「もう明け方に近いころだと思われます。 早くお帰りにならなければいけません」 惟光《これみつ》がこう促すので、源氏は顧みばかりがされて、 胸も悲しみにふさがらせたまま帰途についた。 露の多い路《みち》に厚い朝霧が立っていて、 このままこの世でない国へ行くような寂しさが味わわれた。 某院の閨《ねや》にいたままのふうで夕顔が寝ていたこと、 その夜上に掛けて寝た源氏自身の紅の単衣にまだ巻かれていたこと、 などを思って、 全体あの人と自分はどんな前生の因縁があったのであろうと、 こんなことを途々《みちみち》源氏は思った。 馬をはかばかしく御して行けるふうでもなかったから、 惟光が横に添って行った。 加…