病室にはあらゆる匂いが混ざっていて、それがなんの匂いなのかわからない。消毒の匂いはもちろん、患者ごとに違う食事の匂い、患者の匂い、そして自分の匂い。マーブル模様のようなその香りは、きっと病院にずっといる人か、通ったことのある人にしかわからない。この物語を読んで思い出したのは祖母のことだ。もうすぐ祖母の命日がやってくる。そのタイミングで本書を手に取ったのも、何かの縁なのかもしれない。 ◆植物状態の母と娘の静かな物語 『植物少女』/朝比奈秋 植物少女 (朝日文庫) 作者:朝比奈秋 朝日新聞出版 Amazon 物語は、主人公・美桜の母が亡くなることから始まる。美桜の母は、美桜を出産した際に脳内出血で…