ビジネスホテル 紫峰 「うちは1泊だけっていうのは、やっていないんですよ」 私が簡易宿泊所ドヤの門を敲いた瞬間、帳場から発せられた一声である。表には「空室あり」と書かれているにも関わらず、常宿にしている客以外——いわゆる一見様はお断りのように思われた。探訪2回目で、この街は新参者に対して閉ざしているという事実をまざまざと見せつけられた。否、それはむしろ切実な生活の必要に迫られていない、好奇心という私の不実な動機を、この街の人々が責めているのかもしれなかった。 3軒目にしてようやく成約した。屋号は紫峰。「ビジネスホテル」と書かれているが、1泊2250円の破格の料金は他の簡易宿泊所と同等である。帳…