その夜、鈴の音には不思議な静けさがあった。 窓の外では、春の雨がそっと降っている。カウンターには誰もいない。マスターは奥で静かにグラスを磨いている。 しんのすけは、カウンターの上で丸くなっていた。ときおり耳をぴくりと動かしながら、ゆっくり、ゆっくり、夢の中へ沈んでいく。 ──夢のなか。 広い浜辺。潮風。どこまでも続く青空の下、しんのすけはひまわりと並んで歩いていた。 「久しぶり」ひまわりは、そう言ってしっぽを絡めてきた。 「ここ、覚えてる?」「うん。ぼく、覚えてるよ」 波打ち際で、ふたりはじゃれあった。遠い昔、夜明け前に遊んだあの頃のように。 「みんな、元気?」「うん。たまに泣くけど、でも、ち…