お題「初恋はいつ?」 昭和五十七年、高校の合唱部で、大きな舞台に立つ機会が巡ってきた。K先生が脚本・演出を手がけるミュージカル・ファンタジー『鐘』の公演である。 思春期の私にとって、この舞台はただの発表の場ではなかった。先生を振り向かせるチャンスでもあったのだ。 K先生は、バリトンの美しい声の持ち主だった。黒曜石のように輝く瞳、的確な指揮と音楽指導。そのすべてに心惹かれた。先生に少しでも気に入られたくて、頼まれれば声がかすれるまで歌い、ソプラノの援護にも精を出した。 そんな先生の演出は、独特だった。私のソロの場面では「決して振り向くな」という指示が出された。背後には妖精役の演者たちがいる。しか…