「ひとつだけギモンがあるの。きいてもいいかしら」妻は遠慮がちに言うが、そのときすでに彼女のすがたは鴉の黒いつばさを装っている。私は反射的にそばを逃げたくなる。しかし逃げることはできず、じっと待っている。「あなた……に行ったことがあるの?」「…………」「だれと行ったの」「…………」「だれと行ったのよ」「…………」「かくさなくてもいいじゃない。ちゃんとわかっているんだから」「わかっているんならいいじゃないですか」「いいえ、あなたの口からはっきりききたいの。あたしには、なんにも包みかくしははしないって誓ったでしょ。お言いなさいよ。あった通り、すっかりそのまま言ってちょうだい。そこだけでなしに、あなた…