近頃急に冷え込んできた。墨色の敷石が早朝の雨に濡れて行き交う自動車の光をちらちら返している。百貨店のガラス戸に手を掛けた時、その縁どりの金属の角度ですら鋭さを強めたようだった。ふと、軒先から落ちたのであろう、コートの襟の内側に雨水が一滴当たり、そのままキャミソールの隙間を通して背筋へ伝った。 秋の長雨が続くためか一階は客もあまり多くはないようであった。人の声も、こういう日にはぽたりぽたりとしか聞こえぬのを良いこととして、私はいくばくか歩調を落とした。こういう午前には特に、金属のかおりがかえって肌に心地良く感じられる。足音のない大理石のフロアに、香水のブティックで、百貨店員と客が話す声が静かに反…