木乃伊の口紅:田村俊子 1914年(大3)牧民社刊。 「木乃伊(ミイラ)の口紅」という題名が妙に気にかかっていたので読もうと思った。田村俊子は幸田露伴に弟子入りした純文学作家である。季節や事物への感受性が繊細かつ鋭敏で、文章に重みを感じた。共に文学活動を志す男女の生活苦にあえぐ姿。二人では食っていけないから別れたい。作者自身の生活体験の記述に終始しているのが「純文学」そのものなのだろうが、その心境描写は見事であっても、解決が見えない閉塞感に対しては読者の心も晴れないと思った。☆☆ 「炮烙の刑」これも実人生の経験から来ているという。夫以外の男と恋愛しているのがバレて、夫は激怒し、殺意さえほのめか…