本と呼ぶ人もいるような。私は早川書房さんの銀背は「レンガ本」と呼び親しんでいます。 鈍器と呼ぶのはハードカバーの分厚い本でしょうね、例えばアイン・ランドの本とかいま目についた本ではエドワード・ケアリーの「おちび」だと鈍器になりそう。 おちび 作者:エドワード・ケアリー 東京創元社 Amazon 600ページ未満の本なんですが(アマゾンのページ数の表記は間違っています。本文で588ページくらい9、上製本なので重さはしっかりある。 面白ければ薄かろうが厚かろうがべつにいいし、今どきはフ…
以前の記事で、「詩の読解はまず俳句から」と書きました。 peter-lws.hateblo.jp しかし、それだけではどうも不親切だったようです。 今回はさらに発展させた内容を書きたいと思います。 韻文読解の注意・・・フィーリングで解かない! 韻文の技法を知る 1.比喩 ①直喩 ②暗喩(隠喩) ③擬人法 2.倒置法 3.体言止め 4.対句 5.くりかえし 6.俳句の技法 季語 句切れ 韻文の読解法 韻文読解の注意・・・フィーリングで解かない! 韻文に限らず、どんな文章にも共通した注意です。 「なんとなくそう思った」 「〇〇っぽいイメージだと思った」 論説文・物語文では禁じている読解のやり方です…
小説を書き始めたものの、冒頭で筆が止まっている。1週間以上も原稿を放置したままである。書けない訳ではなく、書き続けることができないのが最大の問題だ。小説を書くことが私の中で習慣化されていないのだろう。日記やブログと同じように小説も毎日書き続けることが大切なのである。川端康成の『掌の小説』のように掌編を書いてみようかと思うが、あの形式に収めるのも技術が必要なので、四の五の言わず書き続けることが大切だ。 以後、毎日1時間、小説執筆の時間を課そう。3年間続ければ、私は本物のライターになっているはずである。
こんにちは。 pelicanです。 「くるり」の中でも特に好きな「春風」という曲の歌詞について自分の解釈を書いてみたいと思います。 この曲は「はっぴいえんど」の「風をあつめて」に似ている(オマージュ?サンプリング?)と言われていますが、音楽の知識は全く無いので歌詞のみに注目していきます。 まずは最初の歌詞から、、、 揺るがない幸せが、ただ欲しいのです 僕はあなたにそっと言います 言葉をひとつひとつ探して 花の名前をひとつ覚えてあなたに教えるんです ここからは少しづつ言葉の意味や背景について見ていきたいと思います。 「揺るがない幸せがただほしいのです」 最初にこの歌詞を持ってくることでこの歌の立…
12月の最初の土曜日と2月の最初の日曜日に、ZAZEN BOYSのライブへ行ってきた。広島と福岡。そのあいだの1月24日に、ZAZEN BOYS12年ぶりのフルアルバム『らんど』が発売された。 2023.12.2 Sat. LIVE VANQUISZAZEN BOYSをライブハウスで観るのは実に4年ぶりである。広島では、なんか良いことあったんかな、と思うくらい向井秀徳がご機嫌だったのと、ミックスかマスタリングの最中で、ボーカルを全部ボーカロイドにする、と言っていたような気がする。新曲も多めにやって、それを「夕暮れの感じと、ビート」とツイートしたけれど、いざ『らんど』が届き、通して聴いてみると、…
新宿で三本たてつづけに映画を観てどれも良かったという話。 「コット はじまりの夏」はいかにもアイルランド、という「毒親」がつくりだす行き場のなさ、どうしようもなさを効果的に作り出しているのだけれども、撮影がいいんだとおもう、三十五ミリのスタンダードのサイズで、端正に撮っている。「アンジェラの灰」とかのフランク・マコートをみても、アイルランドのダメ親父ってのは本当にダメなんだよな。やっぱり酒が旨いからか、なんなのか。「アクアマン」の続編はまあベッタベタのコテコテで、ついていけなくなる人もいるんだろうが、私はこれはこういうもんだと楽しむことにしているので(DC作品はあらかた視聴して追えている。この…