第三章 風雲急、春日山城 天正六年の正月を迎えた。輝虎様は機嫌が良くなっていた。三度目の上洛を勢いのあるうちにすべしと言う家臣の総意も取り付けたからである。 だが悲劇は前触れも無く訪れた。 三月九日には軍務会議の後、輝虎様は厠へ向かうが突然倒られた。 その後昏睡状態となり十三日に亡くなられた。 春日山城は騒然となった。 輝虎様の遺言状がなかったからだ。 その遺言状の在処は勘五郎のみが知っていた。 お家騒動の一部始終はおぼろげならまだ私の記憶の中にある。 景勝殿には輝虎様と景虎様への一方的な鬱積を抱いていた。自虐的な性格が突如攻撃的になり、自失の念に支配されていた。亡き輝虎様の景虎様への偏重的な…