畳の目をつるつると滑るように小さなクモが明るい陽射しの方へ歩いていく。その庭先で雪冠の椿が、ぽたり、と一輪落ちた。雪がやっと止んで春が近づき、なのにまた雪が降りと繰り返し、もうさすがにいよいよ、と思った矢先にまた降った。この雪が最後になればいいと、晴れた午後に積もる白へ眩しく思った。まるでぼくのこれまでを辿るかの このふた月ほどの季節の行き戻りを、このまま晴れていて欲しいと願わずにはいられなかった。途中、畳のヘリに脚が引っかかってうまく進めないでいるクモを指に掬い、縁側の明るく光が射す場所にそっと降ろしてやった。クモは慌てて逃げるように、ぴょんっ、ぴょんっ、と何度か跳ね、そのまま緩い風にひゅっ…