野焼きの煙が市街まで流れ込んだ。駅前には焦げ臭い香りが漂う。空は雪曇りだった。 街路樹の間には、一組の男女が立っていた。女は水色のフェルト帽を被り、同色のコート、丈の短いスカートに黒いブーツを履いている。そして長身、帽子の分、並ぶ男より高く見える。男の方は茶色のハンチング帽に同色の革ジャン、下はチェック柄のスラックスにマーチンのブーツだった。季節がら、これからウィンターソングでも披露しそうな雰囲気だったが、周囲に楽器の類はみられない。代わりに、二人の間には背の高いブックラックが置かれていた。差し込まれた冊子の表紙には外国人の家族が、陽だまりのリビングで笑顔を正面に向けている。明瞭な幸福の図だが…