はじめに|抽象の果てで、手触りを思い出す 魚の干物を作りたいと思った。どんぐりクッキーや、山菜取りといった言葉が、ふと頭をよぎった。 理由ははっきりしているようで、はっきりしない。だが一つだけ確かなのは、直前まで「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」という、通貨の極限まで抽象化された姿について考えていた、ということだ。 数字だけになった通貨。摩擦が消え、流通コストが限りなくゼロに近づいた世界。 抽象を突き詰めた思考の反動として、私は逆方向――通貨がまだ「物」だった頃へと、自然に引き戻されたのだと思う。 通貨が「物」だったという事実 塩、米、芋、豆、魚の干物。 これらは単なる生活物資である以前に、…